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勇気の結果①

20190913 21時更新(長くなったので分割します。次は22時更新です)

         ※




 あたしは今、メールに送られてきた地図の場所に向かっている。

 時間は十九時五十分。

 でも、目的地に近付くにつれて、緊張感から足取りが重くなっていく。


(……怖い……)


 やっぱりあたしは弱い。

 きっとこの本質は変わらないのだろう。

 これから何が起こるのか?

 考えるだけで不安になっていく。

 でも、あたしは皆友くんの言葉を信じてる。

 彼を想うだけで、あたしは勇気が出せる。

 だから、


(……大丈夫だ)


 前を向く。

 ゆっくりでもいいから、一歩、一歩前に足を進める。

 そして、指定された時間の五分前――あたしは目的地に到着した。

 階段を下りることができるのだが……。


「……ここ、だよね?」


 スマホを確認する。

 マップ上が示す位置は間違いなくここだった。

 目前には工場――だが入口はロープで封鎖されていた。


(……廃工場、なの?)


 人気ひとけは全くない。

 誰も寄り付かない場所だからこそ、あたしを呼び出すには都合が良かったということなのだろう。


(……この中に入らないと、なんだよね?)


 ごめんなさい。

 心の中で謝って、あたしは敷地に入った。

 建物は二つ。

 工場と、その隣に立つ小さな建物……多分、事務所とか休憩スペースとか……だろうか?

 工場のシャッターは少しだけ開いている。

 身を屈めれば人が通れるくらいの隙間だ。

 まだ電気が通っているのか、隙間の先から薄明かりが漏れている。


(……多分、この中に……)


 一度深呼吸したあと、あたしは覚悟を決めて工場の中に入った。




          ※




 竜胆が工場に入ったらしい。

 本当に面白い。

 指示に従い行動する。

 従順に動くおもちゃを手に入れた気分だ。

 よほど『過去』をバラされるのが怖いのだろう。

 中には既にあいつらもいる。

 先に遊んでしまうだろうが……それでも構わない。

 ああ、想像するだけで楽しくて仕方ない。

 頬を叩いたらどんなふうに泣くだろう?

 薬漬けにしてめちゃくちゃに犯したら、どんなふうに喘ぐだろう?

 心をぐちゃぐちゃに壊したら、どんな顔をするだろう?

 どうしたら、彼女の絶望した顔は見られるだろうか?

 やはり大切な存在――たとえば友人に裏切られるとか?

 いや、どうせなら恋人のほうがショックは大きいか?

 なら一度、自分の物にしてから楽しむのも悪くない。

 これからの遊びを考えているだけで、絶頂してしまいそうだ。

 綺麗なものほど……壊れる瞬間が美しい。

 だからこそ、その一瞬を見てみたくなるんだ。


「こういう時に限って、予定外の面倒もあったが……」


 さぁ……楽しみを味わいに行こう。

 その為の演出の準備はもう済んでいるのだから。




          ※




 建物に足を踏み入れた。

 視界の先には数人の男たちが立っている。


「時間通りじゃねえか」


 そう声を掛けてきたのは、あたしに言い寄ってきた男の一人だ。

 あの日に絡んできた三人の男は全員この場にいる。

 だが、おかしい……。

 この場にいる連中とあたしは、ほとんど面識もなければ、連絡先を伝えている相手なんていない。


「言われた通り、一人で来たみたいだな」

「なんで……あんたたちが――」


 ガチャ――。

 あたしの言葉を遮るように、工場内にある扉が開いた。

 そして、


「あ、本当に来たんだ~」


 女の子が一人、こちらに向かって歩いてくる。


「あなたは……――っ!?」

「あたしのこと、ちゃんと覚えてるんだ」


 髪型や化粧、髪の色が変わっていたから、直ぐに気付かなかった。

 けど、あたしは間違いなく彼女を知っていて……。


「二階堂……さん……」

「はははっ、まぁそりゃ忘れないよねぇ」


 忘れるわけがない。

 だって、彼女は中学時代にあたしの全てを奪った相手なのだから。


(……そういうことだったんだ)


 彼らがあたしの過去を知っていた理由は……彼女がいたから。


「あんたたちのこと、さ~んざん可愛がってあげたもんね~」

「っ……」


 二階堂さんが、ニヤッと挑発的な笑みを浮かべる。

 圧倒的な強者が弱者に余裕を見せつけるように。


「麗子の言ってたことはマジだったわけだ。

 こいつが元イジメられっ子ねぇ……全然見えねぇ……」

「気が強そうないい女って感じだもんな」

「めっちゃ可愛いよなぁ……これで処女とかだったら、マジで今日は最高なんだけど?」


 男たちが値踏みするようにあたしを見ている。


「見た目、中学時代と全然違うから、最初は全然気付かんかったわ~」


 言いながら二階堂さんがあたしに歩み寄って来た。

 そして目の前まで来たかと思うと、手を振り上げて――


「やっ、やめっ……」


 咄嗟に身をかがめてしまう。

 でも、彼女の手が振り下ろされることはなかった。


「ははははっ、中身はな~んも変わってない」

「か~わい~。

 叩かれそうになっただけで、脅えちゃってんじゃん」


 この場にいる全員があたしを嘲笑した。

 何も変われてない……それは事実だ。

 臆病で情けない姿を晒してしまっている……なのに、今も身体の震えが止まらなかった。

 だけど……このくらいで負けちゃダメだ。

 顔を上げてあたしは二階堂さんの姿を見つめる。


「っ……ば、バカにす――」

「黙れよ」


 パンッ――乾いた音が室内に響く。

 頬がじんわりと熱くなっていった。


「麗子、顔はやめろっての」

「そ~そ~ブスになったら、どうすんだよ?」

るなら可愛い子のほうがいいべ」


 男たちが好き勝手なことを言っていた。

 何か言い返してやりたい。

 なのに、


(……あれ?)


 言葉が出てこない。

 ただ、軽く頬を叩かれただけなのに。


「そんな強く叩いてないし。

 こいつ黙らせたいなら、こうしてやるだけで大人しくなるって教えてあげたんじゃん。

 見てよ、びくびく震えちゃってさ~……面白いでしょ~」


 二階堂さんが歪んだ笑みをあたしに向ける。

 心底おかしくて仕方ない。

 彼女の表情があたしにそう語っていた。


「んじゃあよ、犯してる最中に頬を叩いたら、喘ぎ声も出さなくなんのか?」

「かもね~。

 試したことないから、やってみる?

 どんな反応になるか見てみたいかも~」


 一斉に下卑た笑い声が上がった。

 何が楽しいのだろう?

 あたしには、理解できない。


「それじゃ……始めるか」

「ちょ!? 史一ふみかずも交ざんの?」

「ちげーよ。

 お前にいくつか確認がある」


 史一と呼ばれた男があたしに近付いてきた。


「お前と一緒にいた男……あいつは同じ学校か?」


 それは考えてもいない、予想外の言葉だった。

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