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3-52 何かと違っていたとしても

【‥‥‥キュル?】


 真夜中、アルスの枕として寝ていたハクロはふと、目を覚ました。


 いつもであれば、ぐっすりと一緒に眠っているはずなのだが、研究所内とは言え安全のためにも張っていた目に見えないほど細い糸に、反応があったからだ。


 何事かと思いつつも、敵意のある動きではない。

 

 そう判断し、アルスを起こさないように素早く糸の玉を作って身代わりの枕とする。


 そして、解除薬を飲んで元の大きさに戻りつつ、その反応のあった場所へ向かった。





 夜中ゆえに真っ暗になっている研究所内。


 星明かりなども天井のコケが再現していたりするのだが、それでも光量不足で真っ暗である。


 とは言え、昼夜の再現をしてこそ飼育されているモンスターたちの健康を守ることができるという事で工夫がなされており、月明かりに近いものが一部を照らしていた。


 その明かりの下に、何かがいるのを見つけて近寄り‥‥‥彼女はそれがどういうものなのかすぐに理解した。


【キュル‥‥‥変態さんの、スライム?】

【ピキィッ?】

【ピキー?】


 明かりの下にいたのは、昼間に見たスライムたち。


 色々と色合いや大きさが違っているのだが、何やら明かりの下に集っているのを見つけてつぶやくと、ハクロに対して彼らも気が付いたようあった。



(※ここからは、スライム語を翻訳します)


【こんばんわ、白き蜘蛛の姫様】

【その名前じゃないけれど‥‥‥こんばんわ】


 声をかけられ、返答するハクロ。


 昼間の聞いたら流石に嫌すぎる言語とは違って、何やらまともな雰囲気に驚いていた。


【あの、変態さんに群がっていたスライムさんたち、だよね?変態さんに、群がっていた時に、結構変なものばかり言っていたはずだけど‥‥‥】

【そうです】


 ハクロの問いかけに対して、プルプルと震えながらそう語るスライムたち。


 話を聞けば、昼間の聞くに堪えないような、アウトな言葉の数々は、変態(第3皇子)がいる間に興奮をしてしまって思わず出るだけであり、普段はまともに話せるらしい。


【我々は、主に興奮しすぎると、あのような言語が出てしまうだけだ】

【あの人、我々を大事にしてくれている、答えようとしたら、何故かああなる】

【とは言え、昼間の行動、醜態でもない。あれで喜んでくれるので、本望なのだ】

【‥‥‥キュル、そうなの?】


‥‥‥まぁ、人にはいろいろなのがいるし、そうであるならば何も言えないだろう。


 と言うよりも、ツッコミを入れたところで余計な沼に嵌りそうな気がするので話題を避けることにする。


【ところで、スライムの皆さん、何故ここに、集まっているの?今の時間、皆、寝ているはずだけど】

【ああ、単純な事だ。我々の日課なのだ】

【我々を大事にしてくれている、主のために、固定化の作業をしているのだよ】

【固定化?】


 話を聞けば、スライムと言うのは通常、環境に大きく影響されて種族などを変化させるモンスターである。


 今日がフレイムスライムであれば、雨が降った後にアクアスライム、雷雨の跡にはスパーキングスライムなど、日々色々と変わっているらしい。


 だがしかし、あの変態(第3皇子)と過ごす中で、できれば固定されている状態の方が望ましいということを理解したそうで‥‥‥重すぎる愛情が注がれてはいるが、それに答えようと動いたようだ。


【でも、ここの光、月明かりに似ているけれど、月でもないし、固定化ってどういうことなの?】

【ああ、白き蜘蛛の姫は知らないのか】

【いや、多分知っているモンスター、いないかもしれない】

【我々でも、野生の時は知らなかったが…‥‥説明、難しいな】


 ハクロの問いかけに対して、うーんっと首を捻るように考えこむスライムたち。


 っと、ここでスライムの一体が前に出て来た。


【回答、お答えしようか?】

【おお、大賢者スライム、できるのなら頼みたい】

【大賢者スライム?】


 見る限りでは、周囲にいる他のスライムたちよりも一回り小さな毛玉のスライム。


 モフモフした毛ではなく、埃まみれのような姿にも見えるのだが…‥‥種類を正確に言うのであればダストスライムの一種らしいのだが、このスライムたちの中では大賢者と呼ばれるような知恵者らしい。


