2-3 目で見ないと分からないこと
本日2話目。
なんか調子が良い時は2話行けるけど、しばらく1話ずつかな‥‥‥?
…‥‥時間が経ち、ようやくテスト結果が開示された。
テストの開示場所は、学園の入り口に設置された巨大な板。
その上に、ずらっと各教科ごとや総合点数が貼りだされるのだが…‥‥
「…‥‥んー、まぁ大体予想通りか」
大雑把に言えば、悪くはない点数。
とはいえ、歴史の方に関しては予想通り他の教科に比べてかなり低いし…‥‥どうやら他の生徒たちも似たり寄ったりな点数になっているようだ。
まぁ、あれだけ分厚い歴史を短い期間で覚えろと言われても無理だし、地道に勉強していけばどうにかなるだろう。
とにもかくにも、全体的な結果を見る限り、授業にはついていけそうな気はする。
あとは、このテスト結果開示後に新入生に配布された資料を見れば‥‥‥ご丁寧にもその点数によって、自身がどの様な授業を受けるべきかというアドバイスが書かれていた。
「というか、授業科目も色々あるなぁ‥‥‥」
剣と魔法、モンスターなどがいるだけあって、前世の小学校よりも科目は多い。
魔法を学べる授業や、剣の扱いを学んで騎士を目指す授業に、自衛のための護身術の授業、貴族御用達の作法を学ぶ授業…‥‥前世の初等教育機関には無かったものが、これでもかというほどあるのだ。
一応、直ぐに決めることはさせないようで、一晩落ち着ける時間があるのか、望む授業を選択して、受付で手続きすれば学べるらしい。
手続きをしなかった場合は、基本となる授業を確実にやらされるようだが…‥‥その基本以外をやりたいのであれば、自主的に動くしかないようだ。
っと、見ればテスト結果を見て様々な新入生たちが頭を抱えたり、ひねったりして考えている中で…‥何やら奥の方で騒がしい音が耳に聞こえてきた。
「おい!!何をやっているんだお前たちは!!まだ謹慎中だっただろうが!!」
「でも先生、こいつが上級生の俺たちに対して何も敬う姿勢が無くて」
「上級生どころか留年しているだろうが馬鹿者ども!!」
‥‥‥何というか、この学園の教師たちの怒声と共に聞こえてくる声。
ただ、なんとなく聞き覚えがあるような気がして、こっそりと近づいて見れば‥‥‥
「‥‥‥え?」
そこにいたのは、がんじがらめに縄で縛られた男子生徒二人。
その生徒たちに絡まれたのか、ぎっと睨み続ける新入生に、縄を持つ教員。
でも、その縛られている二人に、僕は見覚えがあった。
「くそう!!貴族である俺たちに不敬を働く気か!!」
「あほう!!貴族家でも今現在危い状態の家である上に、権力も何もこの学園では通用しないと、初年度から言っているではないか!!」
「‥‥兄たちか」
‥‥‥前世の記憶を思い出す前に、この世界で過ごしていた自分の記憶にある、兄。
長男ラダー・フォン・ヘルズに次男グエス・フォン・ヘルズ…‥‥学園にずっといるはずの二人だ。
考えて見れば、領にほとんど帰らずにここの寮で生活している兄二人と学園内で出くわさないわけがないのだが、まさかこんなに早く目にするとは思わなかった。
前世の記憶がよみがえってから初めて見たがあれが兄たちであると良く分かる。
確か、俺とは母親が違うって話は聞いていたが‥‥‥それでも父が同じだからこそ、父と似たような顔つきはしているね。でも、父によく似ているという事は将来的に頭頂部が不毛の大地となるのか?
