4-33 ドロドロなのは勘弁
‥‥‥真夜中、誰もが寝静まるころ。
アルスたちも暗くなった室内にてぐっすりと眠っていた。
【キュルル‥‥アルス、良い感じ…‥‥】
「んー‥‥‥なんか、苦しいぃ‥‥‥」
本日は小さくなる薬は使用されずに、一緒に横になって寝ていたのだが、ハクロはアルスを抱き枕代わりに抱いてしまっていた。
大きさ的にはちょうどいいような、それでいて抱き心地も悪くないゆえにぎゅうぅっと抱きしめるハクロ。
そして抱きしめられていたアルスの方は、少し目を覚ました。
「‥‥‥苦しいと思ったら、かなり強めに抱かれていたのか…‥‥ぐぅぅっと‥‥‥あ、駄目だこれ、全然外せない」
背後に柔らかいものが押し付けられるので、理性との格闘をさせられたくないので何とか逃れようともがくも、全然外れない。
そもそも腕力の差があり過ぎるので、どうあがいてもほどけない。
とは言え、無理にほどく必要もないかもしれない。小さくなる薬を飲んで逃れる手段はあるのだけれども…‥‥
【アルス、アルス‥‥‥大好き、キュルルゥ】
「寝ているんだよね?」
すやすやと寝息を立てつつ寝言を言うハクロ。
その顔は何処か安心しているようでありつつ、本能的に求めているのか擦り寄っているので邪険にできない。
色々と精神的に年頃の男子としてはきついのだが…‥‥それでもまぁ、不快な視線があった時のストレスを解消できるのであれば、大人しくしていたほうが良いかも。
「でも、できればもうちょっと緩めてくれないかなぽよんぽよんとあたって心に来るし…‥‥あ、そうだ」
こういう時は、少しだけ力を抜かせるのが良いだろう。
ならば、どうするのかと問われれば‥‥‥ほんのちょっとくすぐらせてもらおう。起きない程度にしつつ、笑ったら体から力が抜けるからね。まぁ、笑いすぎて一気にベアハッグを喰らわされかねない危険もあるが、一応ハクロの糸で作った衣服を着ているので、そこそこの衝撃耐性はあると思いたい。
そう考え、手ごろなくすぐり方を模索し、抱きしめている今ならばわきが無防備だろうと考える。
「体を捻って…‥‥あ、窒息しかねないからこっちもそらして‥‥‥出来る限り伸ばせばいいかな?」
豊かな双丘で窒息させられないように避けつつ、根性で手を伸ばす。
ぐぐぐっと限界まで反りつつ近づけつつ‥‥‥ようやく指先が触れる。
「それじゃちょっとだけ、こしょこし、」
【ピャァァイ!?】
「へ?」
…‥‥ほんの少しだけ、彼女をくすぐったつもりが、どうやら想像以上に敏感だったらしい。
奇声を上げたかと思えば、次の瞬間すごい勢いの浮遊感を感じとり…‥‥
ビッタァァァァァァァァァァアンッ!!
「ごべぇっ!?」
横になって寝ていたからこそ、そこまで力を入れていなかったのだろう。
それでも盛大に天井へ叩きつけれられ、再びベッドへ落ちる前に、僕の意識は闇に沈むのであった…‥‥
‥‥‥ログハウス内で、あわや爆発四散凄惨現場となりかけていた丁度その頃。
とある都市の路地裏で蠢く者たちがいた。
「いたぞ!!独占派閥で闇ルートを利用してやつらだ!!」
「会員番号897621及び897625!!もう逃げられんぞ!!」
「犯罪に手を出している時点で、クラブ内の掃討対象以前に捕縛案件だ!!」
「ちぃっ!!すでに身がバレてしまったか!!
