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自分と向き合う勇気

20190907 14時更新

「適当に座ってくれ」

「う、うん」


 竜胆は床に置かれた丸いクッションに座った。

 俺も竜胆の対面に俺も腰を下ろす。


「ここが皆友くんの部屋……」


 落ち着かな様子で、竜胆は周囲を見回した。


「大して面白い物はないぞ?」

「あ、ごめん……あまり見られるの、気分よくないよね……」

「いや、そういうわけじゃないんだが……」


 ベッドや机、衣類など、生活に必要な最低限のものしか置いていない。

 目立つ物と言ったら服を掛けているハンガーラックくらいだろうか?


「男の子の部屋……初めて入ったから、ちょっと新鮮で。

 こういう感じなんだ……」


 その一言で、俺の心に動揺が走った。

 さっきから竜胆がそわそわしているのは、そういうことか。

 脅迫メールの犯人特定を急ぐあまり、全く考えていなかったが……。


(……二人きり、なんだよな)


 意識した途端、目が合った。


「……」

「……」


 言葉もなく見つめ合ってしまう。


(……何か、話題を……)


 そういえば、俺は竜胆を家に呼んだ理由を説明していただろうか?

 もし、万が一……変な誤解があったら……。


「り、竜胆……わ、わかってくれてると思うんだが、家に来てもらったのは……今後のことを相談する為で……」

「う、うん! わかってる!

 それはわかってる、から……!」


 良かった。

 二人とも、同じタイミングで、ほっと息を吐く。

 そんなお互いの姿に、俺たちは苦笑した。

 でも、お陰で互いの緊張が解ける。


「ごめんな。

 いきなり男の家に呼ばれて二人きりになって、怖くなかったか?」

「それは全然! 怖くなんてないから」


 尋ねてみたら即答された。


「それに……間違いがあってもいいって思ったから……」

「は?」

「だ、だから……皆友くんとだったら、な、何かあっても、イヤじゃないから……」


 ぐらぐらと意識が揺れる。

 緊張が解けたばかりなのに、甘くて蕩けそうな雰囲気が室内を包む。

 竜胆の頬が火照り、瞳が熱く揺れている。

 十五歳の女の子にこんな想いを抱くのはおかしいかもしれないが、その表情はあまりにも色っぽくて……どうしようもないほどに、竜胆が『女』であることを感じてしまう。

 一歩間違えれば、俺は暴走してしまいそうで……。


「そ、そういうのは、せめて、恋人同士になってからだろ!」


 必死に言葉を絞り出す。


「……なら、いつ勇気……出してくれるの?」

「それは……」


 勇気――それは、想いを伝えてほしい。

 そういう意味だろう。

 だが、


「ずっとは待ってあげないから。

 あたし……」


 それはどういう意味だろうか?

 俺が何もせずにいたら、竜胆は他の誰かに?

 そんなことを考えたら、心の中が今まで感じたことがないほど、苦しくなっていく。


「待てないから……どうしても、皆友くんが勇気を出せないなら、あたしから、あたしの好きな人に想いを伝えるから」

「……っ」


 俺を真っ直ぐに見つめる竜胆の瞳から、本気の想いを伝わってくる。

 ここまで言ってくれたのに、俺は……。


「今は……脅迫のメールの件を先に解決しなくちゃだろ」

「……ここで、その話を出すの、ずるいよ……」


 それはあまりにもずるく、卑怯な逃げだ。

 でも、一歩を踏み出す勇気が、誰かと、新しい繋がりを持つ勇気が、俺の心にはまだなかった。

 だから、


「もう少しだけ、待ってくれるか?」


 これが今の俺にできる精一杯の答え。

 仕方ないなぁと……竜胆は優しく笑った。


「……そういえばさ、まだ皆友くんにお礼を言えてなかったよね?」

「お礼?」

「教室で、あたしを守るって言ってくれたこと、本当に嬉しかった。

 一生懸命、あたしのことを考えてくれてるのが伝わってきて、皆友くんのことを信じていたって思えたの」


 あの時、俺の押し付けがましさに、竜胆は応えてくれた。

 そして、


「あの言葉に嘘はない。

 俺はお前のことを守りたい、そして助けたい」


 竜胆は想いを受け止め頷く。


「ありがとう。

 でも、嬉しいと思うのと同じくらい、ごめんなさいとも思ってる。

 ……こんなことに巻き込むことになっちゃったから」

「お前が謝ることじゃない。

 悪いのは脅迫してきた相手だろ?」

「だけど、どんな奴が犯人かもわからないから……。

 皆友くんを危ない目に合わせちゃうかもって思うと……怖いよ……」


 俺に……いや、誰にも迷惑を掛けたくないと、竜胆は思っていたのだろう。

 だからこそ救いの手を伸ばすことができなかった。


「竜胆が一人で悩んで怖がってるほうが、俺はイヤだけどな。

 それに、こうやって放課後もお前の傍にいられるのは嬉しいくらいだ」

「っ……そんなに優しいこと言われたら……あたし、ダメになっちゃう。

 今よりも、弱くなっちゃうよ」


 涙を浮かべる竜胆。

 でも、彼女は少し誤解している。


「誰かに頼ることは、弱さじゃない。

 竜胆が勇気を出して、一歩踏み出してくれたから……俺はお前を守ることができる」

「ぁぅ……」

「……?」


 竜胆が咄嗟に顔を伏せた。

 どうかしたのだろうか?


