4-25 色々と活かしつつも
‥‥‥再度の襲撃に警戒をしつつも、徐々に月日が流れていき、夏季休暇の時期が迫って来た。
例年であればモンスター研究所で過ごしていたのだが、高等部へ進学した今年度はその予定を変え、しっかりと領地へ戻って過ごすことにしていた。
「というか、大体の貴族の生徒は同じ予定なんだよなぁ…‥‥次期当主になる人ほど、自領で過ごして経営に携わるらしいからね」
【キュル、皆自領で過ごす人多い】
高等部ともなれば、将来のことに関して考える人は一気に多くなるだろう。
次期当主を継がないと決まっていれば、就職先をしっかりと探し始め、まだどうなるのか不明なものは争いつつもしっかりと自分達が当主になれない備えをしておく。
何も男子ばかりが次期当主になるのではなく、女子生徒の中には女男爵とか伯爵とかになる人もいるが、そうでないならば貴族家同士のつながりとしての婚約者と絆を深め合ったり、あるいは社交界の場に出るために己の武器を磨く者も多くでる。
平民ともなれば更に色々と選択肢を考えて動くが‥‥‥‥この学園の生徒で共通するのであれば、皆自主的に考えて動き合い、どうなっても良いように対策を取っておくという事だろうか。
「他の国だと、血で血を洗う様なドロドロさや蹴落としあい、自分は確実に継げるだろうという慢心から遊び惚けるらしいって話をリリから聞いたけど…‥‥こうやって見ると、帝国の者たちの方が心構えが出来ていると言えるよね」
なんというか、慢心せずにしっかりと考え、動ける心構えが出来ているという感じか。
流されて進むことなく、自分自身で考えつつ、できないことがあれば即座に教員などに相談したりして対応したりするようになっているからこそ、自主性が育まれてもいるのだろう。
まぁ、そう思いつつも僕らの方も自主的に考えて動いていたりすることもある。
「それでハクロ、一応研究所の方からも手紙が届いていたっけ」
【うん、所長お婆ちゃんからの手紙で、融通してくれるって!】
僕もまた、領地を経営する身となる以上、しっかりと次期当主として考えて動くべきことがあり、少々試したいことも増えてくる。
その中で今回、この夏季休暇の間に試験的な運用を試みている施設があるのだが…‥‥どうやらモンスター研究所の方からは良い返事がもらえたようだ。
「失敗するかもしれないけど、やって見てこそだからね。成功すれば良い特産品が作れたりするし、何かと世話になっている研究所へのデータ提供などもできるからこそ、しっかりしないとな」
【うんうん、所長お婆ちゃんたちへ、お礼するいい機会になる】
僕の言葉に同意して頷くハクロ。
まぁ、あの研究所で過ごすのも楽しかったけど、何かと世話になっているからこそ恩を返したいと思う部分もある。
それに、ドマドン所長もそこそこな年齢だからなぁ…‥‥親孝行ができない身だからこそ、お婆ちゃん孝行を今のうちにして置きたいのである。
‥‥‥血のつながりがないお婆ちゃんというのもなんだが、うん、何と言うかお婆ちゃんとも呼べるからね。
ひ孫がいるお婆ちゃんなドマドン所長だけど…‥‥あの容姿で本当にいるのかと疑いたくもなる時があるけどね。
なお、この件に関しては研究所の職員へのちょっとした心遣いもあったりする。
というのも、ドマドン所長は最近ひ孫が活発化してきたせいなのかひ孫馬鹿になりつつあるようで、何かとその話が多くなってきているらしい。
辟易しているけれども逃げようにも逃げきれず、出来れば研究に没頭してくれればいいと職員の人達は思っているらしいからね。この件がうまくいけば、ひ孫の話題を減らせるという予想が出来て、協力的になっていたりするのだ。
とにもかくにも、もう間もなく近付く夏季休暇。
今年の休暇は色々とやるべきことがあるけれども、心構えをしつつ、準備もより丁寧にやっておくのであった…‥‥
「ところでハクロ、最近糸で色々とやっているのを見るけど、何を考えているの?」
【前に遭った襲撃者に関して、攻撃方法の模索だよ。お母さんの攻撃方法に、どうにかするヒントがあるみたいで、思い出しながらどうにかできないか試しているの】
‥‥‥ハクロの母親の攻撃方法ねぇ。話を聞く感じだと、どうもギガマザータラテクト…‥‥その祖先は色々とあるらしいけれど、何か利用できるものでもあったのかな?
