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手料理

20190923 19時更新

         ※





「ただいま」

「お帰りなさいです、お兄ちゃ――凛華お姉ちゃん!?」


 玄関まで出迎えてくれた妹が、竜胆を見てびっくりしている。

 竜胆の家に行く決断はできなかった俺は、彼女を自宅に誘ったのだ。


「天音ちゃん、お邪魔するね」

「はい、どうぞです~! お姉ちゃんが来てくれて、天音は嬉しいです!」

「あたしも天音ちゃんに会えて嬉しい。

 ……皆友くんに感謝しないとね」


 感謝と言いつつも、竜胆は意味ありげなジト目を向けてくる。

 まるで『意気地なし』と言われているみたいで、俺は思わず目を背けた。


「お兄ちゃんに大感謝です! ところでなんですが……その荷物は?」


 天音は俺が持っている食材の入ったビニール袋に目を向けた。


「買い物してきたんだ」

「あのね、天音ちゃん。

 今日の夕食はあたしが作ってもいいかな?」

「え!? 凛華お姉ちゃんのお料理が食べられるんですか!?」


 満面の笑みをさらに笑顔に変えて、天音は声を弾ませた。


「口に合うといいんだけど……でも、一生懸命作るから楽しみにしていてね」

「はい! すっごく楽しみです! あ、どうぞ上がってください」


 そして、俺たちは居間に移動した。

 リビングの向かい側にはキッチンがある。


「じゃあ早速、作っちゃおうかな」

「もうか?」

「皆友くん、お腹空いてるでしょ?」


 時間は17時30分を過ぎたところだ。

 今から作り始めれば、夕食の時間には丁度いいくらいだと思うが。


「少し休んでからでも大丈夫だぞ?」

「へーき。

 これはお礼の一つなんだから」

「お礼……?」


 妹が首を傾げる。


「いつも天音ちゃんのお兄ちゃんには、いっぱい助けてもらってるから」

「助けて……ですか」

「うん。

 だから、その感謝の気持ちを言葉以外で、形にしたかったんだ」


 竜胆は幸せそうに笑った。

 どうしてそんな顔ができるんだってくらい、本当に嬉しそうに。


「お姉ちゃん……本当にお兄ちゃんのことを好きでいてくれてるんですね」

「っ!? ど、どうして?」

「好きな人のことを考えてると、女の子ってふあ~ってなっちゃうじゃないですか!

 凛華お姉ちゃんも今、すごくふあ~ってなってて、幸せそうだったから」

「そ、そんな顔、して、た……?」

「はい! ね? お兄ちゃん!」


 このタイミングで俺に振るのか!?

 その流れで竜胆が俺を見る。

 目が合って俺に見られていたことに気付くと、竜胆は慌てて背中を向けた。


「ちょっ……い、今は、見ちゃ、やだ……。

 だ、だらしない顔、しちゃってたかもしれないし」

「そんなことはないが……」


 我ながら、どうしてもっと気の利いたセリフが出てこないのか。

 天音がいれば変に気まずくなることもないかと思ったが、もしかして失策だったかもしれない。


「……そ、そうだ! エプロン借りてもいい?」

「もちろんです! 天音チョイスでお姉ちゃんにはこちらをお貸しします!」

「ありがと」


 渡された赤いエプロンを、竜胆は手慣れた様子で制服の上から着けていく。


「お姉ちゃん、とっても似合ってます!」

「そう、かな?」

「はい! お兄ちゃんもそう思いますよね?」


 いや、天音さん、だからなんで俺に振ってくるの!?

