4-6 警戒し続けるのも疲れるので
「…‥‥警戒し続けるのは良いけど、やっぱり気が滅入るよね」
【キュル、今のところ、まだ反応ないし‥‥‥来るなら来るで、さっさと終わってほしい】
警戒態勢を強めて数日が経過したが、今のところ元兄であったラダーの情報に関しては、入ってきていない。
まぁ、場所が場所だけに直ぐに到達するという訳でもないだろうし、そもそも確実に来るという確信もないのだが、それでも警戒するに越したことは無いだろう。
けれども、注意すべきだというのは理解しても、完全にできるかと言われればそうでもない。
そもそも既に赤の他人と化している相手に対して、そこまで気を配りたくもないのである。
そのため少々飽きが来つつ、こういう時こそ油断できないと分かるのだが…‥‥それでも、どことなく精神的に疲れてくるだろう。
なので、警戒を怠らず、なおかつ万が一が合っても対応可能であり、そして精神的に癒すためにも‥‥‥
「繭のように周囲を糸のテントで囲って、ハクロの背中に寝転がっておくのが一番か」
【外の様子、糸で分かる。アルスぴったりくっつく、中々良い感じ♪それに、糸でちょっと作った人形の様子も分かる♪】
ついでに言うのならば邸の中であり、何かあればゼバスリアンやその他の使用人たちがすぐに連絡をよこすようにしており、通信用の魔道具も存在していたりするがあれはあれで高価なので、原始的だが邸中に糸電話での簡易的な遠距離連絡手段も取っており、情報に遅れが無いようにして備えている。
慌てることなく、落ち着いてどっしりと構えてしまうことで、不安感も減らせるだろう。
ついでに、ハクロの魔法でちょっと試験的にある事もやっている最中でもあるしね。
【アルス、カバンの方も、全部作り終わった。領内の全ご家庭に、配布できる】
「薬の方も、しっかり詰め合わせて、護身させておかないとね」
まぁ、この世界には普通に強盗とか山賊とか、そういう類の犯罪者がいないわけでもない。
領内の治安は良くしているのだが、それでも完璧ともいえないし‥‥‥だからこそ、各自ができる限り身を守る手段を持てるように、護身用に役立つ薬の品々の配布の用意もできてきたところだ。
なお、今回の件を無事に乗り切れたら、これはこれでこの領地から各地へ出せる特産品にもできるかもしれない。僕のチートで生み出したものではなく、それなりに効果が似た程度の廉価版を詰めたものになるだろうが、お手軽な護身方法としては良いかも。
対策として解毒剤とかも出てくるだろうが、それはそれで色々なものに対応できるしねぇ。
何にしても、ゆったりと余裕をもってラダーが来たら対応したい。
油断せずに潰すだけだが‥‥‥‥ライオンはウサギを狩るのにも全力を尽くすと言うし、しっかりとね。ウサギの例えには絶対に合わないかもしれないが。
そう思いつつも、今はしっかりと用意しておいて、癒されておこう。
ハクロの蜘蛛のモフモフは、本当に居心地が良いのだから。
「…‥‥というか、このモフモフこそが全世界平和の鍵になるのではと思う時もある」
【そうなの?】
間違いないだろう。モフモフの虜になるのは万人万国万世界共通だと言えるのだから。
とは言え、彼女のふわふわを再現する薬は難しいし、天然物は格が違うというのか‥‥‥恐るべし、モフモフふわふわな存在。
【でも、私アルスがくっ付いてくれるの、嬉しい。アルス温かいし、私、アルス好きだもの♪】
嬉しそうにそう口にしつつ、彼女はささっと手を動かし、糸を操り始めた。
ちょっと実験をしている最中だし‥‥‥そこにも集中してもらわないとね。にしても、本当に彼女は心地が良いよなぁ…‥‥
‥‥‥アルスがハクロの背中に堕落していた丁度その頃。
領地の外側…‥‥もう間もなく到達出来そうな道では今、とあるものが突き進んでいた。
それは人でありつつも、人を外れた存在。
やり直す機会があったはずなのに、その機会を自ら放棄し、目の前の自身の欲望を満たすことだけに溺れてしまった存在であり、今はその欲望を満たすためだけに蠢いており…‥‥雪道を爆走していく。
けれども、その姿が誰にも目撃されないということは無い。
というかそもそも、どう考えても目立ちまくりな姿へと変貌を遂げてしまった存在なのだから。
そしてその光景を見た者たちのなかに‥‥‥すぐさま伝え、彼らは動き出す。
道から外れたそこは雪が積もっているのに、沈むことなく、弾むように。
それでいて、何処か愛嬌のあるような姿だが、可愛らしい見た目になっているだけではない。
色々と監修を経て、試験的に導入されていた彼らは今、その働きをついに見せる時が来るのであった…‥‥
一番安全なのは、我が家の中。
出来れば遭遇したくないし、出会わずに終わってほしかった。
でもまぁ、直接向かわなくても済む手段も、今実験しているしね‥‥‥♪
次回に続く!!
‥‥‥ハクロのふわもこな蜘蛛の背中、時々そこで寝たくなる。
昼寝の時とか、ちょっと眠気が来た時とか、絶対に寝心地がいいからなぁ…‥‥主人公が羨ましい。