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3-56 たまにはマジでやってみることも

――――見つけた。


 あれこそが、本能的に探し求めていた情報の多いものだ。




 ソレはそう思ったが、直ぐに手に入れることはできないと理解する。


 なぜならば、その者に対して、別の者が守るように威嚇しており…‥‥そちらはそちらで感じ取れる情報量も多いが、実力もかなりあるという事も分かるのだ。


 けれども、ソレ自身が…‥‥ショゴススライムが引くこともない。


 求めるのであれば、障害物が出るのは当然のことであり、それを乗り越えなければ得られない物もある。


 ここまで色々と喰らいつくしてきた中で、その事は理解できており…‥‥戦闘態勢へ移りだす。


【‥‥‥ギュルルルルワアアアアア!!】

【シュルルルルル!!】


 全身を震わせ、初めて出した大きな咆哮に対して、目の前の障害となりうるものも威嚇音を出したようである。


 互いに戦闘態勢へ移り、攻撃をし始めるのであった…‥‥








「‥‥‥うわぉ、相手の姿が見えぬ分、戦闘が見にくいのじゃ」

「さっさと避難したけど、これはこれでどうなのさ?」


…‥‥ハクロとショゴススライムの戦闘が始まったところで、ドマドン所長たちは別室へ移り、監視の魔道具を使用して観察を試みていた。


 ショゴススライムの姿は目に見えず、どこにどのようにいるのかと言うのがわからないが‥‥‥幸いというべきか、素早くハクロが室内中に蜘蛛の糸を張り巡らせたようで、その糸の溶解具合でどの場所にいるのかが予測できる。


「しかし、コレは真剣な戦闘じゃな…‥‥」


 ショゴススライムのいる場所へ向かって、魔法を連発するハクロ。


 糸の攻撃を得意とするのだが、最初に数発ほど放って効果がないのを見たところで魔法攻撃に切り替えつつ、定石な行動と言うべきか魔法をいくつか使って何が効果的なのか見定めているらしい。


 雷撃に氷結、風の刃、光線…‥‥魔力消費量が激しすぎる火の魔法以外をまずは試しつつ、相手の攻撃を糸を伝って回避し、背中に固定しているアルスを起こさないように動く器用さを見せる。




【シュルルル!!シュルルルルル!!】

【ギュルルルワァァァ!!】


「‥‥‥威嚇音を出し続けつつ、相手側の咆哮にも負けておらぬようじゃが…‥‥ショゴススライムってどうやって声を出しているのじゃろうか?」

「ああ、おそらくスライムであってスライムではないというが、スライムのような方法を使っているからだと思うのさぁ」


 スライム自体に口はないが、体中を震わせて、その振動で音を伝えているらしい。


 咆哮を上げ続けている理由に関しても、スライムの咆哮が振動によって生じることから振動波と言うか、攻撃方法の一種となっている可能性もあるようで、その証拠に床や壁の一部が砕けている。


 体当たりで何もかも取り込んで溶解しているが、それ以外にも出てきた音による攻撃。


 また、スライムであってスライムではないというが、それでもスライムと言うべき特性がある以上、他の攻撃も出すようだ。



【シュルルル、シュッルッツ!?】


「ぬ?なんじゃ、今ばっと飛び跳ねたような‥‥‥」

「ふむ‥‥‥見えないけど、おそらくは何処かで分裂したかもしれないのさぁ。ほら、いた場所が溶けているのさ」


 スライムは液体と固体の中間のような性質を持っているものもいるが、どうやらショゴススライムもその性質を持っているらしい。


 自身の一部を細く伸ばして触手のように扱ったり、あるいは一部だけ分裂させて背後から奇襲をかけるなど、様々な方法を持っているようだ。


 監視の魔道具で映し出されている映像を細かく見れば、どうやらショゴススライムは分裂の手段をとった可能性がある。


 あちこちの溶解された跡が増えてきており、あちこちを飛び跳ねているらしい。


 それに対してハクロの方は糸で防衛を行いつつ、感知しては魔法で潰そうとしているようだが‥‥‥このままでは多勢に無勢。


 そもそも、地下に存在する部屋の範囲は限られており、自由に動ける範囲は余り無い。


 もっと広い空間‥‥‥理想を言えば木々が生い茂る場所こそがハクロの戦闘力が最大限引き出されるのだろうが、ここではかなり制限されてしまう様子。



ジュッツ!!

