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勇気の結果②

20190913 22時更新(本日二回目)

(……この男の狙いはあたしじゃなくて、皆友くんなの?)


 あの日、彼にやられたことを根に持っているのだろうか?

 その復讐をする為に、あたしをここまで呼んだの?

 だとしたらあたしよりも、彼の身が危険だ。

 絶対に、誤魔化さなくちゃ。


「……し、知らな……」

「おい――」


 背筋が凍るような冷たい声が聞こえた直後――腹部に衝撃が走った。

 蹴られた勢いで身体が床に崩れる。


「ぅぐっ……」


 呼吸が止まる。

 お腹を強く蹴られて、一瞬息ができなくなっていた。

 足にも力が入らない。


「嘘吐くと、ろくなことになんないよ~」

「っ……」


 脅迫するように悪魔は嗜虐的な顔を向けて、あたしの髪を掴み矢理に顔を上げさせた。

 痛みに耐えるあたしを見て、愉快そうに表情を砕けさせる。

 吐き気を感じるほどの恐怖が、過去が蘇っていく。


「ほら――」


 パン! 髪を引っ張られたまま、右の頬を叩かれた。


「ほらほら――」


 パン! 打ち返すように左の頬を。


「ほらほらほら――ねぇ、これで正直になれるよね?」


 何度も何度も繰り返し、叩かれ続ける。

 暴力があたしの思考力を奪っていく。

 それでも、あたしは……。


「……知らない……」


 彼のことだけは守りたいと思った。


「仮に知っていたとしても、あんたたちには教えない」

「へぇ……見た目がちょっと変わったからって、自分が強くなったとしても錯覚してるの~……――イジメられっ子のくせに生意気なんだよ!」


 怒りに塗れた罵声と共に髪を強く引っ張られた。


「ねぇ、忘れちゃったわけ~? また思い出せてやろうか? 学校は違くなっても、お前を潰す方法なんていくらでもあるんだけど?」

「っ……」


 暴力と脅迫。

 中学の頃、それを延々と続けられることで、あたしたちは心が壊れていった。


「あ~そうだ。

 今の学校の友達も、まとめてイジメっちゃおっかな~。

 それすっごく楽しそう……想像してみなよ、友達がめちゃくちゃに犯されてるとこ、あんたのせいで、泣き叫んでるとこ」

「そん、なの……」


 美愛やカナンの顔が浮かんだ。

 あたしを慕ってくれる大切な友達。

 あたしの居場所がなくなるだけならいい。

 でも、彼女たちまでイジメのターゲットにされたら……。

 友達が、親友が壊れていくのを見ながら、何もできないまま、終わるの?

 あたしはまた……同じことを繰り返すことになるの?


「イヤだよな?

 もしそんなことになったら、ほら、なんだっけ……お前の友達だった女……あいつみたいに、自殺しちゃうかもよ?」

「ぇ……?」


 じさ……つ?


「え? じゃねえよ……あの女だよ。

 お前を裏切った女――理崎……だっけ?」

「梨衣奈が……自殺……?」


 理崎梨衣奈りざきりいな――あたしの親友。

 大好きだったあたしの憧れの女の子。

 関係は壊れてしまったけど、きっと、彼女も元気でいてくれてるって――イジメに負けずに立ち上がってくれたって、信じていた。


「あん? な~んだよ、知らなかったんだ~。

 でもお前、不登校になってたもんなぁ~。

 そう、お前を裏切ったあの最低な女……結局、学校でイジメられ続けて、あのあとに自殺したんだよね~。

 まぁ、未遂で死ねなかったみたいなんだけどさ~」


 梨衣奈が……イジメられ続けた?

 それはあたしが、生贄がいなくなったから……?

 あたしが梨衣奈を追い込んだの?

 苦しめたの?

 あたしのせいで……。


「ねぇ、竜胆……いいの?

