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天音ちゃんは恋愛経験豊富!?

20190924 22時更新

           ※




 テレビを見ながら待つこと三十分。

 食欲を駆り立てる香りに空腹が強まってきた頃、


「皆友くん、お待たせ」


 ついに二人の手作り料理が完成した。


「どの料理も、凛華お姉ちゃんの愛情たっぷりです」


 テーブルに並んでいる料理の数々を見れば、竜胆が一生懸命作ってくれたのがわかる。


「はっきり言われると、ちょっと照れるけど……皆友くんに喜んでほしくてがんばったから……冷める前に食べてみてよ」

「ありがとな。

 それじゃ早速……いただきます!」


 パン――と、手を合わせてから、俺は箸を手に取った。

 どれも美味しそうなので、まずは最初に目に入った料理――肉じゃがを口に運ぶ。

 良く火が通っていて、ほくほくだ。

 じゃがいもの甘みと牛肉の旨味がしっかりと染み込んでいて、口の中に幸せが広がっていく。


「どう、かな?」


 竜胆は緊張した面持ちで料理の感想を聞いてきた。


「めちゃくちゃ美味い……!」

「ほんと!? ……良かったぁ~」


 俺の感想を聞くと、ほっと胸を撫でおろして柔和な笑みを浮かべる。


「竜胆はやっぱり料理上手なんだな。

 こんな美味い肉じゃが初めて食べた」

「気に入ってくれたの?」

「ああ、かなり!」

「嬉しい……実は得意料理なんだよね」


 プロの料理人が作るよりも美味いかもしれない。

 正直、完全に胃袋を掴まれた。


「これならいくらでも食べられるよ」

「沢山あるから、いっぱい食べて。

 それに食べたくなったら、呼んでくれたらいつでも作るから」

「竜胆の手料理なら、毎日だって食べたいくらいだ」

「あたしだって、皆友くんの為なら毎日だって作ってあげたい」


 気付けば、俺たちは見つめ合っていた。

 くすぐったくて、ちょっとだけもどかしいような……でも、それだけで胸の中に温かい気持ちが溢れてくる。


「なら、明日からも一緒に食べませんか?」

「はっ!?」

「えっ!?」


 天音からのまさかの提案に、俺と竜胆の驚愕が重なった。


「凛華お姉ちゃんがよければ……なんですけど、やっぱり難しいでしょうか?」


 俺たちの反応を見て、天音は窺うように尋ねてくる。


「あたしは大丈夫だけど……皆友くんは、どう?」

「俺は……竜胆がいいなら。

 でも、毎日は大変じゃないか?」

「一人分作るのも、みんなの分を作るのも変わらないよ。

 それに皆友くんに食べてもらえるの嬉しいから」


 互いに遠慮はありながらも、俺たちの答えは最初から決まっていたんだと思う。


「なら決定ですね!」


 急展開ではあるが……これからうちの食卓は、さらに賑やかになりそうだ。




          ※




 食事を終えて。

 片付けくらいは俺がするつもりだったのだけど。


「今日はお礼なんだから、全部あたしに任せて皆友くんはゆっくり休んでてよ」


 ということで、竜胆に任せることになった。


「お兄ちゃん、お風呂に入っちゃったらどうですか?」

「……そうだな」


 シャワーで汗を流すくらいはしておきたいが……。


「皆友くん、遠慮しないで入ってきてよ。

 その間に食器を洗っておくから」


 竜胆は俺の考えに気付いたらしい。

 ここで断るのは余計に気を遣わせてしまうかもしれない。


「……ならお言葉に甘えさせてもらうかな」

「うん、いってらっしゃい」


 それだけ伝えて俺は部屋を出た。




        ※




 皆友くんがリビングを出て行った直後、


「凜華お姉ちゃん、これはチャンスです!」


 お皿洗いを始めようとしたあたしに、天音ちゃんが言った。


「チャンス?」

「お兄ちゃんのお背中流し作戦です!」

「お背中……っ――!?」


 最初、何を言われているのかわからなったけど、理解した瞬間――皆友くんの姿を想像してしまった。

 それだけで、体中が熱くなっていく。


「胃袋をバッチリ掴んだんですから、今度は心もがっちりキャッチです!」

「で、でも、流石に大胆すぎない?」


 天音ちゃんは知らないかもだけど、あたしたちはまだ……恋人同士でもないわけで……そこまでしたら、皆友くんにはしたない子だと思われないか不安だ。


「凛華お姉ちゃん、女は度胸です!」

「女は度胸……!?」


 確かにそれは大切だと思う。

 勇気を出さなければ、二人の関係は何も変わらない。


「お兄ちゃんは人付き合いに関しては、奥手さんですから……」

「それはわかってるつもりだけど……」

「そんなお兄ちゃんがです! 今まで家に女の子を連れてきたことはなかったんですよ!

 つまりお兄ちゃんにとって、凛華お姉ちゃんはそれだけ特別ってことです!」


 『特別』――その言葉を聞いて、胸が高鳴った。

 すごく嬉しくなってしまう。


「そんな特別なお姉ちゃんに、お背中を流されたら……」

「な、流されたら?」

「きっとお姉ちゃんのこと、今よりももっと好きに、夢中になっちゃうはずです!」

「天音ちゃんって、もしかして恋愛経験豊富なの?」

「ネットと漫画とアニメの知識です!」

「……それ頼りになるのかな?」


 結構、偏りがある気がするんだけど……。


「バッチリです!」


 でも、天音ちゃんは自信があるようだ。

 彼女が応援してくれるのは純粋に嬉しい。


「あたしは経験全然ないから、そういうわかんないけど……」


 男の人はそういうことをされたら、嬉しいのだろうか?

 でも、もしも皆友くんが、今よりもあたしを好きになってくれるのなら――。


「よし……! あたし、がんばってみる!」

「その意気です! お皿は天音が洗っておきますから」

「うん……じゃあ、行ってくるから」


 あたしは天音ちゃんに背中を押されたことで、覚悟を決めて皆友くんのいる浴室に向かうのだった。

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