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夢と現実とその狭間 9

「ただいまー。」

すれ違い夫婦生活もひと月を超えたあたりから全く気にもならなくなるわけで、慣れってすごいね。愛さんは相変わらず忙しい、それでも以前よりはだいぶ業務軽減してもらっていると言ってたけど週1回一緒の食事の時間があるかどうかだ。愛さんは早く仕事が終わっていたとしても外に出てしまっていることが多いから、実質は僕が一人暮らしをしている家に愛さんが通っているような形。僕も時間がある時は渉さんと僕の家にいるからこの家は本当に寝るための家だ。

形だけの夫婦生活は本当に形だけで、会社のパーティーでもないかぎり夫婦らしいことは何一つしていない。

そんな中で、久しぶりに僕たち三人は顔を合わせた。

「久しぶりねー、元気にしてた?」

「夫婦の会話じゃねーな、それ。」

「健全な夫婦の会話よ、ねっ、猫ちゃん。」

「そうですね、僕たちには極めて健全ですね。」

ソファーに座って飲んでいる愛さん、勝手に冷蔵庫を開けてビールを持ち出す渉さん、キッチンに立って答える僕。ちょっと久しぶりの光景だ。

あの怒涛の数か月を超えて、僕たちは今やっと元の生活に戻ったと言うような感じだ。それは時折妙なつまらなさを感じるけれど、今までが普通じゃなかったってことに最近気が付いた。

「あなた達ちゃんとやってる?」

いきなりすごい直球のボールが飛んできたけど、どの意味でとらえたらいいんだろう・・・?

「おかげさまで、だ。」

渉さんが答えてくれる、やっぱりそっちの意味だよね。

「そう、楽しそうで何よりだわ。」

愛さんはちょっと引いた目でそう答えた。

「愛さん、日高さんはどうなんですか?」

ブルスケッタを並べながら問いかける僕に、愛さんはうーんと考えるような顔する。

「変わんないかな、残念ながらね。」

そうなんだ・・・

「手始めに論文は提出したわ。でも、劇的な変化が起こり得ない限りそれは論文と言うより経過観察日記よね、自分でもわかってるの。でも、結婚したことで客観的視点を持っていると言う信用は得たわ、これで共同研究を言ってくれる企業が出てくるとありがたいわね。」

愛さんはお酒を取りに来がてら、ブルスケッタをつまみ食いして何やら考え深げに戻っていく。

「それは、資金ってことですか?」

そうだ、聞いてみなきゃいけない事だった。僕は用意したブルスケッタに渉さん持参のピザをもってソファーに座る。

「まぁ、それもあるかな。」

愛さんのその言葉に渉さんがちらっと僕を見た、僕も、その視線に気が付いて渉さんを見る。

渉さんもたぶん、同じことを思ってる。きっと気になっていたんだろう・・・渉さんなら調べることもできるだろうしね。もしかしたら、知識としてなら僕より上かもしれない。

これは、今が言うタイミングだ。

「愛さん、僕に協力させてもらえないかな・・・?」

こいつ何言ってんのって表情の愛さん。

「資金の面で、協力させてほしい。」

「いいわよそんなの、そこまであなたたちに求めてはないわ。」

愛さんはそう言って手をひらひらさせて缶チューハイを飲んでいる。

「いや、前から考えてはいたんだ・・・日高さんの為に何か協力はできないかなって。再生医療に挑戦する国立大学病院の若い優秀な医師であり、僕の奥さんに投資するのは決しておかしなことじゃない。」

以前パーティーで赤谷先生にお会いした、すごくいい先生で、きっとこの人なら愛さんの味方でいてくれるだろうって思った。

「赤谷先生を通じて正式に資金援助の手続きを取れば、身内からの私的な援助だと言われることもない。本社じゃなくって子会社の名義を使うから表向きも言われることもないはずだ。もちろん正式な資金援助だからそれ以上必要ならきちんと商談を行う・・・どうかな?」

愛さんはチューハイを置いて体の向きを変えて、僕の方に向いて座りなおした。

「猫ちゃん、私はあなたの財産が目当てでこの結婚をしたわけじゃないわ。はなから資金援助なんてしてもらう気はないし、考えたこともない。日高さんの事は気にしないで?私の個人的な問題だから。」