【蜘蛛の姫よ、我々の固定化という作業は名の通り、種族を固定化し続けられるようにすることだ】

【変化しやすいのに、できるの?】

【そうだ。と言うのも、この固定化の作業、月の明かりを利用するのだが…‥‥蜘蛛の姫は、月の光について、どの程度知っている?】


 問いかけられたが、答えることができない。


 ただ何となく、明かりが綺麗だなぁという位しか思ってないのだ。


【んー、綺麗な、お月様の光。故郷では見なかった、外の光、と言う位しかないけど…‥‥】

【ふむ、その話しぶりから察するに、月の光を知らぬダンジョン産のモンスター、なのか】

【そうだよ?つい最近、知ったけれども、私、ゲードルンってダンジョンの出身だよ】

【なるほどなるほど…‥‥確かに、ダンジョン産のモンスターであれば、月明かりの事は、知らぬのも無理はない】

【何か、秘密があるの?】

【ああ、そうだとも。より詳しい事は分からぬが…‥‥それでも、この大賢者スライムは、色々と知っているのである】


 そう言葉にすると、大賢者スライムは語り始めた。


【月の明かりと言うのはな…‥‥我々の、大いなる母の明かりでもあるのだ】

【大いなる母?】





‥‥‥それは、地上で暮らすモンスターたちの中でも、ごく一部にしか伝わっていないような伝承。


 人にすらも伝わらない、モンスターだけにしかない話。


【‥‥‥とは言え、それは詳しい話しができない。伝承自体はだいぶ廃れ…‥‥もはや一部にしか伝わっていないうえに、途切れ途切れだ。人でいうならば、眉唾物の、不思議な昔話というか‥‥‥】


 大賢者スライムの言葉に対して、ふとハクロは思い出す。


 自分の母が、その母の母の‥‥‥もっと昔から伝えられた、とある昔話を。


【『星の明かりは、モンスターの命の火。輝く火は地上に落ち、そしてまた空へ帰る』‥‥‥って、話?お母さんのお母さん…‥‥もっと前の、お母さんが話していたことがあったよ】

【おお、その話しは聞いていたのか。ふむ‥‥‥そう言えば、先祖の方で、知己の者に伝えられてというのがあったが‥‥‥そちらに一部があったのか】


 ハクロの言葉に対して、そう口にする大賢者スライム。


 とは言え、先日の里帰りと言う名目の探索時に、ハクロはとあることも知っていた。


【‥‥‥でも、そこまで昔の、話?私の祖先、人によって知恵を与えられたって感じのは、あったけど‥‥‥】

【ほぅ、ソレはソレで興味深いが…‥‥だが、それでもどこかで伝えられていたのだろう。まぁ、流石にそれでも多くはないが‥‥‥全部を合わせる事で、一つの話になるようだ】


 モンスターたちの中で途切れて行ったがゆえに、全体が分からない一つの昔話。


 その中の一つが、今のハクロが言ったものらしいが…‥‥どうやら大賢者スライムの方でも、とある昔話が伝わっているらしい。


【とは言え、こちらの場合は、伝わり方は特殊だがな…‥‥大昔があるのは分かるのだが、この自分の身は、この時代のもの。スライムの身と言うのは、歳の取り方も自我の増え方も色々あったが‥‥‥こちらでは、月に関しての話があるのだよ】

【月に関して?】

【そうだ。先ほどのものに補足する程度だが…‥‥『星の明かりは、モンスターの命の火』の前にあるものと思われるだろう。…‥‥『星々が輝く夜空よ、星の明かりは我が子であり、照らす大いなる月はその母である。母の光は子を導き、そして力を与え、輝かせよう』だったか‥‥‥ああ、何度も転写された話なので、何処かで間違っているかもしれぬが、それでも月の明かりに対してのものがあるのだ】


 色々と興味深い話でもありそうだが、それでも全文は不明である。


 けれども、スライムたちの方にはその話が伝わっているそうで、月の明かりに関しての理解を深めるのに役に立っているのだとか。


【‥‥‥月の明かりは、母の光。我々もずっと知らぬ、遠い遠い原初の存在のもの。そこからあふれる光が、我々に力を与えるのだ】


 話によれば、どうやら夜空にはモンスターたちに関する秘密があるらしい。


 その秘密が何なのかは不明だが、分かっている事の中には、月の光がモンスターに影響を与えるということぐらいである。


【とは言え、物凄く大きな影響と言う訳でもない。環境に影響されやすい我々スライムであればいざ知らず‥‥‥普通に地上で過ごすモンスターたちには、何もないのだ】


 精々、満月あたりにでも興奮度が増したりする程度であり、本当はどういうものなのかは不明である。


 だが、環境に影響されやすいスライムたちであれば、月の明かりに対して様々な恩恵を受けるすべがあるそうだ。


【まぁ、精々固定化程度だがな…‥‥我々は変わりたくはないと思えば、月の光を浴びることによって、種の変化を自主的に抑制しているのだ】


 大きなものではないとはいえ、固定化が可能なのは彼らにとっては利点である。


 普通のスライムであれば、環境の変化に適応し切れなければ不味いので、普通は固定化もしないのだが‥‥‥彼らの場合はあの変態(第3皇子)に飼われているからこそ、変化したくはなく、固定化の道を歩むのだ。


