命のおくりもの〈雪うさぎ〉
しんしんと降り始める白い何かは、だんだんと地面を冷たく染め始めた。
「わぁ……。初雪だ……!」
少しだけ気分が高揚する。
年越しに一人きりなのは悲しいけれど、こんな景色が見れたんだからよしとしてあげる。
……なんて、誰に言ってるわけでも無いけど。
雪やこんこ♪あられやこんこ♪
降っては降っては……
どこからか曲が聞こえてきた。
もうすっかり冬だ。
「……やっぱり少しばかり、一人は不満だなぁ。」
なんて思ってしまったり。
せっかく年越し直後の初雪なのに、恋人はいないし家族は仕事だしなんて最悪……。
「はぁ……。」
それで何となく外に遊びに出てみたけど、結局初雪が見れたぐらい、かなぁ。
もう家に帰るか。
その時、ごそごそと草むらで音がなった。
「ん?」
なんだろう、この典型的な登場の仕方の予兆は。
そして粉雪をかぶった茶色い木の影から、白い物体が飛び出してきた。
ヴーヴーと鳴くそれは……。
「え⁉︎うさぎ?」
目が赤くて体毛が白い、どこからどう見てもそれは、雪うさぎ。
「何でこんなところに?」
かなりシュール……というか、不思議な光景。
体毛はすっかり保護色だし、完全に雪うさぎで良さそうだけど……。
そんなことを考えていたら、そのうさぎが足元にすり寄ってきた。
だから思わず、抱き上げてみる。
「目が赤いねぇ。赤縁メガネの私と一緒だ。」
何と無くだけど癒しを求めて、しばらく戯れた。
それから少し時間が経って。
「そう言えばおまえ、どこからきたの?」
返事がないということはわかっていつつも、私は訊いた。
まぁもちろん、答えはない。
「きっとどこかで飼われてた子だよね……。
探してみよっか。」
いつの間にかしゃがみ込んでいたところを立ち上がり、道に向かう。
ここはすごく道から外れた林の中だからね。
「いーぬはよろこび庭駆け回る、ねーこはこたつで丸くなる〜」
今度は聞こえてくる音楽を聴くだけじゃ無くて、一緒に歌ってみた。
リズムに乗って歩調を合わせてみれば、なんだか楽しくなってくる。
「どうしようか、この子……。
迷子かな?どこ行けば良いの?交番?」
勢いに任せて歩き出したは良いものの、どうすれば良いのか全く分からない。
その時、遠くから声が聞こえた。
「ゆき!」
私はその声に、ばっと振り向いた。
周りに降っている「雪」のイントネーションじゃ無くて、私の名前。
「お母さん?」
その声は、仕事に行ってるはずのお母さんのものに聞こえる。
「どこに行ってたの!探したのよ?」
「え、なんで、仕事は?」
「そんなの年越し前には無理やり切り上げてきたわよ!
プレセント持って家に帰ってきたら貴方はいないし、どさくさに紛れてあれはゲージ開けて逃げちゃうし……。」
もうたくさん、というふうに私の母親は額に手を当てた。
「そっか。ごめん、心配かけて。
って言うか、え?逃げるって?何が?」
私の家に脱走を目論むような動物はいない。
だって飼っているのは熱帯魚ぐらいだから。
「あぁ、その『プレゼント』よ。
真っ白いうさぎを買ったんだけど、逃げ出しちゃったのよねぇ。」
なるほど……。
って、え?白いうさぎ?
それってもしかして……。
「ねぇ。それってこの子?」
私は腕に抱えてた雪うさぎに目線を移した。
腕の中にはまっしろいもこもこが乗っかっている。
「そう、それ!いったいどこで?」
「草むらから飛び出してきたんだ。
これから飼い主を探そうと思ってたんだけど、お母さんだったんだね。」
「ううん。ゆきにあげようと思って買ったうさぎだから、これからはゆきが飼い主よ。」
なるほど。
じゃあ拾ったのが私で正解だったと言うわけだ。
「ありがとう。仲良くするね。」
「そうしてくれると嬉しいわ。」
私は、その白いうさぎに向かって話しかけた。
「よろしくね、うさぎさん。」
まるでそれに呼応するかのように、雪うさぎはグゥ、と鳴いた。