3-44 想いを考え、支え合いつつも
‥‥‥ペガサス馬車を経て、到着した研究所。
夏恒例の場所とも言えるのだが、今回ダンジョンの方で起きた情報は既に伝わっていたらしく、何かとこちらの方でも警備を増やしているらしい。
「とはいえ、聞いた情報じゃとお主らが告白し合った部分の方に関心があるがのぅ。あれだけ仲良しじゃった光景を見て、どれだけの者が早く付き合えと思っていたじゃろうか‥‥‥」
「そんなにですか?」
「そんなにじゃ」
ドマドン所長の言葉に対して、同意するかのように周囲の研究員たちが頷いている。
そこまで思われていたのか…‥‥いや、ハクロからの想いに鈍感だった僕が悪いのかな、これ。
【でも、良い。アルスと私、両思い。私、アルスのお嫁さんに、成りたい】
そんな空気も構わないというように、僕にすりすりと擦り寄ってくるハクロ。
嬉しそうに言うのだが、それでも問題と言うのはどこからともなく降りかかって来る。
「身分やその他の内情もあって、おそらくはうまいこと行かぬのじゃが…‥‥けれども、時間をかけて解決していけば、いずれできるじゃろう。儂としてはお主ら孫のように感じるし、ひ孫誕生のようなことが待ち遠しいのじゃ。いや、もう誕生してはいるのじゃけどなぁ」
「ああ、そう言えばドマドン所長のひ孫の話が手紙で来ましたね」
【分厚い、本一冊分レベルだった】
「ぬ?あれでまだ全部じゃないのじゃ。あと数百冊分は…‥‥」
ふと思い出してつぶやけば、所長が嬉々として色々と引っ張り出してきた。
‥‥‥あ、しまった。もしやこれ、うっかりやばいもの踏み抜いちゃった?
そう思い、周辺の職員を見渡せば、全員からさっと目をそらされた。
どうやら、ドマドン所長のひ孫自慢話は周知されていたようであり…‥‥生贄にされたようであった。
とにもかくにも、何とか良いところで区切って半日が経過してしまったが、無事に到着したモンスター研究所。
今年度も過ごすことになったが、初めて来た時よりも増築されており、研究されているモンスターの種類も増えていたりする。
アーマードシープにコングボクサー、マッチョウォッにマンジュウムシ…‥‥変なものが多くなっているような気がしなくもないが、それでも飽きることは無いだろう。
ここでお世話になる分、飼育の手伝いもしているからね。
ハクロもモンスターであるからこそ、ある程度ならば種族が違えども翻訳して、どの様な気分なのか色々と聞き込めたりできるし、何かと不自由はしないのである。
「にしても、地下の研究所なのにここまで増築して、大丈夫なのかなと思うんだけど‥‥‥」
「そのあたりは大丈夫じゃよ。ダンジョンの方も研究しており、その仕組みを少しづつ解析できた部分で、扱えそうなものを利用しているからのぅ」
一応、帝都の方にもダンジョンが存在しており、そちらにも研究員を派遣しているらしい。
ダンジョン内で発生するモンスターの研究もしつつも、地下に広がる仕組みなどを調べ上げ、どの様にすれば崩落などしない程度の規模にできるのか、耐久性を持つのかなども分かるそうで、その分ココに活かしているそうだ。
ゆえに、いくら拡大しようとも崩落の危機もなく、むしろここで飼育されているモンスターたちがより自然に近い環境で過ごせるようになってきているそうで、研究がさらにはかどる結果になっているらしい。
【キュル、たしかにここ、居心地悪くないもん。アルスと一緒なら良いけど、モンスターにとっては、居心地がいいかも】
「これでも苦労してるからのぅ。地理的条件や地下では難しい風や太陽光の当たり方の再現、気温や湿度の微調整に…‥‥その分、ここで過ごすモンスターたちが自然に近い形で過ごしやすくなって、儂らとしても研究しやすくなるのだから、悪くはないのじゃがな」
瓶底メガネ幼女な容姿は変わらずとも、穏やかに笑うような老人のような笑みを見せるドマドン所長。
職員たちと共に改良をし続け、研究に精を出しているようである。
そして結果として十分なものを受けとれ、何かと幸せな生活を送ってるようだ。
【そう言えば、所長お婆ちゃん、孫、ひ孫いる‥‥‥つまり、結婚しているよね?】
「そうじゃが?そうでなければ、ひ孫も孫もおらぬじゃろ」
容姿からそんな孫がいるようにも見えないのだが、ひ孫まで持っているドマドン所長。
そんな所長に対して、ふとハクロが問いかけた。
【結婚、夫婦円満‥‥‥そのコツってあるのかな?正妃様にも聞いたことがあるけど、所長お婆ちゃんの方にも聞いてみたいの】
「ふむ、別に良いじゃろう。儂じゃって今もなおラブラブで熱いからのぅ。なりたての甘いカップルにも、十分進展できるようなアドバイスは可能じゃ!」
ハクロの問いかけに対して、ぐっと指を立てて返答する所長。
研究者としての部分もあるが、歳相応なお婆ちゃんとしての部分もあるドマドン所長であり、面白そうなことになりそうであれば、快く話してくれるようであった‥‥‥‥
「ではまずは、夫婦の営み方などから話すとするのじゃが‥‥‥どの程度が良いかのぅ?」
「出来れば健全な類でお願いします」