【そんな秘密があったの…‥‥お月さまって、すごいかも】

【そういうものだ。とはいえ、昼間は太陽が出ているので、夜中にしか姿を見せてくれないが‥‥‥それでも、月明かりには神秘的な力があるのだ】


 だからこそ、固定化が可能になるのはありがたいと、スライムたちは口にする。


 昼間は色々と自主規制レベルのとんでもない発言しかできないが、それでも変態(第3皇子)を思ってつい出てしまうものであるだけのこと。


 こうして話せば、案外まともな事には驚かされたが‥‥‥月明かりの秘密にも、ハクロは驚く。



【でも、そんな力、あるのかな?あるんだったら…‥‥私、アルスと同じ人間に、なりたいかも】

【それはどうでしょうかな‥‥‥モンスターはモンスターであり、人間に有らず。蜘蛛の姫よ、あなたは人に近い姿を持つようだが、それでも人間でもあるまい】


 大賢者スライムの言葉に、残念そうな表情をするハクロ。


 けれども、そう諦めることは無いと、フォローするかのように続けてスライムは口にする。


【だが、想いには、我々の身体は答えてくれる。その想いを持つのは、無駄ではないだろう。白き蜘蛛の姫よ、月明かりに乗せて思いを口ずさめば、何時かは母が叶えてくれるかもしれないだろう】


 その願いは叶わないかもしれないが、それでも近い形までには妥協できるかもしれない。


 できないと思うよりも、必ずしたいという強い思いが大事だと、大賢者スライムは口にする。


【人であろうと、モンスターであろうとも、基本的にはやる気次第なものも多い。だからこそ、迷わずに突き進めばいいのだ】

【突き進む…‥‥うん、私、アルスの側にいれるように、努力する!】


 問いかけていたはずだが、いつの間にか相談をしていた状態。


 けれども、悪い時間は過ごしていないとハクロは思うのであった。


【あ、でも、固定化っていうけど‥‥‥ここの光、月の明かりに近いけど、完全にそうじゃないよ?それでも、できるの?】

【それは心配ご無用。我々、スライムの身体と言うのはいい加減で曖昧なものでも、大体が同じであればそれで良いのです】

【‥‥‥それって、月明かり自体が必要じゃないように、思える】


 何にしても、月光浴をしているだけであれば、問題もあるまい。


 朝になる前には全員戻っているそうなので、ハクロはさっさとアルスの枕元へと帰ることにしたのであった…‥‥







【‥‥‥白き蜘蛛の姫、ある程度、自身の祖先については、知っていたようですな】


 ハクロがその場を去った後、大賢者スライムはそう口にする。


 目が無いのだが、比喩表現で実際に目にして見ると、噂話でも聞いたことがあるように、美しい存在であった。


 スライムではないのだが、容姿よりもそのありよう自体が、キラキラと輝いているかのように感じ取れたのである。


【人に作られた祖先…‥‥ああ、我々の祖先にも、一部がそうらしいのがいるだろう。だからこそ、伝承も伝わったのだろうが‥‥‥だが、人間に影響されるよりも前に、我々の祖先は、昔話の真実に触れているのだろう】


 ハクロの祖先が人に影響されて作られたものかもしれないが、その作られたものにそう言う話があるということは、よりもっと前から伝わっている可能性もある。


 そもそも、その作られた時点で出来た伝承と思いそうにもなるのだが…‥‥この伝承自体が、人間が現れる前(・・・・・・・)からできていることを、とある話で大賢者スライムは知っていた。



【何にしても、また一つ、足りなかった伝承が組みあがったが…‥‥さてさて、この昔話を次に伝えても、どれだけ残るのやら】


 色々とわからない不思議な昔話。


 何かを表すだけの適当な話しにも思えそうだが、それでもどこかに意味は存在している様子があり、眉唾物とは言い切れない。


【ああ、にしても人の姿をもつ蜘蛛の姫、か‥‥‥‥人の姿を得ているのは、羨ましい】


 環境に適応し、擬態すらもできるスライムたち。


 けれども、彼らでさえも人になるということはできておらず、精々が人の形をとっただけの棒人間モドキが出来上がる程度である。

【白き蜘蛛の姫、あなたの道は大変かもしれないが…‥‥それでも、先を進める事を願おう】


 種族が違えども、ここまで綺麗なものを見たのは久しぶりの事である。


 だからこそ、ハクロに対して願い事が成就していくように、大賢者スライムは願うのであった…‥‥



アウトな言動が満載かと思えば、離れている時は案外まともな様子のスライムたち。

むしろ、この穏やかさは第3皇子以上であり、彼らが中身になれば中和するんじゃないかなと、思わず思うだろう。

でもまぁ、慕っている様子はあるので、彼らは彼らなりに幸せなのかもしれない…‥‥

次回に続く!!



‥‥‥おかしいな、皇子(変態)のように変えるはずが、いつの間にか変態(皇子)みたいになっているんだが。どうしてだ?

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