「数多くいる中で、的確に当てるとはこれはこれですさまじい執念と狂気を感じるぞ!!」
必死に駆け抜ける2名の愚者を追いかけるファンクラブの者たち。
様々な目撃情報を徹底的に洗い出し、そしてとある捕縛対象にある愚者たちが動こうとしていることをついにつかみ取り、こうやって出て来たのである。
「このままでは捕まってしまうぞ!!」
「こうなれば、窮地を脱するためにこれを使うしかあるまい!!」
ぜぇぜぇっと息を荒げて走りながら、愚者たちは手にもった注射器を見る。
それはほんの少し前にとある商人から手に入れた強化薬とか言う品であり、使用すれば代償に凄まじい筋肉痛を味わうと聞くが、そんな代償この状況を考えるとためらう理由にはならない。
「それにまだ5本もそれぞれ手に持っているのだ!!ここで一本、試さねばな!!」
「いざ使用する時に、まったくの役立たずは不味いからな!!」
腹をくくって体を反転し、向かってくるファンクラブの者たちを見据える。
「さてお前らには実験台になってもらおう!!」
「この薬のすばらしさを、味合わせてもらうためにな!!」
そう叫び、思いきってぶっすりと彼らは注射器を腕にさし、中身に入っていた薬液を注入する。
異常な動きに何をする気だと思い、ファンクラブの者たちは一旦足を止め、その様子を確認する。
「お、おおおおお!?なんだこれは!!すごい力が溢れてくるぞ!!」
「一つにつき3分だけというが、それでも十分すぎるほどのパワーを感じるぅ!!」
やや肥えていた体がそれぞれ引き締まり始め、その変わりに筋肉がムキムキと膨れ上がり始める。
膨張しつつ、逆三角形のマッチョな肉体へ…‥‥いや、変化はそれだけではなかった。
「この力、どんどんあふれ出てくるというが、ゴッガッギャガゴゴガアバ!?】
「異常に無茶苦茶暴れたく、ゴゴエバアデイビビビ!】
「な、なんだ!?」
「何か急に、人としての原型を捨て始めたぞ!?」
どんどんマッチョになっていくかと思えば、その体が急に崩れ去っていく。
いや違う、互に溶け合って混ざり合い、一つの怪物へと変化をして‥‥‥さらにその変化に合わせて彼らが持っていた注射器が地面に落ち、肉の塊の中へ混ざり込んでいく。
【【ゲボガボボギュゲッガバァァl!?】】
それはもはや、二人のどちらだったのかも分からない。
ただ一つ言えるとすれば、この瞬間に愚者が人を辞めて混ざり合い、一つの怪物へと変貌した事ぐらいか。
「‥‥‥こうもあっさり、使用するとは思いませんでしたねぇ」
そしてそんな肉の塊たちの変化に対して、離れた場所から彼らと接触していた商人を名乗っていた人物が観察しながらそうつぶやいていた。
「確かに、力を与えますが‥‥‥何も、人間をやめないとは言ってませんし、適用量などもでたらめでしたが‥‥‥まさか一本だけでここまでお互いに混ざりあうとは、これはこれで良いデータになりますねぇ」
やや使い処の早さが想定外だったが、それでもにやにやと浮かべる商人。
何も起きないというか、代償の話も何もかもが嘘っぱちだったが‥‥‥簡単に信じすぎる心の弱さを見誤っていたとはいえ、それでも効果を見せてくれるのは嬉しいのだ。
「まぁ、あっけなく討伐されそうな気もしなくはないですが…‥‥一本だけでしたら、そう大した強さもなかったでしょう。けれども、全部取り込んだのであれば、また別の話か」
肉塊へ飲み込まれ、その薬液がしみわたっていく様子を見つつ、商人はさらに距離を取っていく。
近くにいて巻き込まれるのも不味いし、ああなってはもう誰の手にも止められないだろう。
「さてさて、ああなると人格も最悪混ざって消失ですが…‥‥その前に抱いていた思いによって動くことは既に確認済み。となると、次は…‥‥」
肉塊の怪物の動きを予想し、商人はその様子を記録し続ける。
愚者の末路としてはふさわしかったのだろうが…‥‥これは果たして、末路へ完全に踏み入れているのだろうか?
まだまだ蠢く様子を見る限り、そう容易く終わる気配も見せないだろう。
「何にしても、帝国内で暴れてくれたらそれはそれで充分っと。さて、欲望を叶える旅路へいってらっしゃぁぁい!!」
友人を見送るように、手を振ってそう口にする商人。
そしてその視線の先には、ファンクラブの者たちへ襲い掛かる肉塊の怪物の姿があった‥‥‥
ハクロのちょっとした弱点、見つけてしまったかもしれない。
けれども弱点は逆鱗‥‥‥とまで言わずとも、やるからには相当の覚悟が必要なのかもしれないと、学ばされた。
まぁ、学びきる前に瀕死だけどね…‥‥あ、なんか神が見える…‥‥
次回に続く!!
‥‥‥なお、首だったらバックドロップ、食指裏であれば金的予定だった。さて、どれが一番マシなのか?
いや、どれも酷い結末だが…‥‥
新作ちょい手直し構想中。多分週末ごろには出せる予定。他作品でのキャラクターが勝手に出てくるのを本当にどうにかこうにか防衛中デス。