【シュッ!!】


 動きにくさゆえに回避が遅れたらしく、ハクロの蜘蛛の足の一つが、一瞬溶ける音を出した。


 素早く離れたようだが、どうやら掠める間にも溶解力を増されていたようで先が少しだけ溶けていた。


【シュルル…‥‥戦いにくい!!場所、変える!!】


 だぁぁんっと残った他の足でジャンプしたかと思えば、ショゴススライムが最初に侵入してきた穴に彼女が飛び込み、駆けあがり始めた。


【ギュルルルルル!!】


 そして彼女か背中に背負われているアルスを狙っているのか、ショゴススライムも後に続く。


「ぬ?どこに行く気じゃ?」

「画像を切り替えるのさ!!」


 研究所の外へ、地上へ出てしまえばこの様子を見る限り都市に被害が出る可能性もある。


 そう考えると不味くもあり、慌てて後を捜してみれば…‥‥研究所の中でも、ある広い場所へ、彼女は戦場を移していた。


「‥‥研究所、門のある広場かのぅ」


 そこは、地上にかなり近い研究所の出入り口である門がある場所。


 地下にあるとはいえ一番広い場所であり、そこでは飼育されているモンスターが時たま放牧されるほどなのだが‥‥‥その分木々も生やしており、立体軌道を活かすにはうってつけの場所とも言えた。


【反撃、開始!!】


 びゅばっと糸を飛ばし、木々に素早く張り巡らせるハクロ。


 その間にショゴススライムが駆け上がり、彼女へ襲い掛かろうとしたようだが‥‥‥その手前で、糸を引っ張ってハクロは後方へ下がる。


【シュルルルルルル!!】

【ギュルル!?】


 狭い室内とは変わって、広場の木々を利用してハクロの機動力が一気に向上する。


 素早い動きが横だけではなく、縦にも斜めにも動き、素早さを増す。


 蜘蛛本来の戦闘方法と言うべきか、糸を使った特徴的な立体軌道。


 縦横無尽、あちらこちらに素早い動きの中で瞬時に留まり、影分身とでも言うべき様な残像を多く生み出して攪乱させていく。


 そしてさらに、糸を魔法でコーティングでもしたのか溶けにくくなるような工夫を施したらしく、徐々に糸でショゴススライムの身体が覆われ始め、白い糸の肌として徐々にその姿を浮き上がらせる。


「おおぅ、なんかすごい動きと言うか、場所を変えただけでここまで変わるとは…‥‥彼女のポテンシャルは想像以上だというのかのぅ」

「しかし、あちらはあちらでまだやる様子なのさ」


【ギュルグワァァァァァ!!】


 大きな咆哮をさらに強めたかと思えば、ばきべきぃっと嫌な音が響き渡った。


 視点を移してみれば…‥‥天井に、ひびが入っていた。


「ちょ、まさか!?」


 その現象に、次の瞬間何が起きるのか察したドマドン所長。


 しかし、察したところで止めようがなく‥‥‥無残にも天井が崩れ始める。


「緊急事態!!天井が崩落し始めたのじゃ!!総員、緊急地上脱出艇で逃げるのじゃぁぁあ!!」

「「「「いそげぇぇぇえ!!」」」」


 地下にある以上、ココが崩れて生き埋めになる可能性はあるだろう。


 また、研究所が万が一にでもヤヴァイ輩に攻めこまれて落ちてしまうようなことがあれば、それこそ非常に不味い事態にもなりかねず、自爆装置というのもついていた。


 なので、そのようなことになる事も想定して、いざという時の地上脱出用の備えはしていたが‥‥‥どうやらこのタイミングで使用する機会が来てしまったらしい。



 大慌てで全員乗り込み、研究所内の資料やモンスターも詰め込み、脱出し始める。








どっごぉぉぉぉぉん!!

「流石にやばかったのじゃぁぁあ!!」


 どうにかこうにか、全員無事で脱出出来たようで、都市アルバニアから少し離れた平野に脱出艇が飛び出し、地上の空気を全員吸い込む。


 そして研究所のあった都市の方を見れば‥‥‥もくもくと土煙が立ち上っていた。


「‥‥‥あれ、どうなったのさ?」

「最後まで、あの場所にいたとは思えぬのじゃが‥‥‥‥」


 研究所のあった場所が崩落しただけであれば、都市の住宅街などには影響はないはずである。


 地下の崩落も想定して建設されていたので、地上に害をなさないようにしていたはずだが…‥‥あの場で戦闘していたハクロたちはどうなったのか。


 そう疑問に思うも、月明かりの輝く夜中では姿をよく見ることができない。


 果たしてどうなったのか…‥‥っと、疑問に思っていた、次の瞬間であった。



キランッ!!

