日暮れの自意識
色々なお住まいがある。
その中の一つに、”集合住宅”と呼ばれる。色々な方がお住まいになられるものがある。
お話の都合上、物凄く簡単に言えば、1つの建物に多くの方がいるわけだ。
「最近、日暮れるの早すぎ」
矢木は自前のライトをつけて、ここの荷物をしっかりと確認し、持ち出す。
建物によっては灯りがついているところがあれば、この暗い時間帯でも灯りのない集合住宅がある。主に後者は2,3階建て、エレベーター無しの賃貸タイプの集合住宅。
この手の集合住宅は、あれだ、凄く部屋番号が乱立している事が多く。配達する人間にとっては、誤配達になりやすく、表札付けるところもないみたいなので、正直言うと嫌だ。ついでのように、隣にも似たような名前をつけたアパートがある事も多いため、どっちか分かんねぇって事になりやすい。ホントに性質悪い。
トットットッ
灯りもまだつかないので、ここいらからは慎重に。
急がずに丁寧に取り扱うのも配送の基本。
幸いにも部屋番号だけはしっかりと表示してあるため、ここのチェックは怠らない。場所によっては部屋番号もないし、アパート名もないとかあるし……だ。
トットットッ
前を歩く帰宅帰りの中年男性の後ろを歩くように、ゆっくりと乱立している部屋番号を確認して進む矢木……。たぶん、これ。一番奥の部屋だと思う。自信はないから見ているわけだが……。
奥まで進めばこの自信も確かになるわけだが、無駄に横に広いのも。この手の集合住宅でイライラする。
「オラアアァァッ」
「!?」
すると、急に前を歩く帰宅帰りの中年男性がドアの前で振り向き、いきなり矢木に怒声をあげる。
「なに後ろからついてくるんじゃああぁっ!!」
こっちがビックリするわ。
「気配殺してついてくんじゃねぇ!!俺に何の用だよ!?」
「え?101号室の方ですか?」
「あ、違う。隣、一番奥」
「そう」
急に落ち着くなよ……。
とまぁ、こんな偶然もあるのがお仕事というものである。夜間帯に近いほど、帰宅時の方とエレベーター内で会ったりすることも珍しくはない。
もっともそう感じるのは、長いこと働いていると感じる事ではあるが……。