「‥‥‥むぅ、今年はここに寄らないようじゃが、それでも会う機会があるから良しとするかのぅ」
「ええ、そのようですがしっかりと依頼された以上、こちらも準備をしなければいけませんからね」
アルスが夏季休暇の予定を考えている丁度その頃、モンスター研究所の方では所長含め職員たちが様々な準備を進めていた。
残念ながら今年の夏はアルスたちがここに滞在することは無いらしいが、その代わりにやってもらえることがある。
データの収拾にも役立つし、場合によっては所長の考える割合がその事になってひ孫話が減る期待もあって、職員たちの気の入りようは高いだろう。
「それでも、健康診断ぐらいはして欲しいのじゃがなぁ。ハクロの成長の様子を見る限りじゃと、もうそろそろ成体になってもおかしくないからのぅ」
「あれでまだ、成体と言えないのですか‥‥‥」
「見た目は完成された美女でもあるのに、大人じゃないってことでしょうか?」
「うむ、そうなのじゃ。モンスターの大人としての基準は色々と違うのじゃが…‥‥彼女の場合蜘蛛のモンスターとしての条件を当てはめると、実はまだ子供じゃからのぅ」
ふと出てきた所長の言葉に職員が問いかければ、彼女はそう答える。
「そもそも、体の構造自体が大きく変化している時点で通常の成体基準に当てはめて良いものかと思うところもあるのじゃが、それを無視するのであればまだいくつか出来てない部分があるからのぅ。そう考えると実はまだ子供とも言えるんじゃよ」
「いくつか?例えば、何があるのでしょうか?」
「模様じゃよ。タラテクト、スパイダー‥‥‥蜘蛛のモンスターは様々な呼称や種類が存在するのじゃが、成体になる基準の一つに共通していることとしては、模様があるのじゃよ」
蜘蛛の腹部分というか、背中にできる模様の変化。
大抵の蜘蛛系のモンスターは大人になると同時にその模様の変化が起きるそうで、ある程度変貌して固定化されたところが、大体成体になった頃合いとされるらしい。
ハクロに関して言えば、モフモフな毛並みのある蜘蛛の体部分にある模様が大きく変化してそのままになれば大人の仲間入りと言えるらしいが…‥‥微細な変化は起きているとはいえ、それでもまだ完全ではないそうだ。
「とは言え、脱皮の度にわずかに変わっていたのじゃが、ここ最近届けられる脱皮後の皮の模様をみると、変化がだいぶなくなったのぅ‥‥‥‥成体にもう間もなく近付いているのじゃろう」
「それじゃ、他に成体の条件の基準としては何があるのでしょうか?」
「簡単な話しじゃ。子がなせるか否かじゃ。‥‥‥‥とは言え、その部分に関しては彼女の場合、わからなすぎるんじゃよなぁ…‥‥」
条件の一つにあるその内容に、職員たちは納得する。
蜘蛛のモンスターが子を成すのであれば通常の場合卵を産むのだが‥‥‥‥人の身体も持つハクロの場合、それがどうなるのかが不明である。
卵生なのか、それとも胎生になるのか、はたまたその中間というべき部分になるのか…‥‥現状、彼女のお腹にへそがない点を見ると卵生の可能性もあるのだが、それでもどうなるのかが予想できないのだ。
「皇帝陛下も法改正などに動いて、配慮しているようじゃしな…‥‥このままうまいこと進めば、卒業後に挙式を上げるじゃろうが、そのあとにどうやって子を成すのかが儂としては気になるのじゃ。孫がひ孫を産むようなものじゃからのぅ‥‥‥」
(((…‥‥あれ?もしかしてこのまま子供が出来た場合、新しいひ孫話が爆誕しかねないか?)))
考えこむ所長の姿を見ながら、ふと出てきた可能性に職員たちは嫌な予感を覚える。
自分達としても、彼女に子供ができたらそれはそれで喜ばしいと思えるのだが…‥‥新しいひ孫話が出来上がってしまうのではないかという可能性が出て来たのだ。
いや、流石に血のつながりのない相手をひ孫と言えるわけもないのだが…‥‥それでも、この所長であればやりかねないと職員一同不安を抱く。
とにもかくにも今日直ぐに子供が出来るわけでもないし、どのぐらいかかるのかわかっていないし、不確定な未来であるために話題にしないほうが良いかもしれないと結論付け、一旦話を切り替えて余計なひ孫地盤話が引き出されないように職員たちは動くのであった‥‥‥
「そ、そう言えば所長、以前襲われたという話からここへ持ち込まれたサンプルに関してなのですが、何か発見などはあるでしょうか?」
「ああ、孫のような彼等へ襲撃をした化け物のやつじゃろう?色々と分かって来たのじゃが…‥‥胸糞悪いものしか出てこんかったな‥‥‥‥まぁ、もう間もなくそれも消えるじゃろうがな」
「え?どうしてですか?」
「儂も入っておるファンクラブから出て来た、最高幹部たちの発表を聞かなかったのかのぅ?」
「「「「‥‥‥ああ、そういえばそういう話がありましたね」」」」
‥‥‥そしてついでに、いつの間にか研究所の9割ほどの職員がハクロファンクラブに入隊しているという事実も出て来たのだが‥‥‥その事に関しては、アルスたちに知る由はないのであった。
じわりじわりと迫りくる夏季休暇。
今年度は領内で過ごし、実験も行う。
色々とやることが多いけれども、全部うまくいけばいいなぁ…‥‥
次回に続く!!
‥‥‥ところで何やら、襲撃者からの悲鳴が聞こえてきそうな予感