壁ドン
20190903 0時更新
※
授業が終わり昼休みとなった。
直ぐに竜胆は席を立ち上がる。
用事があると言っていた通り、やはりどこかに向かうようだ。
「今日も彼氏と食べるん?」
教室を出ようとした竜胆に、岬が話し掛けた。
「……まぁ、ちょっとね」
「またとぼけるん?
あたしたちにも、そのうち紹介してよね」
「彼氏じゃないから」
日常的なやり取りを終えて、竜胆は教室を出て行った。
その足取りが少し重かったように思うのは、俺の勘違いだろうか?
「……なんか、今日の凛華さ……元気なくない?」
「ん……何かあったのかも」
岬の疑問を小鳥遊は肯定した。
仲の良い二人の目から見ても、今日の竜胆はどこかおかしいようだ。
というか、今日は教室の雰囲気がいつもよりも重い感じがする。
竜胆自身はいつも通り振る舞っているつもりのようだが、やはりクラスの中心にいる人物の口数が少なければ、誰もが違和感を覚えるだろう。
「なんかあるなら、相談してくれたらいいのに」
「……竜胆、すごく気遣いだから」
「本当ねぇ……。
でもあたしたち友達じゃん、もっと頼ってくれても良くね?」
少しの不満、何より寂しさのようなものを、岬は感じているかもしれない。
(……結構、優しいところがあるんだな)
気は強く当たりがキツいところはるが、岬は姉御肌で面倒見がいい。
少なくとも仲良くなった相手を、簡単に裏切るタイプではなさそうだ。
「……友達だからこそ言えないことってあるかも」
「そんなもんなん?」
「岬だって、言えないことくらい、あるでしょ?」
「……う~ん? でも、あたしは凛華とカナンにならなんでも話せるよ。
二人のこと親友だって思ってるもん」
それはきっと岬にとっては当たり前のことなのだろう。
だが、小鳥遊にはそうではなかったようで、
「岬……そんな照れること、よく真顔で言えるね」
クールな少女の雪のように白い頬に紅が差した。
普段、表情に乏しい彼女だからこそ、その変化にクラス内で驚きの声が上がった。
一部の男子生徒など、小鳥遊に魅了されてしまったように目を離せないでいる。
「別に恥ずかしいこと言ってるつもりないけど?」
「……そ。
でも、そういうことはっきり口にできるの岬の良いところだと思う」
「ほんと? ならあたし、なんでも正直に言うわ~。
てかさカナン、多分なんだけど……竜胆が落ち込んでるの彼氏と喧嘩したからだと思うんだよね」
「彼氏と……喧嘩……――ぁ……もしかして――」
それは岬の勘違いだ。
竜胆に彼氏はいない。
クラスでそれを知っているのは俺だけが、間違いないと断定できる。
「ねぇ……」
昨日、夜にメールをしている時には竜胆の様子に変化はなかった。
「ねぇ、皆友君」
「え?」
気付けば小鳥遊が俺の傍に立っていた。
そして感情の薄い瞳で俺を見下ろしている。
「……話があるんだけど」
「俺に?」
「皆友って名字の人、このクラスにあなたしかいない」
内心動揺しているのか、自分でも間抜けなことを聞いてしまったと思った。
だが、どうして小鳥遊が俺に……。
「カナン、急にどしたん? そいつになんかあんの?」
ヒエラルキー最上位の二人がいるせいで、必然的に注目が集まってしまう。
クラスメイトたちは今、こう思っているだろう。
『あいつは一体、何をしたんだ!?』
そんな表情で教室にいる生徒が俺を凝視していた。
「場所……移そ」
「なんで?」
「落ち着いて話したい」
小鳥遊の強硬姿勢。
有無を言わさぬその態度に俺は黙って立ち上がった。
「岬も一緒に来て」
「う、うん」
流石の岬も戸惑っているようだがこの場では何も言わず、俺たち三人は教室を出た。
※
連れられて来られたのは校舎裏。
これ、完全にぼっちが不良にシメられる流れだぞ。
だが目前にいるのはヤンキーではなく、二人の美少女。
とはいえ、岬はかなりギャル感があるのでヤンキー的な威圧感がなくもないが。
「……話って?」
俺が言うと小鳥遊が俺に迫ってきて、身体がくっ付くんじゃないかという近距離でやっと立ち止ま――ドン!
「……キミ、竜胆に何したの?」
まさかの小柄な美少女による壁ドン。
だが――ときめきはない。
俺を見上げる小鳥遊の顔は真剣そのものだったから。
「カナン、マジでどしたん? 事情、説明してよ。
そいつと凛華になんの関係があるん?」
「……昨日、竜胆とデートしてた」
「え?」
ああ、そういうことか。
小鳥遊が俺をここに連れてきた理由を、やっと理解できた。
「デート? 凛華と……え? えええええっ!? こいつがっ!?」
岬が驚愕して信じられない者を見たように俺を見つめる。
「二人でいるところ、見たの」
「でも、流石にデートなんて……いや……なくも、ないかもだけど?」
全否定されるかと思いきや、俺をまじまじと見て岬は小さく首を傾げていた。
この状況で言い逃れしたところで、納得はしてもらえそうにない。
特に小鳥遊は俺のことを完全に疑っているようだし、最低限の説明は必要だろう。
何より……ここで情報を交換しておくことで、俺の知らない情報を得られるかもしれない。
もしかしたらそれが、竜胆の抱える『なにか』に繋がるかもしれないという期待もあった。