そう思っている間にも、兄たちはぎゃあすかわめく中で、ふとこちらの存在に気が付いた。
当主争いでは僕は加わらないと早くに宣言しており、家の中では僕を無視していた兄たち。
だが、こんな場所で連行されそうになったら、それを無視する意思はどう取られるのか。
「おい、何でここにいるんだ愚弟!!」
「兄たる俺たちが連行されそうになっているなら、お前が身代わりになれよ!!」
目ざとく見つけ、そう叫ぶ兄たち。
その目の先にいる僕の方に周囲の野次馬も気が付き、目を向けてきた。
‥‥‥うん、近づかなかった方が良かったかもしれない。こんな注目は浴びたくはない。
けれども、この様子だと只引っ込めば何かと噂が立ちそうだしなぁ…‥‥
「…‥‥身代わりになる気もないのですが、何をやっているんでしょうか兄さんたち」
とりあえず、視線を感じながらも僕は落ち着きながらそう問いかけることにした。
内心、わざわざ「さん」付けする必要もないと思うのだが、記憶を思い出す前はこんな呼び方をしていたからね‥‥‥まぁ、兄上とかそう言う風に語る事もなかったし、敬うような気は特にない。
「ふふん、見ての通りだ!将来の当主たる俺に対して、領地を発展させる未来があるからこそ、今のうちから敬っておけと言っただけだ!!」
「馬鹿め、俺の方が当主になるだろう。だからこそ、こいつよりも俺の方を敬っておけと言っただけだ!!」
うん、聞く意味なかったかもしれない。というか、当主争いしてるくせに似たような回答をするってことは本当は仲がいいのではないかと疑いたくなる。
「いや、何をもってそんなことを言ったのでしょうか?ここは学園で、暗黙の了解はあるのでしょうけれども、貴族の権威などは通用しないはずですよね?そもそも、僕らの家は男爵家で、貴族の中でも下の方の爵位なのに偉そうにできるのでしょうか?」
とりあえずそう返答してみれば、周囲はうんうんと同意するように頷く。
このゼルナイト学園では、貴族や平民も一緒に勉学に励むのだが、その立場は基本的に公平らしい。
それなりに互いの家柄を認識しつつも、そこまで表立って出すこともなく、平等に接することでそれぞれの違いを認識しつつ、将来的にどう付き合っていくのかを確認し合う意味もあるのだとか。
まぁ、そもそも男爵家って貴族の中には入るんだけど、立場としては低いからなぁ‥‥‥‥偉そうにすること自体が間違っているんじゃないかな。
「なんだとう!?将来的に当主の座を引き継いだ俺が、子爵、いや、伯爵まで引き上げるからこそ、今のうちに敬っておくのは正解ではないのか!!」
「だから俺の方が当主になるって言っているだろ!いや、むしろこちらはより上の爵位を、そう、侯爵とかそのあたりまで引き上げるからこそ偉く出来るだろうがぁ!!」
顔を真っ赤にしてそう叫ぶ兄たちだが、そんなことはできないとは思う。
爵位を上げるにはそれなりに功績などを立てたり、国に対して貢献をしてその積み重ねの末に与えられる等と様々な手段があるのだが、学生の身である僕らがそもそもそんなことができるのだろうか?
いや、出来ないだろう。というか、教員に縛られている時点で間違いを起こしていることに気が付かないのかな?そこまで馬鹿でもなかった…‥‥よね?
丁寧に説明しているうちに、思い通りにならないことに怒りが溢れているのか、真っ赤になって暴れはじめる兄たち。
縄で縛られているからそんなに動けないのだが、そのもがきように周囲の生徒たちは白けた目を彼らに向けている。この場には新入生たちぐらいしかいないし、この様子だと兄たちが敬われること自体が無いと思える。
「‥‥‥とにもかくにも、ここでは全員同じような立場らしいし、兄さんたちはそれを破ろうとしていた。学園の規則を盛大に踏んづけてしまったようなものですから、先生たちに捕縛されるのは間違いないでしょう。なので、このまま大人しく連行されてください」
「なんだとぅ!!兄を助けろこの愚弟がぁ!!」
「こいつよりも俺の方を助けろよこの愚弟がぁ!!」
争っているくせに、同じような文句しか言えないとは、やっぱりこの二人仲がいいんじゃないかな?