「「「「ん?」」」」


 一瞬、もくもくと出ていた煙の中で、輝く光が見えたような気がした。


 全員がその光が出た場所に注目している中‥‥‥‥ぶわっと煙が吹き飛ぶ。



「「「「‥‥‥!?」」」」


 

‥‥‥そこにいた者に、全員は思わず目が飛び出るほど驚いていただろう。


 最初にほんのわずかに抱いたのは、無事そうな姿を見せてくれたことに対する安堵の想い。


 けれども、何やら様子が異なっており…‥‥0.001秒もしないうちに、月明かりで映し出されたその姿をみて驚愕してしまったのだ。


「な、な、な…‥‥なんで変わっているのじゃ!?」

「は、羽、いや、翅というべきか、生えているのさ!?」



 煙を吹き飛ばし、浮いている女性は先ほどまで戦っていたハクロだと分かるだろう。


 特徴的な蜘蛛の身体もしっかりと存在しており、その背中にアルスが固定されている。


 けれども、その人の身体と言うべき背中の方には…‥‥薄い翅のようなものが生えていたのだ。


 翼というよりも、虫の翅に近いような…‥‥それでも、美しい薄い翅。


 ウスバカゲロウのごとく、薄い翅を広げており、蜘蛛の足部分は綺麗に折りたたんでいる様子。


 そしてその食指と言うか、人の足のような部分がまさにその役目絵を果たすかのようになっており、翅が羽であれば天使のようにも見えただろう。



 月夜に照らされて、美しく飛翔する様子は天使が舞い降りたとみてもいいかもしれない。


 でも、まだ戦闘は終わっていないというように、宙に何かが飛び出すのを所長たちは見た。



「あれは…‥‥まだ生きていたのかのぅ」


 ハクロ同様に飛翔能力を得たのか、宙に浮かぶのはショゴススライムらしき存在。


 いや、透明性が全て消え失せており、土煙で薄汚れて…‥‥汚れだけと言うよりも、ショゴス自身も何か変化が起きたのか、絵の具の失敗した混ざった色と言うべき様に淀んでいる。



【ギュルゲェェェ!!】


 戦闘は終わっていない、これからまだ続くのだというように、離れた場所でも聞こえるほどの咆哮を上げるショゴス。


 だが、その一方でハクロの方を見れば…‥‥既に、勝負はついたというような顔をして、手をショゴスの方へかざす。


 翅を広げ、月を背にして飛翔し、翅が輝き始める。


 まるで月の光を受けとっているかのように発光し、ショゴスに彼女は手をかざす。


 そして、明かりが最高潮まで高まった次の瞬間、その手から光線が解き放たれた。


【アルスとの時間、邪魔しないでぇぇぇぇぇぇ!!キュル!!】

【ギュッギュルッゲェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ…‥‥!?】



 収束された月の明かりと言うべき、美しき光線。


 その輝きはショゴススライムを一気に飲みこみ、先ほど溶解していた音がその体からし始め、姿を失せさせていく。


 徐々にその体も縮ませていき…‥‥透明になるのとはわけが違う、存在そのものが消失するという末路を辿らされたのであった。



「の、のじゃ…‥‥何なのじゃアレ‥‥‥」

「ふむ‥‥‥そうか、もしかすると、あれかもしれないのさ!」


 皆があっけに取られている中で、何が起きたのか変態(第3皇子)は理解したようだ。


 どういうことなのか説明を求める視線を向ければ、彼は月に指をさした。


「天井が壊れ、崩壊する直前に月明かりはあの場を照らし‥‥‥彼女に浴びせたのだろうさ。月の光が力を与えるのであれば、崩落に巻き込まれかけた彼女に飛ぶ力を授けたと考えてもおかしくはないのさ!」

「そうかのぅ?」



 ドマドン所長のその疑問の声も当然だとは思うが、今は取りあえずその説が合っているとしか言いようがない。


 とにもかくにも、なんとかショゴススライム襲撃による危機は去ったと言って良いようであった…‥‥



【キュ、な、なんとか‥倒せたよ、アルス‥‥‥】


「あ、なんか落下してない?」

「もしかして今ので、全部魔力とか使って枯渇状態になったのか!?皆急ぐのじゃ!!」


…‥‥そして続けて、落下し始めたハクロたちを助けるためにも、慌ててどうにかしようと所長たちは動くのであった…‥‥


「急いでもどうにかなる物なのさ!?」

「どうにかならなければいけないじゃろうが!!」

 


何とか難を逃れ、一件落着としたい。

でも、何かと事後処理が多すぎるのだが、どうしようコレ。

一応、先日の襲撃者関係に関しては大丈夫そうになって来たのだが‥‥‥

次回に続く!!



‥‥‥天使のような翼もありかと思ったが、こっちはこっちで良いかもしれない。

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