 今度は本当に、お友達が死んじゃうかもしれないよ?」

「ぁ……ぁぁああ……」


 やだ。 

 そんなのやだ。

 やだよ、怖い、怖い……。

 美愛が死んでしまったら。

 カナンが死んでしまったら。

 もしも、皆友くんがあたしのせいで、死んでしまったら――あたしはもう、生きていけない……。


「怖いよね? やだよね? じゃあお話できる? 大丈夫……史一の知りたい男の連絡先とか、住所とか教えてくれるだけでいいの。

 そうしたら他のお友達も、あんたも助かる……」

「たす……かる?」

「そ……」


 悪魔が優しく微笑んだ。

 触れてはいけない甘い誘惑のように、恐怖に染まったあたしの心に染みて溶けていく。

 それは、あまりにも甘美で今直ぐにでも全てを晒け出してしまいそうで。


「あ~そうだ。

 正直におしゃべりできないとさぁ、折角助かった梨衣奈ちゃんも~どうなるかわかんないよ?」

「――!?」


 もし今度何かあったら……梨衣奈は……。

 そんなの絶対、ダメ……。

 もう十分、あの子はつらいめにあった。

 またあの時みたいな地獄を、味わう必要なんてない。


「……それだけは……やめて、くだ、さい……」


 心の中で、何かが折れた音が聞こえた気がした。


「あたしは、どうなってもいいから、みんなには、何も、しないで……」


 結局、何もできない。

 あたしはまた、イジメに負てしまう。


「ふふっ、そうそう。

 従順な子のほうが女の子は可愛いよ。

 あ~でも、楽しいなぁ……誰かを屈服させる瞬間――弱者を踏みにじる快感……イジメる相手がいるって、超気持ちいい……」


 悪魔は恍惚とした表情を浮かべている。

 こいつは人間じゃないんだ。

 誰かを苦してめて、それが楽しいなんて……そんな化物と闘うなんて、あたしにできるはず――。


『お前に無理をさせてしまうことになる……でも、竜胆がそれでも犯人に立ち向かうのなら……俺が必ず守ってみせる』


 あたしの奪われ掛けた思考を、皆友くんの言葉が繋ぎ止めた。

 そうだ。

 今のあたしは――。


「史一……もういいよ。

 これで、こいつなんでもしゃべるから」


 掴んでいた髪の毛を彼女は離した。

 あたしはその場に崩れそうになった――でも、力が入らない足で踏みとどまる。


「違う……これじゃ、ダメなんだ」

「あん?」


 ガタガタと足が震える。

 我ながら本当にカッコ悪い。

 でも、それでも――


「どれだけ暴力を振るわれたって、脅されされたって、あなたなんかに、あたしは負けない……!」


 今のあたしは一人じゃない。

 彼の言葉があたしの支えになってくれる。

 彼が一緒に闘ってくれている。


「みんなのことだって……あたしが守る!」


 あたしが勇気を出せば、この事件を終わらせられる――犯人を捕まえることができるって。

 だから――あたしはなけなしの勇気を振り絞った。


「はぁ……バカなの、あんた?

 もういいや……史一、薬残ってたよね?」

「ああ、これだけだが」


 リーダーの男から、二階堂さんが瓶を受け取った。

 中には錠剤のようなものが入っている。


「竜胆……これ、何かわかる?」

「な、なに……って」

「と~っても気持ちよくなれるお薬……エクスタシーって言うんだけど、一つ使ったら、ぶっ飛ぶくらい全身が研ぎ澄まされて敏感になんの」

「な、なにを……」

「これを使ってエッチなことすると~、もうすんごく気持ちよくてぇ……初めてやった時は十二時間くらいぶっ続けでセックスしちゃった」


 言いながら二階堂さんが歩み寄ってくる。

 いや、彼女だけじゃない。

 男たちが下卑た視線を浴びせながら、あたしににじり寄って来た。


(……逃げなくちゃ)


 震える足で必死に駆け出す。


「おいおい待てって」


 男に手を掴まれた。


「うわぁ……マジで可愛いな、この子……こんな子がレイプされちゃうとかかわいそ~」


 制服のシャツに手を掛けられて、ボタンを外すこともなく、無理矢理引き千切られ、そのまま押し倒される。


「やべぇ……ちょうエロいわ」


 露になった胸元を見て、男たちが下卑た笑みを向ける。


「や、やめ、て……!」


 抵抗する。

 でも、男の子の力はすごく強くて。

 数人の男に、腕も足も簡単に抑えつけられてしまう。


「このまま、スカートも脱がしちまおうぜ」

「触んなっ!」


 誰もあたしの叫びを聞いてなんていない。


「あ~待って待って、その前にお薬飲ませるほうが先……ほんとは溶かして血管に直接打つほうがいいんだけど……ま、初めてなら飲むだけでも十分っしょ?」


 カタン、カタンと革靴の音が鳴り、倒れるあたしの目の前に二階堂さんもしゃがみ込んだ。


「……ほら、あ~ん」

「ぐっ……」


 あたしは顔を背けた。


「待て、麗子」

「……なに?」

「まだ話すつもりはないのか?

 今話せばお前を助けてやると言っても?」


 不良たちのリーダーが、あたしにそんな提案をした。


「……あんたちに何か話すことなんてない」


 いくら身体を傷付けられたとしても、どれだけ心を踏みにじられたとしても。

 それよりもずっと――あたしはここで自分自身の弱さに負けたら、一生自分を許せないから。


「……そうかよ。

 麗子、好きにしろ」

「は~い。

 口開けてくんないし……粉々にして吸い込ませちゃうね」


 錠剤を砕き、粉末状になった薬を、あたしに近付けてきた。


「っ――」


 顔を背け、ぎゅっと目を瞑る。

 皆友くん……皆友くん……あたし、勇気を出したよ。

 自分にできる限りの勇気を――。


(……でも、これだけじゃ、足りなかった、のかな……)


 でも、だとしても後悔はない。

 これからどんなことが起ころうと――あたしが彼を信じる気持ちはきっと、変わることはないから。


「ほら、さっさと吸い込――」

「おい」


 風を切り駆け抜ける音が聞こえた。


「あん――なんだテメぇ……ぐあっ!?」


 その直後――ボゴッと、骨が砕けるような鈍い音が響いた。

 皆友くんの蹴りが二階堂さんの頬を貫き、そのまま後方に吹っ飛んでいく。


「竜胆……よく耐えたな」


 こんな状況なのに胸が高鳴った。

 全身が昂揚していく。

 ただそれだけの言葉を掛けられただけなのに――誰に褒められるよりも嬉しいと思えた。


「うん……! あたし……負けなかったよ」

「ああ――だから誇っていいぞ、今日は、お前が『イジメ』に勝った初めての日になるんだから」


 過去の記憶が溢れてくる。

 イジメに屈してしまったあの日から、ずっと負け続けてきたあたしだけど――彼のその一言で、今までの努力が全てが報われたような、これまでの全てが救われたような、そんな想いになれたんだ。

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