ちょっと黙らせる薬でも生成して、その口に突っ込んであげたいなと考えていたところで、これぐらい話させればもういいかという判断をした教師陣に引きずられていく兄たち。
その様子は例えるならば、前世のおもちゃ売り場とかで欲しい物を買ってほしい駄々っ子そのもののようだが、流石に子供と大人では力の差があって抵抗は無駄であり、そのままその場から強制的に連れ出されてしまうのであった。
「なるほど‥‥‥ここで問題を起こせば、あんな感じに捕まるのか」
「みっともなく泣き叫びたくもないし、絶対に学園の規則を破らないようにしようと思ったわね‥‥‥」
「というか、あれがあの二人の弟か?対応の仕方が玄人というか、慣れているというか…‥‥兄弟でも差があるな」
「あの兄たちよりも、弟のあの子が継いだ方がいいかもしれないのに‥‥‥もったいない事をしているなぁ」
ひそひそと周囲の野次馬がそう口にするが、この様子だと、とりあず学園内で問題を引き起こせばどうなるのか、という良い見本に兄たちはなれたようだ。
というか、本当にその見本のために用意された茶番劇ではないかと言う話まで出てきたが、そんなことは知らん。それに、こちらも後始末をしないとね。
「えっと、兄さんたちが迷惑をかけてすいませんでした」
「いえ、こちらこそあの人たちに対応しきれなかったので…‥」
「というか、苦労していそうなのが分かるし、謝らなくてもいいんだよ」
兄たちに迷惑をかけられた人たちに謝罪をしておくと、そう返答された。
僕が引き起こしたわけでもないし、謝る必要が無いと言われているが‥‥‥まぁ、あんなのでも家族だからね。
とりあえず、この場はこれで収まったようであった‥‥‥‥ところで、謹慎とか留年という言葉も聞こえてきたけど、本当に何をやったんだろうか、兄たちは?そこを聞くのを忘れていたよ。
あれ?でも待てよ、留年ってことは…‥‥もしかして、同じ学年として授業を受けるとか無いよね?嫌な予感しかしないなぁ‥‥‥‥
…‥‥昼間の騒動を目撃し、自分達はああならないように真面目に勉学に励もうと、自身の選択する授業をどうするのか生徒たちが真剣に考えこむ真夜中。
帝国の王城内…‥謁見の間では、この国を治める皇帝が間諜たちから学園での報告を受けていた。
帝国のためになる教育機関だからこそ、生徒たちの動きを把握し、その未来を育てるために必要な政務。
何か問題があればその問題を消すように動きつつ、生徒たちが健やかに成長し、帝国のために働けるようにという事で報告をしっかりと聞き逃さないようにしていたのだが…‥‥その騒動の報告を聞き、皇帝は眉をひそめた。
「‥‥‥ヘルズ男爵家の、問題児2名の騒動か。それのおかげで、新入生たちの気合いが入ったようだが‥‥‥はぁ、やはりあの家は潰すしかなくなったのだろうか?」
「将来の当主になろうとして、互いに競う姿勢は良いのですが…‥‥他の者に迷惑をかけるばかりか反省もしていないようですからね」
男爵家の問題児たちの話を聞き、溜息を吐く皇帝。
家を潰すことはたやすい事なのだが、その後の作業が色々とある。
領地や領民の管理など…‥‥そう言うところを任せる者が必要になるなど、何かとあるからだ。
「しかし、やり取りから見るに、その二人よりもその弟‥‥‥今年度の新入生となったアルス・フォン・ヘルズの方がよっぽど次期当主に向いていそうなものなのだが…‥‥ん、待てよ?」
っと、報告を聞いている中で、ふと皇帝はある事に気が付く。
手を叩き、別の間諜を呼びだしてとある記録帳を持ってこさせた。
「…‥‥ふむ、やはりか」
