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2,

(じゅん)、おかえり」


 僕が監獄(がっこう)終わりにバイトに勤しんでから帰ると、音楽系の大学院に通っている従兄弟の(みやび)さんが帰ってきたところだった。彼は大学の近くで一人暮らしをしているがバイトがない日などはちょくちょく実家に帰ってくる。


「・・・・・・ただいま、雅さん」


 雅さんは僕の母の兄の息子。僕は随分前から雅さんの家に・・・・・・母方の叔父家族の家に居候している。

 僕の親は僕が小学生の時、心中した。

 学校から帰ると、両親がお互いの腹を包丁で刺し、血の海で死んでいた。

 なんで僕も連れて行ってくれなかったんだろう・・・・・・。

 その時の父とは血が繋がっていなかった。本当の父親は、母も知らない。

 養父(とう)さんと母さんは心から愛し合っていたから、僕が邪魔だったのだろう。

 ・・・・・・それなら僕を殺してくれたらよかったのに。

 自分の存在意味が分からない。なんで僕は生きているんだ。なんで僕なんかが生きているんだ・・・・・・。


「・・・・・・洵」


 ふいに雅さんが僕の名を呼ぶ。切ない、そんな顔で。

 僕は咄嗟に傷だらけの左腕を隠す。だけど雅さんはその醜い左腕を逃がさない。

 どうして気付かれてしまったのだろう・・・・・・。

 雅さんと僕は正反対の人間だ。

 彼は外見も性格も『綺麗』な部類に入る。友人も多いらしいしよくモテる方だとも思う。

 僕は、希望に向かって努力している雅さんを尊敬している。だけど、たまにこういう顔をされると癪に障る。

 不思議と昔から浮いた話の無い雅さんはやはり自分が『綺麗』な部類に入るからそれだけ理想が高いのだろうとずっと思っていた。


「また、傷が増えてる・・・・・・。早く腕の傷の治療しないと」

「・・・・・・大丈夫だよ、自分でなんとかするから」


 貴方には何も分かりやしない。優しい従兄弟にそう言いかけて、やめた。どうせまたあの切ないって顔をするから。


「洵」

「何だよ! 治療なら一人で出来るって言ってるだろ!」

「・・・・・・父さんと母さんに聞こえる。気付かれる前にこっち」


 雅さんはヒステリーを起こす僕を二階にある自分の部屋だった場所に引きずり込み、慣れた手つきで僕の汚い手首の消毒を始める。

 嗚呼、やっぱり雅さんのその偽善者的な表情が僕は嫌いだ。

 でも、その時の雅さんの表情はいつもと何かが違った。


「今週末の土曜日、確かバイトは休みだよね?」

「・・・・・・は? そ、そうだけど・・・・・・」


 僕は少しでも生活費の足しになればとコンビニなどのバイトを掛け持ちをしている。

 居候の分際でタダ飯食いは罪悪感があるし、ましてや小遣いまで寄越せとは言えないし、なにか僕の存在を肯定してくれるモノが欲しいから。

 そしてもう僕も高校生だし社会勉強を兼ねていた。

 自分達の息子には勉学優先でバイトなんかするなと言っていたのに僕にはあっさり許可する辺り笑うしかない。


「じゃあ、一緒に気分転換しにいこう。決定な」

「・・・・・・は?」


 その時の僕の顔は見事な間抜け面だったと思う。

 雅さんは優しすぎて損をしているんじゃないかというくらいお人好しで、こんな強引に物事を決めたりする人じゃない。そういう少し女々しいところが恋人として異性から支持されないところなのだろうか。


「・・・・・・俺の友人がさ、バンドを組んだんだけど、隣町の駅前路上ライブで俺が作曲した曲を演奏してくれるんだ。一緒に観に行かない?」


 雅さんの高校時代からの友人が数ヶ月前にバンドを組んだらしい。そのバンドマン達がどんな人達なのかは知らない。でもたぶん知っている。叔父さんは自分の息子を音楽の道へと引きずり込んだ友人達を毛嫌いしていたから雅さんは高校時代の友人をこの家に呼んだことがない。恐らくその彼らだろう。

 この言葉を雅さんがどんなに勇気を振り絞って言ったのか僕は分からなかったけれど、何故か僕はこの言葉に頷いていた。

 くだらない日常をぶち壊したかったのかもしれない。だから尊敬する大嫌いな従兄弟の提案に無意識に頷いていたんだ。

 路上ライブを観に行っただけで何かが変わるとは思わなかった。ただ僕はくだらない日常にどんな些細でも刺激が欲しかったんだ。


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