「個人的な問題なんて言うなよ、お嬢。」

僕が思った言葉を、渉さんが口にした。

ここまで一緒にやって来たんだ、そんな寂しい事、言わないでほしい・・・

「俺たちはもう全部ひとくくりに一緒なんだ、誰が欠けたってこの関係性は保てない。日高さんの事だってそうだ、俺も樹も、他人事だなんて思っちゃいない。」

「そうですよ。言い方は悪いですが・・・日高さんがああなっていなければ僕は愛さんに出会いう事もなかったし、こんな関係にはなっていない。僕と渉さんは愛さんと日高さんに感謝しています。お金でしか協力できないなんて情けないし恥ずかしい話ではあるけど、それでも必要だって言ってくれるなら、協力したい。」

「俺は資金協力はできないがメディア協力ぐらいはできる、お嬢、好意っつーもんは受け取っておくもんだ。」

「好意のレベルじゃないわ。」

愛さんが困惑しているのがよくわかる、本当に思ってもみなかったんだろう。本当に、一人で守り切るつもりだったんだろう・・・僕なんかよりずっと男前でたくましい。

困っている愛さん、仕方がない、ちょっと強引だけど「うん」って言わせちゃおうかな。交渉事や契約は僕にとっては得意分野だからね。

僕は少し背を伸ばして、ふっと息を吐いて、ビジネスモードに切り替え。きっと愛さんが初めて見る僕の顔かもしれないね。

「では、こうしましょう。」

僕の声色が変わった事に愛さんは驚いたようで、反らしていた目を僕に向けた。

僕は立ち上がり、愛さんに正面から立ち向かう。

「きちんとした契約書をもって伺います、金額は契約内容に書かれている金額をまず一括で、以降は成果と必要用途に応じてその都度商談し、こちらが納得した場合のみ追加援助します。成果に関しては半年毎に会議を設けるのでそこで進行状況を確認し、援助金の増減を客観的に判断します。その場には責任者として赤谷院長の同席を求める。内容が専門的でかつこちらの判断を上回る場合は第三者委員会を設けその委員の判断にしたがう。援助に当たりこちらが求める条件は2つ、論文の権利の半分、成果や結果の売買に関してはこちらも権利を持つ。いかがですか?高杉外科部長。」

愛さんはぽかんとしていて、渉さんは、ちょっと視線が熱いんですけど。そんな目で見られたらビジネスモードが崩れちゃうじゃないですか。

愛さんは、ふっと息を吐いて、パッと立ち上がって僕に真っ直ぐ立ち向かう。

いい目だ、仕事の出来る女の目って感じで、いいね、かっこいい。

「わかったわ、必ずやご期待に添えられるような成果を見せて差し上げます。」

そう言って愛さんは右手を差し出し、僕はその右手を握った。

「あーくそっ、これがお互いスエットじゃなくってスーツで会議室だったら絶対にいい写真だったのに!!!」

渉さんの叫んだ声で僕たちはお互いが部屋着であることに気が付く。

本当だ、なんかちょっと恥ずかしいね・・・かっこわる。

「ありがとう猫ちゃん、感謝するわ。大好きよ?」

「手を出すんじゃねーぞ、お嬢?」

「その辺は大丈夫よ、人の物には手を出さないのがポリシーだわ。」

そう言って愛さんは渉さんにも手を差し出して、その手を渉さんが掴んだ。

「今日はいい日ね、さぁ、飲むわよ♪」

そう言うと愛さんは缶チューハイを一気飲みしてしまう。

それ、空けたばっかでほぼほぼ全部入ってましたよね?あー今日も長くなりそうだ。笑っちゃうね。



やって来た猫ちゃんはビジネスマンだった。

「相良君ようこそ。」

院長が猫ちゃんを迎え、手を差し出す。

「お久しぶりです赤谷院長、以前はわざわざお越し頂きましてありがとうございました。」

いつもとは違うきりっとした猫ちゃん、この前のスエット商談の時もそうだけど、私、猫ちゃんの仕事している姿見たことなかったからちょっと面食らうわ。

猫ちゃんは私にも握手の手を伸ばしてきた。私たちは再び握手し、ソファーに腰を下ろし商談が始まった。

猫ちゃんがビジネスモードであるようには私も仕事モード、白衣を着ると完全にプライベートじゃなくなるからね。今はSGRグループの相良樹と言うビジネスマンとの商談中なの。

