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高校二年の春。
最低限の手入れしかしていないぼさぼさの漆黒の髪に分厚いレンズの黒縁眼鏡、夏でも暑苦しい長袖を着て、無口で根暗でネガティブで大人しい性格。古典的だがテンプレートないじめられっ子の僕は現在進行形で嫌がらせを受けている。
朝、通っている高校に登校してみると、僕の靴箱スペースはゴミで溢れかえる。しかし本来そこにあるはずの上履きが無い。なんと古典的な嫌がらせだろうか。まだ、こんな古典的な嫌がらせをする奴がいるのか。まあ、これが僕の日常の一コマだけれど。
ゴミ箱を漁ってみるとそこには前日より黒く汚れた僕の上履きが捨てられてあった。
はぁ・・・・・・。
溜息を一つ吐き出してゴミ箱から上履きを救出しようとした。したのだが・・・・・・。
「・・・・・・しーねよ、×××!」
「・・・・・・っ」
汚い暴言と共に僕に投げられたのは、カフェオレの入った紙パック。暴言を吐いた女子が持っていたモノだ。
残っていたカフェオレが僕の頭と肩にかかり、ついでにゴミ箱から救出しようとした上履きにもかかった。
一瞬、つい眉間に皺を寄せてしまった。
すると、暴言を吐いただろう女子生徒とそのお友達さんが甲高い耳障りな嗤い声を上げてその場から去って行った。満足したのだろうか。それはヨカッタ。
とりあえず鞄に入れてあったタオルで頭と肩にかかったカフェオレを拭き取り、汚れて可哀相な上履きを救出。上履きはもう本当に申し訳なくなるくらいに汚れてしまっていた。
でも、新しいのを買ってもまたこうなるのは目に見えている。
こういうことがよくあるため持ち歩いていたウェットティッシュで上履きを軽く拭いて履いてみたけれど、履き心地はお世辞にも良いとはいえない。でも、仕方ない。
僕は二年の教室がある三階へと繋がる階段を上がっていく。僕が収容されている教室が近づく程に他の生徒の顔つきや目の色、雰囲気はより厳しいモノになっていく。
時折、「あいつ、くさいよね」「きもっ」「しねよ」などと暴言――正論――が聞こえてくる。それが、現実のモノなのか僕の脳が作った幻か、僕には分からない。
――ブー、ブー、ブー・・・・・・
何処から僕の電話番号が漏れたのか、知らない番号からの着信も多々来るから意味が無いので諦めている。相手はこんな人間にわざわざ労力を割いてご苦労様だと思う。
それに番号を変えたりしても、バイト先とか学校の連絡網でもしもがあるから消せない。まあ、学校の連中は律儀に僕なんかに連絡網を回してくる奴なんかいないけれど。
幼い頃から嫌がらせは日常茶飯事だったが、義務教育を終えれば少しは変わるのではと少し期待していた。そんな期待は見事に崩壊した。
嫌がらせをされる側には何も非は無く、ただ、周りの気まぐれでそんな環境にいるという人もいるようだけれど、僕の場合は僕に全ての原因があるようだ。
そう、醜い僕が全て悪い。
「そんなことないよ」と受け入れてくれた人が現れたと思ったら、嫌がらせだったこともあった。その『嘘』は罰ゲームだった。
(・・・・・・はやく、死にたい)
僕が居なくなればこの学校は他の生徒にとってそして世の中にとって楽園になるんじゃないか、僕さえ居なくなれば・・・・・・。そればかり考えてしまう。
精神を安定させるために、僕は教室の手前にあるトイレの個室に入り、制服のポケットに忍ばせていたカッターナイフで自身の傷だらけの左腕からまた赤い液体を流した。
それはもうこんな馬鹿げたことで泣くことに疲れた僕の涙だった。
和式の便器に赤が落ちるのをボーッと眺めていたら、その赤を消し去るように上から雨が降ってきた。
朝のホームルーム。ジャージ姿の僕を見ても担任は何も言わない。
僕の存在を担任すら否定。いや、削除。
抵抗も反論もしない。電子での繋がりがある以上どうせ何も変わりやしないしただただ面倒くさい。
保護者に学校で嫌がらせを受けていることを気付かれ学校側に抗議されたことがあったが学校での状況は改善されることなく、むしろ悪化した。
もうなにもかも面倒くさい。嫌がらせをしてくる奴等も、隠蔽がお好きな学校も、世間体を気にして仕方なく保護者をしている大人も、偽善的に僕に構ってくる兄的存在もなにもかも面倒くさい。
そんなとある日だった。
僕の日常をぶち壊した『あの人』と出逢ったのは・・・・・・。




