三人の友情
20190922 14時更新
そして、
「被疑者を確保。
迅速に連行しろ!」
屋上にやってきたスーツ姿の刑事たちが、指示に従い速やかに行動を始めた。
学校への介入ということもあって、警察も交渉に骨を折ると思ったが、上手く取り纏めてくれたことには感謝しなければならない。
「……無茶していただいてすみません。
証言を信じていただきありがとうございました」
俺が言葉を向けたのは、この事件の指揮を執っている女性だ。
「現行犯である以上、信じないわけにはいかないよ。
まあ、多少の交渉はあったが……無茶などはしていないさ。
我々は『保護者』という立場で、この学校に来たに過ぎないのだからね」
「……ここにいるあなたたちは、警察ではなく生徒の保護者ということですか」
「ふふっ、わざわざパトカーを使わず、一般車できたからね」
警察と学校でどんな交渉があったのかはわからないが、そこまで徹底しているなら文句は出ないだろう。
警察の介入などなかったことにしてしまえば、騒ぎなど起きようがない。
つまり関係者が口を閉ざして置けば、それで済むというわけだ。
「学校側はトラブルをさけられれば問題ない。
そして我々は事件を解決できれば構わない。
互いのメリットが一致した結果だ。
キミたちも、この場で見たことは他言無用にしてくれたまえよ」
女性刑事が竜胆たちに目を向ける。
三人の女子生徒は困惑しながらも頷いて、肯定の意志を示した。
警察が動くほどの事態を飛世が引き起こした。
それがどういうことなのか、当事者ではない岬と小鳥遊も理解しているだろう。
同時にそれが、触れてはならないことであることも。
「……あ、そうだ。
刑事さん、これを」
「うん?」
「『落とし物』です」
言って彼女に渡したのは、不良グループのリーダーである不動史一の携帯電話だ。
これは俺が廃工場に落ちていた物を拾っておいただけだ。
「ふむ……落とし物なら、仕方がない」
「ええ、落とし物は届けないとですから」
「その通りだな。
優良な市民の行動に感謝するよ」
互いにとぼけた口調で苦笑を交わしたあと、女性刑事は屋上を出て行った。
あとは全て警察の仕事だ。
今回の事件に限らず飛世たちが関わる全ての悪事が、白日の下へと晒されることを願いたい。
(……さて、もうここにいても仕方ないわけだが……)
先程から、岬と小鳥遊は事情を説明してほしい! という視線でこちらを見ていた。
この事件は竜胆の過去が関係している以上、俺の口から話すつもりはない。
だが、もしも彼女が二人を信用すると言うなら、それで構わない。
俺は『どうする?』と問い掛けるように、竜胆に目を向けた。
「……皆友くん、今回の事件のこと、美愛とカナンには……話してもいいかな?」
「竜胆がそうしたいなら」
「ありがとう。
二人には話しておきたかったから」
彼女ならそう言うと思っていた。
それに俺も、岬と小鳥遊の竜胆に対する友情を疑っているわけじゃない。
「ちょっと時間がかかるかもしれないけど……」
竜胆は、自分なりに話せる範囲でこれまで事件のあらましを伝えた。
※
「……脅迫メール……翔也がそんなことを……」
「それ以上に問題なのは、竜胆に対する傷害事件のほう……もし皆友くんが助けに入らなかったらって思うと、ぞっとする」
竜胆の身に起こったことは、二人の想像を超えていたようだ。
脅迫、婦女暴行、麻薬所持に使用……普通に生きていれば縁のない世界の話が、こんなに身近に起こったのだから、それは当然だろう。
しかも、その犯罪を引き起こす原因となったのが、彼女たちと親しくていた人物であれば、強いショックを受けてもおかしくは――。
「それを先に知ってたら、うちもあいつを一発ぶっ飛ばしてやったのに!」
「同意。
気絶してる時、急所を蹴り上げてやれば良かった」
全くショックなど受けていなかった。
それどころか飛世に対して怒りを爆発させ過激な発言をしている。
そんな二人の様子に俺は唖然としていると。
「……どしたん、皆友?」
「どうしてそんな驚いているの?」
「いや……飛世とお前らは仲が良かったから、もっと悲しむと思ってたんだが……」
俺を見て不思議そうに尋ねる岬たちに、純粋な疑問をぶつける。
「この話を聞いて、悲しんだり同情する要素とかある?」
「飛世は最悪……見損なった」
「てか、元々グループで付き合いがあっただけなんですけど? 山城と仲良かったし、まぁいい奴だとは思ってたけど、中身がない男とかダサすぎんっしょ?」
「ダサいどころかありえない。
それに女の子に暴力を振るうなんて、最低」
ボロクソだった。
清々しいくらいに。
こういう時の連帯感や共感性の高さは、男子よりも女子が優れているかもしれない。
「凛華……大変だったね、辛かったよね。
気付いてあげらんなくて、ごめん」
「……わたしも、何もできなかった……凛華が苦しんでるの、感じてたのに……」
「美愛、カナン……」
目尻に涙を浮かべて、竜胆が二人の親友を見つめる。
「何かあったら今度はうちらにも相談して!
迷惑かけたくないって思うのとか、遠慮とかもあるかもだけどさ……うちらは凛華とマジで親友だと思ってるから」
「私も岬と同じ気持ち。
もっと頼って欲しかった……竜胆の様子がおかしくて、すごく心配だったから……」
三人の少女は友情を確かめるように、肩を寄せ合い抱きしめ合う。
人を信じ続けることは難しいことだけど……俺には手に入らなかったものだけど、それでも――確かな友情があると、信じていたい。
彼女たちが互いを想い合う気持ちは本物だと。
「美愛、カナン、ありがとう。
もし二人に何かあった時は、あたしも必ず力になるから……!」
そんな約束をする三人の姿を見て……俺はほんの少しだけ昔を思い出していた。
俺にもたった一人だけいた親友のこと。
蘇ってくる懐かしさと……もう一つ、胸に湧いてくる気持ちは……いや、この感情はきっと気のせいだろう。
(……羨ましいなんて、思うはずがない)
そう決め付けて、自分の感情に蓋を閉じたのだった。
※
話を終えて俺たちは学校を出た。
『邪魔しちゃ悪いから、うちらは先に失礼するね』
『……悔しいけど、凛華のことは任せるから』
気を遣ってくれたのか、岬たちとは途中で別れることになり……今は竜胆と二人きりだ。
とりあえず駅まで彼女を送ってから、俺は帰路に着こう。
そう思っていたのだけど、
「……ねぇ、皆友くん」
「うん?」
「今から……うちに来ない?」
「……」
思わず思考を放棄しそうになった。
「も、もう一度、言ってもらっていいか?」
「だ、だから……う、うちに、来ない……?」
どうやら俺の聞き間違いではないらしい。
「べ、別に、その、変な期待としかしてるわけじゃなくて……あ、いや、その、み、皆友くんだったら、いいんだけど……って、なに言ってるんだろう、あたし!?」
慌てて言い訳をしたと思えば、竜胆は羞恥心に悶え始めた。
「ご、誤解しないでほしいんだけど、お礼が……したいの……昨日と今日のぶんも――ううん、これまでの分も含めて……」
「……そういうことか」
「うん。
……ダメ、かな?」
不安そうに俺を見つめる竜胆。
勇気を出して誘ってくれたのが伝わってくる。
だからこそ、彼女の気持ちに応えたいが……竜胆の家に二人きりはマズい。
万が一……俺が暴走してしまったら、彼女を傷付けてしまうかもしれない。
(……なら俺にできるのは――)
逡巡しながらも、答えを出した。




