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竜胆の意外な趣味

2019/08/30 00時 更新

         ※




「ありがとうございました~」


 支払いを終えて、俺たちは店を出た。


「本当に払ってもらっちゃって良かったの?」

「竜胆のお陰で昼食代が浮いてるから、そのお返しだ」


 いつも弁当を作ってきてもらってることを考えたら、このくらいのお礼はしておくべきだろう。


「ありがと……。皆友くんって、やっぱ優しいよね」

「……このくらいは普通だ」

「そんなことない。

 こういうこと、当たり前にできるってすごく大切なことだと思う。

 相手を思いやる気持ちって……忘れがちだと思うから」

「そういう風に考えられる竜胆のほうが、俺よりもよっぽど優しいだろ」

「皆友くんの方が、優しいよ」


 何故かお互いに譲らない。

 会話が止まる。

 互いを見つめる俺たち。

 でもどうしてか、互いに言葉が出ない。


「あの~……お店、入ってもいいですか?」

「「っ!?」」


 沈黙を破ったのは店の前にいた第三者の声だった。


「す、すみません」

「ごめんなさい」

「ふふっ、カップルが仲良しなのはいいけど……見つめ合うなら他の場所でね」


 微笑を浮かべて、お姉さんはお店に入っていく。

 周りから見たら、俺たちはバッカプルのようだったのだろうか。

 そう思うと羞恥心から顔が熱くなっていく。


「……い、移動するか」

「そ、そうだね。

 この後は、買い物に付き合ってもらうから」

「了解」


 どうやら次の予定は組まれていたらしい。


「ん……」


 手を差し出される。

 繋いでくれと竜胆の表情が訴えていたのだが。


「……行くか」


 俺は先を歩いて行く。


「ちょ!? 繋いでくれないわけ!?」


 すると慌てて追いかけてきた竜胆が俺の手を握った。

 本当に嫌なら拒絶することはできたけど、


「えへへ」


 幸せそうに照れ笑いを浮かべる竜胆を見ていると、それはできなかった。

 そもそも不快な感覚など俺にはないのだから。


「お店、こっちね」


 くっ付いて歩いていると、互いの肩がぶつかる。

 その度に、胸の中にこそばゆい気持ちが広がっていった。




        ※




 竜胆の買い物というと、イメージ的には服や香水、アクセサリーとか……そんな感じだと思っていたのだけど。


「ここって、レンタルとかゲームや漫画が売ってる店……だよな?」

「そうだよ。

 最近、来てなかったから色々と見たいんだよね」


 意外だった。

 まさか竜胆とこんな場所に来ることになるなんて。

 軽い驚きを覚えながら俺たちは店内に入る。


「何か見たい映画でもあるのか?」

「それもあるけど、ゲームとか漫画も見たいかなって」

「マジか? ゲームとかやんの?」

「そりゃやるでしょ?」


 この反応からすると、竜胆にとっては当然のことらしい。


「どんなのをやるんだ?」

「う~ん? 最近遊んだのはゾンビを倒すゲーム」


 流石に正式なタイトルまでは出てこないらしい。

 軽く楽しむ程度なのだろう。

 だが、それでも意外なことには変わらない。


「皆友くんはやんないの?」

「暇潰し程度……だな。

 協力プレイできるアクションゲームとか、妹と遊んだりするぞ」

「へぇ、皆友くんって妹さんいるんだ。

 あたしは一人っ子だから、ちょっと羨ましいかも」


 口にした後、軽い後悔。

 中学時代の黒歴史を考えれば、できる限り自分の話はしたくない。 

 知られるメリットなど何もないのだから。


「ねぇ、オススメがあったら教えてよ。

 それで一緒に遊ばない?」


 一緒に……か。

 直接会ってデートするよりは遥かにハードルは低い。

 そう思って俺たちはゲームコーナーに足を運んだ。


「これなんてどうだ?」

「あ、それ知ってる」


 俺が手に取ったのは、擬人化したタコが水鉄砲で陣地の取り合いをするゲームだ。

 かなり有名なタイトルなので竜胆も知っていたようだ。


「オススメなら、買ってみよっかな。

 一緒に遊んでくれるよね?」

「……まぁ、たまにでいいなら」

「なら、約束だかんね!

 次の休日に付き合ってもらうから!」


 こうして、俺の休日の予定が埋まった。

 どうせ休日は家にいるだけだから何も問題はない。

 何より、こうしてデートするよりも、よっぽど気楽だ。


「お前、大丈夫なのか?」

「何が?」

「友達付き合いとか。

 遊ぶ相手なんて、俺以外にもいくらでもいるだろ」


 岬や小鳥遊……男子ではあるが飛世などもそうだろう。

 それに竜胆なら、中学時代の友達ともまだ交流はあるはずだ。


「へーき。

 てか、気にしてくれるんだったら、美愛やカレンとも一緒に遊べば良くない?」

「俺も含めてってことか?」

「とーぜん!」

「……岬たちが嫌がりそうだがな……」

「そう? 男の子とも結構遊んでるから大丈夫だと思うけど」


 多分、飛世たちのことだろう。

 それ以外でも、竜胆なら友人は多そうだが。


「ぁ――ち、違うからね!」

「うん?」

「あ、遊んでるって、そういう意味じゃないから!」


 何を慌てて否定しているのだろうか?

 竜胆の顔は真っ赤になって――。


「っ……」


 少し遅れて、意味を理解した。


「ま、前にも言ったじゃん。

 あたしそういう経験――ない、から」

「そ、そんな恥ずかしいなら、言わなくていい」

「だ、だって、皆友くんに勘違いされたくないから……」


 派手な見た目をしているが、竜胆が純粋な女の子なのは理解している。

 それほど恋愛にも慣れてはいないのだろう。

 高校生くらいなら、それも当然かもしれない。

 でも……誰よりも人付き合いが苦手な俺には、こういう時、何を言ったらいいのかまるでわからなくて……。


「……と、とりあえず、買ってきたらどうだ?」


 なんとか口にした言葉がこれだ。


「あ……えっと、そ、その前にさ、映画と漫画も、見ていい?」

「……ああ」

「なら、今度はあたしが、皆友くんになんかオススメしてあげる」


 言って竜胆はレンタルコーナーに足を運んだ。


「これ! めっちゃオススメ!」

「……オーロラの向こうへ?」


 全く聞いたことのない映画だ。


「ネタバレはできないけど、マジで感動するから!」


 興奮した様子で、竜胆は一生懸命、作品の良さを伝えようとしてくれている。


「……そこまで言うなら、レンタルしてみるか」  

「ほんと!? 見たら感想教えてよ。

 この映画の話、誰かとしてみたかったんだよね」

「他に何かオススメはあるか?」

「うん! 後は……」


 俺と竜胆は店内を回る。

 話せば話すほど俺たちの好みが似ていることがわかっていく。

 互いを知れば知るほどに、相性の良さが浮き彫りになっていくようだった。

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