「今の殺し文句すぎるよ……こんな時なのに……あたし、皆友くんへの気持ち、抑えらんなくなっちゃうじゃん……」


 呟くような声。

 はっきりとは聞こえなかったが……俺は何か、彼女を悲しませるようなことを言ってしまっただろうか?


「竜胆……大丈夫か?」

「だ、大丈夫じゃない! でも、そこまで言うなら、あたし……皆友くんをいっぱい頼るから、責任……取ってもらうからね!」

「ああ、それは任せろ」

「言ったからね。

 あたしのこと、今よりも深く知った時に……やっぱ抱えきれませんでしたじゃ、許さないから」


 その言葉を聞いた時、竜胆がもう一度、俺に対して勇気を出そうとしてくれているのがわかった。

 彼女はきっと、これから俺に大切な何かを伝えようとしてくれているのだろう。

 

「約束する。

 竜胆がこれから、どんなことを話したとしても受け入れる」


 俺は竜胆の目を見つめる。

 言葉だけではなく、心からの想いが伝える為に。


「……今回の脅迫メールの相手は……あたしの過去を知ってるって話したよね?」

「それが脅迫の材料……なんだよな?」


 俺の問いかけを竜胆は肯定する。


「本当は……これは自分で向き合わなくいけない問題だから……あたしの力で、なんとかしないとって思ってた……」


 それは彼女の悩みや苦しみ。


「皆友くんや美愛、カナンにもなんでもないよって嘘まで吐いて……手を差し伸べてようとしてくれた人の想いを振り払って……みんなを信じてるなら、勇気を出して、助けてって言えば良かったのに……それができなくて……」


 自身の弱さ。


「ずっと一人で悩んでた。

 どうしたらいいんだろうって……でも、考えれば考えるほど何も見えなくなって。

 怖くて逃げ出したいのに、どこにも逃げ道なんてなくて……心が壊れちゃいそうだった」


 他人には見せたくない自分。

 抑えていた感情を、竜胆は解き放っていく。


「でも、皆友くんがあたしを――何も見えない真っ暗な場所から助けてくれたの」

「俺が?」

「うん……教室で手を握ってくれたでしょ? あの時、皆友くんの体温が伝わってきて、すごく安心できた。

 守るって言ってくれた時、助けるって言ってくれた時、救われた想いがした」


 竜胆が俺の目を見つめる。


「皆友くんがあたしに勇気をくれた。

 そして……あたしはもう一度だけ、勇気を出さなくちゃいけない」

「どういうことだ?」

「……話しておきたいことがあるの」


 言って、竜胆は自身のスマホを俺に手渡してきた。

 手渡されたディスプレイには、犯人からのメールが表示されている。


「見てもいいのか?」

「うん」


 内容を確認しながら画面を下にスクロールしていくと、一枚の写真が貼られていた。

 中学生だろうか?

 セーラー服に身を包んだ黒髪の女の子が映っていた。


「この子は?」

「それは……中学時代のあたし」


 写真は化粧っ気がなく、髪型も三つ編みでおさげ眼鏡。

 今の竜胆とは真逆という印象なのだが、写真の少女も顔立ちは非常に整っていた。


「言われてみれば、面影はあるが……」

「今と全然違うでしょ? 地味でダサくて……カッコ悪い。

 それが本当のあたしなの」

「勇気が必要っていうのは、そういうことか」


 竜胆は左右に首を振り、否定の意志を示す。


「勇気が必要なのはまだこれからなの。

 だから、皆友くん……お願いがあります」


 泣きそうな顔で、竜胆は震える手を俺に伸ばす。


「手、握ってほしいの。

 臆病なあたしに、自分の罪と、もう一度向き合う勇気をください」


 脅迫メールにも記載されていた竜胆の罪。

 それは、彼女をこれほど苦しめることなのだろうか?

 でも、それがたとえどんなものだったとしても。


「一人で抱え込まなくていい。

 もしそれがどんな話だったとしても……お前が泣いてしまうほどつらいことだったとしても、俺が一緒に支えるから」


 手を重ねて、指を絡め合う。

 絶対に離さないという想いを伝えるように。

 どれだけ竜胆の過去が辛いものだったとしても、俺は逃げたり、見捨てたりはしない。

 そして、竜胆は話し始めた。


「うん。

 これで……勇気、出せそう。

 ……あたしは――」


 彼女にとっての弱味で、黒歴史で、


「中学生の頃、イジメられてたんだ」


 消してしまいたいほどの過去の記憶を。

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