4-24 分析はしているけれども
「…‥‥つまり、同一の者たちが関わっている可能性があるということか」
「可能性がある、というよりも確定じゃな」
「この細工は流石に、そこいらに転がっているわけではないと思うぜぇ」
…‥‥アルスたちがサイクロプス・怪による襲撃を受けて2週間後。
帝国中のあちこちの研究機関でまとめられた結果に関して現在、それぞれとある機関からやってきた博士とドマドン所長がそろって、皇帝の前で報告を行っていた。
帝都内に侵入し、人知れずに狙ってきた怪物、サイクロプス・怪。
そう仮称したのはアルスだったが、敵の容姿などを考えるとなかなか当てはまっているために正式に採用されて名付けられたが…‥‥掘り起こされて解剖された遺体を調べて、あちこちの研究機関で同じ結論が出た。
「怪、と付けられたわけじゃが間違ってないじゃろう。ベースとしてはサイクロプスがなっているのは間違いないないようじゃからな」
「とは言え、そのベースに加えて人為的な細工が施されて、あのような怪物に成り果てているようだけど‥‥‥以前にあった、人間が怪物へ成り果てたもののサンプルから得たものと比較すると、構造式などが似ていることが判明したぜぇ」
博士の言葉に対して、皇帝が頭に浮かべるのはまだ記憶に新しい事件。
アルスの兄であったとある愚者が脱獄していた事件ではあったが…‥‥その時に捕縛した愚者の細胞に施されていた改造と、今回の怪物に施されていた細工を調べて見たところ、非常によく類似していたそうなのだ。
なお、その愚者に関しては実はすでに息を引き取っているのだが、一応元家族であったことも考えてアルスには知らされていない。いや、知ったところで抱く感情もないだろうが‥‥‥‥
「このような改造方法は、他に見ないぜぇ。帝国指定危険組織トップ10からも洗って調査したのだけれども、どこの組織でも扱っていないことが分かっているぜぇ」
「人為的なのは間違いないのじゃがな。普通に暮らしていてこんな変貌を起こすこともなく、最近の研究に加わった月による影響での変化とも比べても、まったく別物と断言できるじゃろう」
つまり、何者かが確実に手を加えて生まれた化け物だという結論が出る。
しかも、色々と詳しく解剖したところ各所に極小の高精度な魔道具が設置されており、その魔道具の効果によってある程度のコントロールが可能になっていることも判明していた。
「…‥‥今回は一体だけだったが、複数出てくる可能性もあるのか」
「そのはずだぜぇ。しかも、ある程度の自由思考は可能な感じもするのだけど、統率の取れた軍隊のような動きも可能になるようだぜぇ」
「攻撃の当たらなさに関する報告は、この魔道具が関係しているようじゃしな…‥‥一斉に出てきたらそれこそ地獄絵図な光景が広がるのは間違いないじゃろ」
簡単に予想できることに関して、場の空気は重くなる。
「そもそも、彼らを狙ったことに関しては…‥‥どう見る?」
「実力試し、と言えるぜぇ」
サイクロプス・怪がコントロール可能な化け物だというのは分かったが、それならなぜアルスたちを狙ったのか。
その事に関しては、簡単な実験のようなものだという結論が出る。
…‥‥そもそもの話、アルスはさておき、ハクロの戦闘力に関してはずば抜けて高い。
本人が争いを好まない性格とは言え、魔法の扱いやその魔力量、糸やその他自由な発想による攻撃手段など、その戦いの幅は多彩なものになる。
強さだけを考えるのであれば帝国内でかなうものが数えるほどしかいないのだろうが…‥‥その相手に対して戦闘を挑ませることによって、ある程度の帝国との戦闘を想定しての、余裕を持って上回る強さの怪物たちを作る準備を行っていた可能性があるのだ。
「強さを調べつつ、怪物の扱える範囲やその実力を調べ上げ…‥‥どの程度使えるのか、というのを確認していたとも言えるぜぇ。とはいえ、多分これはまだ、弱い方だぜ」
解剖の結果、どうやら怪物の発育状態は余り思わしくないようで、もっと余裕があればより強さを増していた可能性があるだろう。
それなのに今回の襲撃に使っていたことを考えると、強さの予想を立てやすくしたかったのかもしれない。
何にしても、何やら異様な怪物を作り出せるような者が存在しているという事実が、今回の件で一気に浮き彫りになった。
技術力だけを見てもかなりの脅威であり、そんな個人とかで出来るレベルではなく…‥‥明らかに何かしらの大きな組織が蠢いている可能性が示唆できた。
「何にしても、今後に警戒をという位しかできないぜぇ。こんな怪物、襲われたらお終いだからなぁ」
「儂としても、まだ何も言えぬのじゃよなぁ‥‥‥‥モンスターという枠組みを大きく外れたような怪物は専門外になるからのぅ」
それでもなお、まだまだ分析出来る事はあるので、今後も分かったことがあればすぐに報告を行うようだ。
だが、それでも怪物が今後も出てくる可能性を考えると、余り思わしくない未来しか見えない。
どこの誰が引き起こしたのかは知らないが、やらかしてくれた非常に面倒な問題に、皇帝は頭を抱えたくなる。
少しばかり毛が抜けるような気がしてきて、深い溜息を吐くのであった…‥‥‥
「はぁぁぁ‥‥‥何故、こんなことをしでかす輩が出てきたのだろうか」
「敵を多く作っているからというのもあるぜ」
…‥‥皇帝が抜け毛と怪物による心労で頭を抱えている丁度その頃。
襲撃事件から落ち着き、アルスたちの日常は戻っていた。
いや、正確に言うのであればちょっとだけ変わっており…‥‥
【キュルルル!出来たよアルス、新しい衣服!】
「おー…‥‥って、あまり見た目が変わらないけど、これでかなり身の安全が保障できるのかな?」
【うん、私の糸、編み方変えて、ちょっと強化した。より確実に身を守れるはず!】
ちくちくと作っていた服を掲げ、そう説明してくれるハクロ。
どうやらあの襲撃を経て色々と考えることがあったようで、僕らが来ている衣服の強化から手を出してきたらしい。
その他にも、目に見えなくなる魔法の発展や、攻撃が通じない相手に関して通じさせるための手段を考えているようで、練習している姿が多くなったような気がする。
「まぁ、僕の方もある程度対策が出来るようにしているけれどね…‥‥」
目に見えない相手に対しての見える手段や、攻撃が通じない相手に対しての攻撃を通じさせる手段を模索しつつ、色々とこちらも取り組んでいたりする。
互いに守りたいし、また同様の事件が起きても疲れ果てたくはない。
そのため、再びの襲撃に備えて前もって準備をして置くことで、面倒事への負担を減らそうとしているのであった‥‥‥‥
再び同じことがあっても嫌だし、直ぐに対処できるように備えておくべき。
国に丸投げもしているところもあるけど、やっぱりおお互いに傷つくようなところは見たくないからね。
そのためにも準備を考えるが…‥‥まずは周囲が動き出すらしい。
次回に続く!!
‥‥‥そもそもね、こんなことに対して黙っている人たちがいるだろうか?いや、むしろ見逃していて危ない目に合わせてしまったことに、自らを許せずに動く者たちが出るだろう。
ついでに現在2作品連載中だけど、もうそろそろその一つが終わりそう。少しの間こっちに集中するかもだけど、新作の構想もちょっとできていたりする。リメイクかそれとも完全新作か‥‥‥