「どの程度が相場なのか正直わかりませんのでまず一括で1千、以降はその都度と言う事にさせていただきます。契約会社はうちのグループ会社の名前になっていますが担当は僕が個人で行います。内容によっては第三者委員を設けましてその判断を重視いたします。つきましては共同名義人といたしまして院長のお名前もいただきたいと思います。」

猫ちゃんはこの前家で私に提示した内容を全くそのままもう一度この場で説明した。

そして、すごい金額を提示して来た猫ちゃん、一括って、さすがだわ。

「わかりました、サインいたしましょう。提示内容に異論はないかね、高杉?」

「はい、よろしくお願いします。」

赤谷先生がにこやかに契約書にペンを走らせる。

「ご理解ありがとうございます。良い成果が出ることを心より期待しています。こちらとしては援助を惜しまない予定ですので、赤谷先生、どうかご協力の程よろしくお願いします。」

猫ちゃんは赤谷先生に頭を下げた。

「相良君、君は本当にいい青年だ、高杉には勿体ない。」

「ちょっと!何よそれ!?」

思わず反論、猫ちゃんは笑っている。

「不思議な夫婦関係だ、君は高杉と日高君の事を知っていて援助を申し出ている。情があるとはいえ妻の昔の男の為に大金を出して面倒を見ると言っている、よく考えたら物好きな男だ。」

まぁ、世の中的にはそうよね。赤谷先生はたぶん、全部を把握している。その上でわざと猫ちゃんに真意を聞こうとしている。猫ちゃんはははっと笑った。

「はい、もちろん知ってます。彼女は性格、上隠し事はできませんから、最初に聞きました。」

そこは、正解よね。

「彼女が日高さんを今でも想っているのは知っていますし、それを否定するつもりも拒否するつもりもありません。僕がもし彼女の立場で自分にも同じことが起きたのならば、僕だって今でも想い続けるでしょう。僕には彼女が必要です、ですが日高さんに目を覚ましてほしいと思っているのも事実です。それで彼女が喜ぶのなら僕はそれを喜ばしく思います。」

素敵よね、猫ちゃんって。この辺はいい男だなって思う。飼い主の男らしさとは違う、猫ちゃんの知的でスマートな男らしさ。

「だがしかし、もし日高君が目を覚ませば君たち夫婦の関係はどうなるんだ?こいつの事だ、すぐ寝返るぞ?」

まぁ、よくご存じで。

「そうですね、捨てられないように今から努力します。」

そう言って猫ちゃんは優しい笑顔でにっこり笑って、私を見た。

「そうね、努力は大切ね。」

私の返しに赤谷先生は大笑い、完全に上下関係が見えたわよね。

猫ちゃんを見たことがある人はいるかもしれないが、猫ちゃんが私の夫であることを知っているのはこの病院では赤谷先生だけ、ジジィ共は知らない事実。だからこそこうやって堂々と出入りしていても誰も何も言わない。

「今日はお時間を頂きありがとうございました。」

猫ちゃんは書類をまとめ立ち上がると深く頭を下げた。

「迷惑かけるだろうが、今後もよろしく頼むよ。」

赤谷先生と猫ちゃんは再びしっかりと握手した。

「じゃ、猫ちゃん、後でね。」

「・・・・・猫ちゃん・・・・・?」

あら、癖って怖い。

猫ちゃん、項垂れちゃった。できるビジネスマンキャラクター崩壊しちゃったわね。

仕方ないじゃない、言っちゃったんだから。

「かわいいでしょ?」

私がそう言って赤谷先生に笑うと

「もぉ!愛さん!?」

猫ちゃんは赤い顔していつも通りの声を上げた。

「・・・では、失礼します。」

猫ちゃんは再度頭を下げて部屋を出て行った。

「・・・どういう関係だ?」

赤谷先生はじぃさんだからその意味は分からないわよね、知らない方が良い事の方が世の中には多いのよ?特に、あんたみたいなじぃさんが聞いたらきっと心臓発作起こしちゃう。