 思ってても、そんな簡単に正直な想いを伝えられるわけがない。

 でも普段は見られないその姿は新鮮で、可愛いと思う。


「あ、あんまり見られると恥ずかしいから……」

「ぁ……す、すまん。

 イヤ、だったよな」

「あ、ち、違う、から。

 イヤじゃない、けど……その……ど、どう? 似合ってる?」

「……あ、ああ」

「そう……可愛いって思ってくれたなら、嬉しい」


 またお互いに視線を合わせられなくなってしまった。

 なんだか間がもたない……もしかしたら、二人で過ごす時よりも酷いかもしれない。


「お兄ちゃん、ぶっきらぼう過ぎます! もっと可愛いよ! とか、すごく似合ってるね! とか、ないんですか?」


 不満と呆れが入り混じったように、妹に注意されてしまった。

 不甲斐なくてすみません。


「と、とりあえず……邪魔にならないようにリビングにいるから」


 その場を逃げるように立ち去って、ソファに座りテレビをつけた。

 本当は何か手伝ったほうがいいと思っていたのだが、戦略的撤退だ。


「凛華お姉ちゃん、天音もお手伝していいですか?」

「いいの? リビングでゆっくりしててくれても大丈夫だけど……」

「一緒に作りたいです!」

「わかった。

 じゃあ美味しいのを作って、皆友くんをびっくりさせちゃおっか!」


 テレビの音に交じりながら、そんな会話が聞こえてくる。

 竜胆も天音も料理上手なので、俺は今日の夕食がとても楽しみになっていたのだった。



           ※




 キッチンに立つと、あたしたちはテキパキと調理の準備を進めていく。

 誰かと一緒に料理を作るのは、実家にいた時以来なのでちょっとだけ懐かしい。


「ごめんなさいです、凛華お姉ちゃん」


 準備が終わったところで、なぜか天音ちゃんに謝られた。


「どうかしたの?」

「お兄ちゃんのことです。

 素直じゃないというか、ちょっと照れ屋さんなところがあるので……」


 天音ちゃんが、申し訳なさそうに口を開いた。

 どうやら、さっきの皆友くんの様子を気にしていたらしい。


「皆友くんが照れ屋なのは、良く知ってるつもり。

 でも、そこが可愛くもあるんだよね……いざっていう時は男らしくてカッコいいから、ギャップにもグラッときちゃうっていうか」

「あ~、それはわかります。

 普段はポンコツお兄ちゃんですけど、いざという時は頼りになる一面もあるので!」


 どうやら天音ちゃんの目から見ても、皆友くんの評価は同じらしい。


「うん……それに、すごく優しくて……だからどんどん好きになっちゃう……」


 これは、この場だけのガールズトークだ。

 皆友くんはリビングでテレビを見ているので、あたしたちの会話は聞こえていないだろう。


「お姉ちゃんにそんな風に思ってもらえるなんて、お兄ちゃんは幸せ者ですね。

 ちょっと不器用なところもありますが、愛想を尽かさないであげてくれると天音は嬉しいです!」

「それは大丈夫だけど……」


 さっきも伝えた通りだけど、どこまで好きになっちゃうの? ってくらい……あたしは皆友くんのへの想いが強くなっている。

 もっとおしゃべりしたい。

 いっぱい甘やかしてもらいたい。

 頭を撫でてほしい。

 ぎゅっと抱きしめられたい。

 二人でデートにも行きたい。

 それから……き、キス、とか……そ、その先も、皆友くんとなら、したいって思ってる。

 まだ恋人にもなれてないのに、そんな風に思っちゃうあたしは、ちょっとエッチな子なのだろうか?

 でも、そうなりたいと思えるのは、皆友くんだけだから……。

 きっとこれが、人を好きになるってことで、恋をするってことなんだって思えた。


「どっちかって言うと、あたしのほうが愛想尽かされないか心配なくらいなんだよね」


 世の中には魅力的な女の子がいっぱいる。

 そういう子がもし、皆友くんの魅力に気付いてしまったら……あたしは、負けてしまうかもしれない。

 だけど……それでも、あたしは皆友くんの一番になりたいと思ってる。

 他のことで一番にはなれなくてもいいから――皆友くんのことでだけは、絶対誰にも負けたくなかった。


「凛華お姉ちゃんなら、大丈夫です。

 それに、もしお兄ちゃんがそんな贅沢なこと言ったら、天音の妹パンチでお仕置きです!」


 ぐっと拳を握る天音ちゃんはとても可愛いらしかった。

 こんな愛らしい攻撃を受けたら、なんでも言うことを聞いてしまうと思う。


「ありがとう、天音ちゃん。

 あたし、がんばるから……」


 もっとお互いの関係を進展させたい。

 その為にもまずは皆友くんの口から……『好き』って言ってほしい。

 そして……恋人になりたい。

 あたしが皆友くんとつりあってないのはわかってるけど、それでも……彼のことが好きだから。


「凛華お姉ちゃん、まずは手料理でお兄ちゃんの胃袋を掴んじゃいましょう!」

「なら、気合を入れて作らないとだよね!」


 好きな人を想いながら料理を作ることができるのは、本当に幸せなことだと思う。

 これも恋をして知ることができた気持ちの一つだ。


(……喜んでくれる、よね)


 皆友くんがどんな反応を見せてくれるのか。

 あたしはそれを楽しみにしながら、調理を進めていくのだった。

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