「どうされましたか、皇帝陛下?」
「いや、このアルスとその問題児2名‥‥‥父は同じだが、母が違うようだ。その問題児共の母は存命であり、アルスの方の母が亡くなっている記録はある。だが…‥‥この父親は入り婿であり、現在当主となっているのだが‥‥‥男爵家自体はこちらの亡き母が継いでいたものだ」
その言葉に、集まっていた者達は皇帝が何を言いたいのかを察した。
「報告を聞く限り、その問題児共が自分こそが次期当主と言い続けているが‥‥‥本来、正当に継ぐのはこのアルスという少年ではないのか?」
「それなのに、問題児共は自分が継ぐんだと争い、その少年自体も継ぐ気がなさそうなそぶりを見せているようですが…‥」
「となると、もしや現当主は爵位簒奪の計画でもあるのか?そのあたりを調べろ」
「「「「はっ」」」」
皇帝の命令に対して、間諜たちは答える。
「ところで、皇帝陛下。そのアルスという者に関して、学園内で生徒たちを調べていた別の者からとある報告を貰いましたが‥‥‥この者はこの者で、ちょっと問題が」
「なんだ?今の報告を受ける限り、大きな問題がある少年には思えないのだが。むしろ異母兄弟で同じ父を持つのになぜこうも違いすぎるのかというところに謎があり過ぎる」
「それは確かに気になりますが‥‥‥いや、それがこの少年…‥‥寮内にモンスターを持ち込んでいるようで‥‥‥いえ、ただのメタルドッグやモッチリキャットなど、普通の犬猫と大差ないようなモンスターであれば良いのですが‥‥‥」
何かこう、言いよどむ間諜に皇帝は首を傾げつつも、その報告内容を聞かせてもらう。
ついでにその詳しい補足のために用意された絵姿なども見て内容を補完しながら理解したのだが‥‥‥聞き終えたところで、こちらはこちらで問題であると皇帝は頭を抱えた。
「…‥‥いやまぁ、様子を調べる限り、大丈夫そうだというのはあるのだが…‥‥こちらはこちらで何と言うべきか‥‥‥もっと詳しく知る必要があるな。とりあえず、この少年が密かに希望している要望に沿う形で、モンスターに関しての資料を充実させつつ、詳しい教員とそれとなく出くわして話を聞けるようにさせておけ。どう行動するのかは不明だが、まだ様子見だ」
「はっ」
皇帝陛下の心情を察しつつ、その間諜はその場を去る。
そして後に残った皇帝は玉座に座りつつ、頭を抱えたくなった。
「…‥‥詳しい分類は不明だが‥‥‥確か、記録にあったな。とりあえず、胃薬を飲むか…‥‥」
はぁっと溜息を吐きながらも、現時点では国に対して不利益を被るわけではないと判断して、できる限りやれることをやろうと皇帝は考える。
とにもかくにも、政務でも忙しいことが多いのに、さらに面倒事が増えてしまったと胃のあたりを押さえながら皇帝はそう思うのであった‥‥‥‥
…‥‥後日、医療品を扱う店で、胃薬の購入が増え、しばらく品不足になったのは言うまでもない。
兄二人の元気の良さには、見習いたいところはある。
でも、その元気を別の方向に生かすのは嫌だなぁ‥‥‥暴れられるなら、別の方向に昇華すればいいのに。
何にしても、学園で元気に過ごしているようだし、放置で良いか。
次回に続く!!
‥‥‥さて、何やらちょっと面倒な話しが出てきた模様。
でも、その当事者になりそうな本人は知らず、周囲の者が動く状態。
さてさて、今作でも胃薬が必要な人が出そうだし、そのあたりの調整をしないとね。
‥‥‥設定しているはずなのに、勝手に動く人が出るからな。考えているだけで胃潰瘍でも起こす人が出たら進行に支障が出そうなのでどうにかしたい。