「見ての通り、そのままですよ?」

その言葉に、先生は納得したみたい。

「はぁ、彼には同情するよ。」

呆れたと言う顔をしている先生、現実を聞いたらもっと呆れちゃうかもね。

きっと今夜、すっごい言われるんでしょうねぇ・・・覚悟しなきゃだわ。


ある日、病棟の廊下を歩いていたら誰かが声をかけて来た。

誰、この子・・・知らない顔ね。研修医かしら。

「何、手短にお願いできる?」

オペの打ち合わせまでそんなに時間ないんだから、って言ってるのに、何でこんなにモジモジしてるのこの女・・・

「あの、私!妊娠したんです!」

・・・で?

って言いたい所だけど、さすがにそうは言えないわね・・・

「あらそう、あなた結婚してたの?」

どう見ても二十歳そこそこに見えるけど。

「あっ、結婚はしてなくて、彼氏とは付き合って半年ぐらいなんですけど」

・・・で?って、言っていいかしら。

「・・・で?」

「今、妊娠3ヶ月で、安定期に入ったら8か月目ぐらいまでは働きたいんですけど今月いっぱいのお休みと年明けからの産休と」

「あなた、ここに勤めて何年?」

くっそ忙しいってのに、バカらしくていちいち全部話なんて聞いてられない・・・

「もうじき1年です・・・?」

バカ女だわ・・・話を聞くだけ無駄ね。

「今日中に退職願出しておいてちょうだい。」

「そんな!」

こんなバカばっかりなの?この病院って・・・

「私は医者の仕事を天職だと思っていて!辞めたくないんです!」

「申し訳ないけど、ここは高度医療現場なの、命を預かる職場よ。妊婦にいちいち気を使って働いていたら救える命も救えない、非常に目障りだわ。」

「そんな!酷いです!」

頭が悪すぎる・・・

「事務職でもいいんです、現場の先生たちにはご迷惑おかけしません!」

「事務職で良いなら医師でいる必要はないでしょ、それこそ辞めてどこか他で事務職でもなさい。」

「そんな・・・」

さてと、もうこうなったら止まらないわよ?

「自分の身体の管理さえできない様な人に人間の診療や治療なんて頼めない、医師が天職だと言うんだったら避妊ぐらいしたらどうなの?結婚して妊娠しましたって言うのなら祝福の言葉くらいかけるけど遊びの延長で妊娠しましたって言われても頭が悪いとしか世の中は見ないわよ。ましてや就職して1年にも満たない研修医の段階でできちゃいました職務負担の軽減と産休下さいなんて一体どんな世間知らずのバカが言う言葉?職務怠慢って思われるのが当然だと思わない?10年20年務めたスタッフならまだしも入りたての何もできない人間の為に1席開けて待っていられるほど経営状態が良い企業なんてこの日本には数社程度よ。」

「酷い!酷過ぎます!そんなのマタハラです!」

これだから頭が悪いのは嫌いなのよ・・・

「最近何とかハラスメントとか本当によく出回ってるわよね・・・バカの一つ覚え、パブロフの犬、インコやオウムでも言えるでしょうに。訴えたければ訴えたらいいわ、自由にして。その前に今日中に辞表を出しておいてね、一身上の都合で構わないから。こっちはすぐに次のやる気のある人間を入れなきゃならないんだから。」

この、泣けば何とかなるみたいなのが一番嫌い。こういう女がいるから女の社会地位は上がらないのよ。

私は背を向けて歩き出す。

「高杉部長!!」

泣き叫ばないでよ、恥ずかしいから。

「ちなみに、今日中に辞表が出なかった場合は解雇処分にするから。次の天職とやらを探すのに傷か付くでしょ、あなたの担当に速やかに渡しておきなさいね。」

はぁ、気分が悪い。

打ち合わせに行きたくない・・・

猫ちゃんの企業とかだったらきっと認めてくれるんでしょうね、やれやれだわ。今日はこの後手術がなくって良かったわよ・・・今夜は朝まで付き合ってもらおうっと。



帰って来てみたら、今日は愛さんが荒れている・・・

どーしよっかなぁ、黙って聞いた方が、得策かな・・・?

