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4-32 ありきたりなジムだけれども

 引き籠っている中で、作り上げてしまったジム。


 おかげで室内にいながらも運動が可能であり、ストレスの発散に役立っている。


 体を動かして運動不足を解消し、スッキリできるのは良いのだが…‥‥


【キュルル、回し車、これ面白いかも!】

「ルームランナーが動かないからね…‥‥これで代用をと思ったけど、案外楽しいかも」


 がらがらがらっと壁に生えている回し車に乗りつつ、僕らは駆け抜けていた。


 ハムスターになったつもりはないが、案外楽しいものである。


 とは言え、こういう回し車と言えば一度コケると…‥‥



コケッ

【あ、キュ、キュルルルルルル!?目が回るぅぅぅぅぅ!!】

「ハクロが物凄い大回転!?」


 勢いというのは中々止めづらく、先ほどまで走っていた勢いでハクロが盛大に回し車の中を転がっていく。


 止めようと思ってもすぐには動けないし、そもそもどうやるべきかもわからない。


 どうしたものかと思いつつ、ひとまず回し車から降りて見ているしかなかったが、数分ほどであっけなく回し車の勢いは落ちていき‥‥‥ようやく停止した。


「ハクロ大丈夫?」

【キュルルヒュルルル‥‥‥め、目が回って、なんかアルスが一杯見えるぅぅ?】


 ふらふらと立ち上がり、そう答えるハクロ。


 漫画表現のごとく、完全に目がぐるぐるマークになっている珍しい姿を見るのであった。







【キュルゥ‥‥‥うえっぷ…‥‥まだ、立てない】

「だいぶ回っていたもんね‥‥‥本当に大丈夫?」


 ひとまず落ち着くために、一旦彼女には寝てもらった。


 完全にひっくり返って蜘蛛のお腹部分も見せている状態で、頭の方を僕の膝の上に乗せるのはこれはこれで珍しい光景かもしれない。


【回し車、あんなに回るとは、思わなかった…‥‥コケる、危険すぎ】

「コケてからの見事な流れだったもんなぁ…‥‥」


 ぐるぐるぐるっと回されて、洗濯機に突っ込まれたかのような感じだったからね。


 あそこまで大回転するとは思わなかったが、現実なんだよなぁ。


【キュルル‥‥‥アルスぅ、もうちょっと頭、のせさせて】

「良いよハクロ」


 ぐいっと頭を上にずらし、僕の方へ寄り近付くハクロ。


 くっつきたいのもあるのだろうが、今は体調的に本当にやられたのだろう。


 目の方はいつも通りに戻っているが、それでも全体的にちょっと青ざめているのは直っていない。


 というか、青くなったハクロもまた珍しいような‥‥‥いや、珍しがるのはやめておこう。本当に体調が悪くなったんだろうしね。


「しかし、コケるなんて思わなかったけれど、ここまで盛大にやらかしたし、回し車撤去する?」

【んー…‥‥しなくていい。あれはあれで楽しかったし、気を付けて挑めばいい話し】


 ちょっと考え込んだが、提案を却下される。


 まぁ、どんな器具も使う人次第だし、きちんと気を引き締めて注意深く使えば問題ないだろう。


【また遊びたい…‥‥駆け抜けるの、楽しい…‥‥キュルゥ‥‥‥】


 そうこうしているうちに横になっていると今の体調的に眠くなってきたのか、ハクロが欠伸をする。


「眠いなら寝たほうが良いよ。ちょっと昼寝をすれば、多分治るよ」

【でも、いつもは私が、アルスのベッドに…‥‥】

「こういう時位は、僕の方に体を預けなよ」

【‥‥‥うん、そうする】


 無理して動かなくても良いし、このまま寝てもらえばいいだけだ。


 ちょっとばかり後で足がしびれそうだが…‥‥それでも、彼女が元気になってくれる方がいいからね。いつもなら蜘蛛の背中部分に寝かせてもらったりしているから、乗って寝るのはまたの機会に。