…‥‥あと、念のために僕はしっかりと話を聞きつつ、抑えておく役目に回らせてもらおう。暴走すれば、ろくでもない事を彼女に吹き込みかねないという警鐘が鳴っているからね。
「‥‥‥ふふふ、ようやく想いを伝えたようねぇ」
「そのようだな‥‥‥ああ、若さとは良いなと思えたぞ」
アルスたちが研究所にて話を聞いている丁度その頃、帝国の王城内にある中庭にて、正妃と皇帝は仲良く茶を飲んでいた。
政務で忙しい身でもあるが、少し休みが取れたのでこうやってゆっくりと過ごしている夫婦。
仲の良い夫婦としても有名であり、ゆったりとした時間は互に好み合っているのだ。
そして今は、ダンジョン都市の方にいる娘である第1皇女からの連絡を聞き、アルスたちの進展状況に微笑ましく思っていた。
「何かと互に好んでいた様子はあったが、くっ付く気配は中々見せなかったからな‥‥‥ただの仲良しで終わるのではないかと一時は思ったものだ」
「けれども、自覚し合い、告白し合ってようやく想いが通じ合ったのは喜ばしい事ですわね。‥‥‥惜しむらくは、その光景を目の前で見たかったのだけれども‥‥‥アリスちゃん、ずるいわねぇ」
「娘に嫉妬するほどか?」
「ええ、するわよ。成就しあう光景は見たいのに、その機会は中々無いものね」
とは言え、ダンジョン都市で起きた出来事などを考えると、できればもうちょっとロマンチックな雰囲気で告白し合ってほしかったと思わないわけでもない。
襲撃者による生死の境などによる緊迫感もあって押されたとはいえ…‥‥やはり恋愛ならば、より良いムードの中で進んでほしかったのだ。
「とは言え、アリスちゃんもいるのに襲撃をしてきた馬鹿共は何なのかしらね…?背後の国も特定できたのだけれども‥‥‥滅亡まっしぐらなせいで、やりようのない憤りが残ってしまいますわ」
「神罰と言う話があったが…‥‥神が罰する前に、こちらが手を下したかったな」
帝国の間諜たちの働きにより、既に掴んだ襲撃者の背後の者達。
狙いはハクロだったようだが、それでも娘もいた現場であり、親としても帝国としては徹底的に相手を叩きたかったのだが…‥‥残念ながら、その前に相手は自滅の道を進んでいるらしい。
「しかし、神罰か…‥‥神が落す罰と言うが、それだけ神にも気に入られているという事か。モンスターと言えども、神も見守るような者…‥‥迂闊に動かずに見守り続けて、正解だったというべきか」
「ええ、そうね。下手な手を出したら、それこそとんでもない目に遭っていた可能性もあるのよねぇ」
とは言え、神罰が落ちるにしてもちょっと遅いような気がしなくもない。
以前にも誘拐された騒動があったが、その時には無く、どの程度の事で判断されているのか、その基準が不明なのだ。
「悲しませることが罪となるのか‥‥‥いや、それだけではあるまい。思う相手を狙ったことも含めて、落とす判断がされたというべきか」
「そこは、神のみぞ知ることですわね。転生した際に関わった神とはまた違うようですしね」
皇帝の言葉に、そう口にする正妃。
正妃、皇女共に色々事情が異なるとは言え、元は違う世界の者であり、転生した存在であるというのを皇帝は既に知っている。
別の世界にいたとはいえ‥‥‥それでも愛すべき家族なのには変わりなく、転生をさせた神には感謝をしているので、問題はない。
ただ、今回気になるのはその神罰を落とすような存在…‥‥それがどういう者なのかがわからないという事だろうか。
「後は、互に伝えて結ばれるのは良いのだが‥‥‥彼らが正式に結ばれるには、問題も多いな」
「ええ、人間とモンスターでは色々と違うでしょうし、立場としても何かとあるし‥‥‥頭が痛いわねぇ」
神罰云々を考えないようにしても、そっちの問題の方を考えてしまうだろう。
アルスとハクロ、互に思いあってようやく付き合うのかと言いたいが、それでも先に壁は立ちふさがる。
「美しい容姿のハクロは狙う者は多いだろうし、アルスに関しては男爵家だが…‥‥我々とも関わりがそれなりにあると見られ、将来的な部分で狙われる可能性もあるか」
「種族の違いや身分の違いもありますし‥‥‥‥一つ一つ、解決させないといけないわねぇ」
帝国を担う立場としては、迂闊に手を出しにくい。
大きな権力を担うからこそ責任も大きく問われ、後先を考えなければいけないのだ。
けれども、こうやって経過観察を聞く限りでは、どうにかしてあげたくなる想いがあるだろう。
だからこそ、できる限りのことをしてあげたいと、夫婦そろって思うのであった‥‥‥‥
「‥‥‥まぁ、子供たちの婚姻に関しても色々と考えねばいけないがな。養子でもないのに、息子や娘が増えて、その将来を考えていかなければいけないような、親としての重みがあるな‥‥‥」
「できればハクロはわたくしたちの娘にしたいですけれどね‥‥‥それだと、また問題も多いでしょうし、もどかしいわねぇ」
力と言うのは持つ責任がある。
ゆえに、大きな力があるものほど、きちんと考えなければいけない。
何かともどかしくもあり、使いどころが難しいのだ…‥‥
次回に続く!!
‥‥‥皇帝とかだと威張っていそうなイメージがあるけど、エルスタン帝国は歴史が長い分、わきまえているらしい。
過去に滅亡した国々からも、色々と教訓を得ているのです。