「樹ぃ、お嬢ぉ、差し入れー!」

助かった!渉さんだ!

「ちょっと猫ちゃん!連れ込み禁止でしょ!?」

もぉ、今更・・・愛さんが鍵わたしたんじゃん。

「何だよお嬢、荒れてるなぁ。」

そう言って渉さんはいつも通りピザを置いて、冷蔵庫を開けてビールを飲み始めた。いつも通りの完全なるルームシェアだ。

「何だ樹、お嬢はどうした?」

「なんか、病院の研修医の女の子が・・・」

「就職して1年未満で『できちゃったので産休下さい!』ってどこのバカがそんな事言う?」

僕と渉さんは顔を見合わせて、あーあって感じだ。

「まぁまぁ、治めてくれってお嬢。うちのかわい子ちゃんをあんまし虐めないでくれよ?」

「虐めてないわよ!」

まぁ、愛さんの言ってることはわからなくもない、その話だけ聞けば職務怠慢と思われても仕方がない。でも、今の世の中は愛さんの様な考え方を許す風潮にはなくて、うちの会社なら当然産休の手続きは許されるだろうし職場復帰も可能だろう。大手の企業は人材の権利やその扱いについては非常に厳しく見られる、それだけ社会的影響力もあるし財的余裕もあるからだ。

でも、僕は立場上直接部下の社員からそんな話をもらう訳じゃないし、実際僕の部下はみんな役職のある男の人、秘書軍団を除けばだけど。もしかしたら現場はきっと、愛さんみたいにこんな感じなのかもしれない。力のない中小企業だったのなら、また同じことを起こすかもしれない人間を待つよりもやる気のある新しい人間を入れた方が良いに決まってる。

・・・ってか、愛さんの病院って大学病院だし、産休研修医の数人ぐらい抱えられるんじゃないの?

「私が嫌なのはきちんと結婚して夫婦になってからじゃなく、てきとーにやってできちゃったから結婚しよっかなって感覚が嫌なのよ!今の若いのってみんなそうなの!?」

「お嬢、意外と古風じゃねーか。」

お酒の入っている渉さんが笑う。

ってか愛さん、明日手術あるんじゃない・・・?怖いんですけど。

愛さんの合の手を渉さんが一手に引き受けてくれて、おかげで僕はだいぶ楽だ。一応愛さんとは夫婦ではあるけれど、こんな時は渉さんの方が上手で、夫婦みたいだ。この辺りは経験の差だよね・・・僕は、比較的人間経験は少ないし偏っているから。

この後も日付が変わる手前まで僕達三人は酒を片手に話し続けた。で、愛さんが納まらなければ僕も渉さんも終わらない訳で・・・

「お嬢、明日手術は?」

「午後にあるわよ?」

「頼むからもう納めてくれって・・・」

渉さんが呆れた顔して僕に笑ってきた。

「何よ、朝まで飲まないの!?」

「それはまずいですよ・・・」

いくらなんでも人様の命扱ってるってのに朝まで飲ませられないよ・・・

「あんまりごねるなよ、俺のかわい子ちゃんが心労で倒れちまうじゃねーか。こいつは俺の所持品なんだぞ?」

「あら、法的には私の所持品だわ。」

ちょっとちょっと!!!

「おい!お嬢!お前そう言う事言うのかよ!」

お酒のせいか渉さんがムキになっちゃってるけど!落ち着いてよ!?

「冗談よ、大丈夫わかってる。猫ちゃんはレンタル品よ、無期限のね。」

「俺が返せって言ったら返せよ!?」

「返してもいいけど、その時一番困るのはあなたのかわいい猫ちゃんよ?」

そうなんだよね・・・たぶん、一番困るのは僕。不甲斐ないです。

「さっ、あなた達は明日休みでしょ、遊びに出かけてきたら?私は寝るわ。」

そう言って愛さんは大きく伸びをしてバスルームに向かって歩き出す。

こんな時間に遊びに行くって言われてもなぁ~って思っていたら、渉さんが僕の腕を掴んで立ち上がった。

何!?

「樹!抱かせろ!何か癪に障る。」

うそぉ!?そんな理由!?

僕は渉さんに引きずられて僕達の家を出て、僕達の家に向かった。

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