竜胆に似合うは服を探していたら
20190831 0時更新
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店内で服を物色すること一時間。
竜胆はずっとうきうきそわそわしていた。
今の彼女の様子は、まるで誕生日プレゼントを待つ子供のようで、俺の目から見ても微笑ましさすらある。
だからだろうか?
ちゃんと、喜ばせたいと思えた。
「彼氏くんからのプレゼントなのかな?」
「きっとそうでしょ? 彼女、すごく嬉しそうだもん」
「初デート思い出すなぁ……なんだかさ、こっちまできゅんってしちゃうよね」
店員たちの会話が聞こえた。
待て待て。
なんで勝手に彼氏にしてるんだ。
そもそも俺と竜胆では、どう考えても釣り合いが取れてないだろ。
「どっちもティーン向け雑誌のモデルさんかな?
美少年と美少女でお似合いのカップルだよね」
「ちょっと雑誌確認してみよっか」
店員の皆さん、おめめ大丈夫!?
俺の顔をちゃんと見ろ!
どこがモデルなんだ?
どこが美少年なんだ!
月とスッポン、美女と野獣……いや、そのたとえすらも上品すぎる。
この店はあれか!?
お客を褒めるサービス付きか!?
それで財布の紐を緩めさせようとしているのだとしたら恐ろしい。
「……」
内心で突っ込みながらも、俺は服選びに集中した。
こうして探していると思うのは……スタイルのいい竜胆なら、どの服でも似合うだろうってこと。
だからこそ……余計に悩む。
これならいっそ――。
「……決めた。
竜胆、これなんてどうだ?」
俺は選んだ服を竜胆に手渡した。
「この服……皆友くんがあたしに似合うと思ってくれたんだ」
竜胆は服のデザインをチェックしながら、そんなことを口にする。
だが、それはちょっと違う。
「どの服を着ても似合うと思った」
「そ、そう……」
正直に伝える。
するとそれだけで、純情少女のようにぽっと頬が染まる。
「でも、それじゃどうしてこの服なの?」
勿論、適当に選んだわけじゃない。
ちゃんと理由はある。
だが、それを口にするのは少し照れくさいのだが……言わなければ、流石に納得してくれないだろう。
「……俺が着てほしいと思ったから」
「――!?」
声にならない叫びと共に、竜胆の身体が大きく揺れる。
ボッと煙でも噴くような勢いで、顔……いや、全身に熱が駆け巡っていくのが見て取れた。
「そう……なんだ。
皆友くん、これ着てほしいんだ」
「まぁ、その……なんだ……こ、好みで選んだのは、事実だ……」
「なら……今、着ちゃおうかな。
デート、皆友くんが選んでくれた服で、したいし……」
竜胆に言われて、俺はその姿を想像してしまった。
それはあまりにも可愛くて……考えるだけで赤面してしまう。
「ダメ……かな?」
「……ダメじゃない……が」
「なら試着してくるね。
それで皆友くんのイメージと合ってるか確かめてよ。
店員さん、試着いいですか?」
「はーい
こちらをお使いください」
俺たちの様子を見守っていた店員さんが、待っていましたとばかりに試着室の前まで案内してくれた。
そして直ぐにこの場を去っていく。
「じゃあ着替えてくるから待って――」
「あ、店員さん、すみませ~ん。
試着したいんですけど~」
竜胆の声を上書きするように、女の子の声が店内に響いた。
視界が自然とその声音の方に動いていく。
すると、目付きがキツい女の子の姿が目に入った。
声の主は彼女だろう。
合わせて数人の女子生徒と、男子グループの姿も確認できた。
同じ学校の友人同士で服を買いに来たのかもしれない。
が、全く知らない子だったので直ぐに興味は失せ……かけたのだが、
「うん?」
そのグループの中に見覚えのある男たちの姿が混ざっていた。
あれは以前、竜胆にちょっかいを出していた奴らだ。
「竜胆、あれ――」
「――!!」
「ぇ――」
竜胆が唐突に俺の手を引いた。
一体、なんのつもりなのか?
俺たちは今――狭い試着室の中にいる。
そして、ぎゅ――と、竜胆に抱き締められた。
あまりにも当然のことに、俺は言葉を失ってしまう。
一体、どうしたのだろうか?
「……りんど――」
「っ――」
名前を呼ぼうとすると、竜胆の腕に力が入った。
俺の胸に強く顔をうずめる。
同時に気付く。
彼女の身体がガタガタと震えていたことに。
その様子はまるで何かに恐怖しているようで――。
(……そうか。あいつらか)
ここで彼らに遭遇することは竜胆にとって予想外だったのだろう。
同時にあの時の出来事が、彼女にとって大きなトラウマになっていることがわかった。
「竜胆、大丈夫だ。
あいつらはお前に何もできないやしない」
「……っ」
震える竜胆の身体を優しく抱き締める。
すると、ゆっくりと竜胆の身体の震えが徐々に治まってきた。
そして俺は抱きしめていた腕の力を解く。
「……みな、とも……くん」
竜胆が顔を上げる。
今にも零れ落ちそうなほど瞳には涙がたまっていた。
こんな弱々しい竜胆を見たのは、あの日以来だった。
「大丈夫だ。……今くらいな、お前のことを守ってやる」
竜胆の頭を優しく撫でる。
ずっと彼女と共に進んで行く勇気なんて俺にはない。
でも今くらいは――俺のできる精いっぱいで応えよう。
「だから安心しろ」
「……うん」
小さく頷く竜胆の瞳から不安は消えて、震えも止まっていた。
「お客様~、大丈夫ですか?」
店員の声が聞こえる。
どうやら俺たちの様子が気になったようだ。
騒ぎが大きくなる前に、この場を離れる必要があるだろう。
「……俺は店内の様子を見てくるから、竜胆はここにいてくれ。
直ぐに戻ってくるから」
「わかった」
不安を抱えながらも、俺の信じて返事をしてくれた竜胆の頭をもう一度だけ撫でて、俺は試着室を出た。




