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大きな価値のある一歩

20190927 17時更新

          ※




 風呂から出て居間に戻ろうとした時、


「凛華お姉ちゃん、お顔が真っ赤ですよ?

 のぼせちゃいましたか?」

「だ、大丈夫だから……」


 こんな会話が聞こえてきた。

 どうやら竜胆も動揺は消えていないらしい。


(……ここは俺の方から自然に話を切り出さなくては)


 話題をいくつか考えてから、俺は居間に入った。

 だが、


「……」

「ぅ……」


 竜胆と目があった瞬間、それが全て吹っ飛んだ。

 互いに、さっきのことを意識してしまっている。

 それが丸わかりだ。


「も、もしかして……お背中流し作戦、失敗でしたか?」


 困った顔の天音が、そんなことを言った。

 どうやら、竜胆があんな行動を取ってきたのはうちの妹が原因らしい。

 天音にとって、どうなれば成功で、どうなれば失敗だったのか。

 それは後日、尋ねるとして、今は何か話題を……。


「あ、あたし、そろそろ帰るね」


 悩んでいる間に竜胆が立ち上がった。

 夜もかなり更けている。

 明日も学校がある以上、これ以上引き止めては明日に差し支えるだろう。


「泊まっていかないんですか?」


 何を言ってるんだうちの妹は!?


「き、気持ちは嬉しいけど……着替えもないから」

「そうですか……残念ですけど、仕方ないですよね」


 竜胆にやんわりと断られて、天音も諦めたようだ。


「送ってく」

「悪いから」

「それくらいさせてくれ」


 まだ深夜帯というわけではないが、単純に俺が心配だというのもあった。


「……じゃあ、お願い」

「おう」

「お兄ちゃん……凛華お姉ちゃんの家に泊まってきてもいいですからね!」


 グッと親指を立てる天音。

 どうやらアシストをしているつもりらしいが、返答に困ってしまう。

 竜胆はぽっと頬を染めるだけで拒絶はしなかった。

 無言は肯定とも取られかねない。


「……い、行くか、竜胆」

「う、うん」


 天音の言葉に返事はせず、俺たちは家を出たのだった。




         ※




 マンションを出て駅に向かう俺たち。


「天音が悪かったな……色々と」

「ううん。

 すごく楽しかったから……あ、あたしのほうこそ、ごめんね」

「竜胆が謝るようなことは何もないだろ?」


 本当に、そう思ってる。


「ちょっと……勢いのまま、行動しすぎちゃったから……」


 どうやら竜胆も、そこは反省らしい。

 思い出すだけでも赤面してしまいそうだ。


「そうだ。

 今日のお礼に、今度は俺に何かさせてくれないか?」

「そんなのいいよ。

 悪いもん……」

「俺がしたいんだ。

 ダメか?」


 竜胆からの感謝の気持ちを、当然と思って受け取るようなことはしたくない。

 それに、竜胆がしてほしいことがあるなら、出来る限りでなんでもしてやりたい。


「ずるい……。

 そんな風に言われたら……断れないじゃん」

「なら、決定だな」

「……お礼って、なんでもいい?」

「俺にできることなら」


 先にそれだけは断っておく。

 そんな無茶な注文を竜胆がするとは思っていないが……。


「一つだけ……」


 竜胆が足を止めて、俺を見つめる。

 その眼差しはあまりにも真剣で、彼女が大切なことを伝えようとしているのがわかった。


「お願いを聞いてほしい」

「なんだ?」

「まだ時期はわからない。

 早ければ次の休日になると思うんだけど……付き合ってほしい場所があるの」


 口振りからして、デートという雰囲気ではない。

 だが、竜胆が俺を必要としてくれるなら答えは決まっていた。


「どこに行くんだ?」

「……会いたい人がいるんだ。

 もしかしたら、その人はあたしに会うのなんてイヤかもしれないけど……もし、できるのなら……」


 そこまで聞いて、竜胆が何をしようとしているのかがわかった。


「あたし一人だと、勇気が出せないけど、皆友くんが一緒にいてくれたら、きっと……」

「……わかった。

 俺で力になれるのなら」


 頷き返事をする。


「……ありがとう。

 日程、決まったら連絡するから」

「ああ、待ってる」


 全てが上手くいくかはわからない。

 もしかしたら傷付くことになるかもしれない。

 それでも、竜胆は踏み出そうとしている一歩は大きな価値のあるものだから。


(……何があったとしても、俺が竜胆を支えよう)


 その覚悟を持って、俺は彼女の背中を押すことに決めた。

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