「とりあえず、ちょっとした昼寝だけどゆっくり休んでね、ハクロ」


 既に寝息を立て始め、すやすやとハクロは眠りに着いた。


 その寝顔を近くで温かく僕は見守るのであった‥‥‥‥












「…‥‥それで、話は本当なんだろうな?」

「ええ、間違いなくあなた方の手助けを行いましょう。これも世のため人のため、役に立つために働くためですからねぇ」

「何か後で要求するとかはないのか?」

「無いですねぇ。我々は本当にあなた方を助けようと思っているだけなのです」


‥‥‥アルスがハクロに膝枕をしていた丁度その頃。


 とある路地裏の建物の中では今、取り引きが行われていた。


「ああ、でもやるのであれば一つお願いがありますかね」

「というと?」


 現在逃走中の身である独占派閥の者たちは、今回取引を持ち掛けて来た商人を名乗る人物の言葉に、耳を傾ける。


「今回、あなた方にお渡しさせてもらった薬は、確かに超人的なパワーを与えてくれますが‥‥‥効果は一本につき3分間程度と短いのです。多量の摂取は避けて、本当に必要な場面でお願いいたします」


 手渡された薬を見つつ、その説明を受け取る愚者たち。


 今回の逃走劇において、一発逆転の手段を提案されたが…‥‥その手段をとるために必要な道具として渡された薬は、どうやら副作用があるらしい。


 話を聞くと重度の筋肉痛を引き起こすらしいが、そんな程度であれば使うのは問題ないはずだ。


「ああ、わかった。必要な時だけに使うことにしよう。…‥‥念のために聞くが、多量接種をした場合は?」

「その筋肉痛が、100倍ぐらいになりますねぇ。そうなるとまともに動けなくなりますので注意です」


 忠告を受け、薬を握り締めて頷く愚物たち。


 一応これでも薬物関係の扱いはしているので、用法容量が守られない危険性などを理解しており、渡された分以上を要求はしない。


 愚者は愚者でも、その程度の判断が出来たが‥‥‥‥それでも、この状況に陥ったのが自業自得だと思わない限り、評価は覆らない。


「何にしてもだ、世話になった。それではこの薬で、我々が無事に帰還した暁には取引を改めて行い、繋がりを持っておきたい」

「ええ、では無事に帰還できることを心より願っておきます」


 愚物どもが部屋を出る際に、そう告げる商人。


 そして完全に部屋から出て行ったあと‥‥‥商人と名乗ったその人物は、愚者たちの動向を見守り始める。


「‥‥‥まぁ、そもそもパワーアップすると言っても一時的で、副作用は筋肉痛ではないんですがねぇ…‥‥」


 くくくっと笑いつつ、真実を少し混ぜた嘘で容易く騙された愚物たちに、彼らは笑みを浮かべる。




‥‥‥この世の中、確かに優しく手をさし伸ばしてくれるものはいるだろう。


 けれども、そのやさしさの裏腹で、悪しきことを企む人がいるというのも、残念な事実。


 愚者たちは差し伸べられた手を取ったが‥‥‥‥どうやらその残念な方になってしまったようであった‥‥‥‥


「一つ打てば、確かに超人的なパワーを得られる薬。でも、何も人のままで(・・・・・)得られるとは、言ってないんですよねぇ」


人の手で、裁かれる前に自ら裁かれる気なのか。

いや、裁かれるべきことを理解できないものになってしまうだけなのか。

甘言というのは、その裏が存在しており…‥‥騙されたと訴えたくとも、それはもう遅いのである‥‥‥

次回に続く!!



‥‥‥人ってなんで、誘惑に弱いのかなぁ?

やってはいけないと思ってもやる人はいるし、何でかなぁと思う今日この頃である。


いや本当に、誘惑怖い。可愛いペットが滅茶苦茶甘えてくるせいで、筆乗りにくい。

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