夢と現実とその狭間 4
悩める猫ちゃんの背を押したのは飼い主だった。猫ちゃんは少なからず踏ん切りは付いていない様で、この前はあれほどはっきりと意志を表明したにもかかわらず今日はまるで違う。きっと飼い主の事を気にしているんでしょうね。いざ飼い主の前でこの結論を口にするのは心が痛いか・・・まだまだね。
じゃ、主導権は私って事で。
「猫ちゃん、あなた私のマンションに越して来てくれる?部屋は別々になる様に用意するから。あなたのマンションは引き払わないでそのまま残しておけばいいわ、名目は仕事用にでもしたらいい、その部屋であなた達は会えばいいじゃない?」
「おっ!それいいねぇ!」
まったく・・・バカな飼い主ね。
「そのくらいの経済力、猫ちゃんあるでしょ?」
ないわけないじゃない、御曹司なんだから。猫ちゃんは苦笑しているけれど飼い主は乗り気だわ、こういう奴の事を脳みそが筋肉でできているって言うんでしょうね。
さてと、どっかで続きの話をしないといけないんだけど・・・ここは無理ね、敵が多すぎる。
「じゃ、これから両家挨拶等の打ち合わせでもしましょうか。このまま私の家でどう?私達三人が顔をそろえられる日なんてそうはないでしょうし、飼い主にも猫ちゃんの飼育環境は把握してもらった方が良さそうだしね、なんなら夜までぶっ通しでいけるわよ?」
猫ちゃんは良識ある坊ちゃんだからまぁいいとして、この飼い主、馬鹿みたいに飲みそうね。
当然飼い主はノリノリで、猫ちゃんはちょっと面喰った状態で、こんなんで本当に大丈夫なのかしらねこの坊や。ちゃんと結婚できるかしら。
日高さんをちらりと見たら、今はもう起きていないみたいで・・・なんかちょっと、寂しいわね。なんて思っていちゃいけないんでしょうけど心の中までは変える事は出来ないのだから、だから偽装結婚なんだから。
日高さん・・・あなたの事は私が守るわ。
車に乗る前にちゃんと道を覚える様に言っておいたけど・・・覚えてるかしら、バックミラー見るのが怖いんですけど。そのうち慣れちゃったりするのかしら。家に帰ったら二人が裸でベッドにいる?そんな元アイドルだかタレントだかの夫婦いたわよね、バッティングしたやつ。
この場合私は夫を寝取られたことになるのかしら・・・男に?
ありえない、女としての名誉棄損だわ。
これは、連れ込み禁止にしないといけないわね・・・
高杉さんのマンションに着いて僕達二人は少し驚いて、車から出てちょっと立ち止まってしまった。高杉さんもそんな僕達を見て、でしょ?って顔して笑ってる。
ここは、都心部からすぐなのにすごく静かな場所だった。
目の前にある大きな公園は緑にあふれ、水が絶えず流れている。造られた公園のはずなのにすっごい大自然的だ、まさかの風が吹くと葉の揺れる音がする。なんか、ちょっと、僕のイメージしていた高杉さんの住んでいるマンションとは違う、どちらかというと夜も眠らない明るい都心部か大人の街のイメージだったからびっくりだ。横で立っている渉さんもそうみたい。人間、見た目で判断しちゃいけないんですね・・・
「とりあえず、その顔の理由は中でいいかしら?」
高杉さんが相変わらず笑ってる、僕達はとりあえず大人しく高杉さんの家へと向かった。
マンションは予想通りの最上階で、内装なんかも一応想像通り。でっかい作りの家だ。
家の中は案外片付いていて・・・って思ってダイニングテーブルを見て絶句した。本と書類の山が詰まれていて飲食の形跡は全くない。キッチンも使われた形跡がなく生活感はまるでゼロ、どう見ても個人事務所か仕事用の寝るためだけに帰ってますって言う・・・何と言うか、男の人でももう少し生活感あるんじゃないの?大きな窓の手前に大きなテレビが一つとソファーとガラスのテーブルがあって、僕達はそこに通されて、渉さんまで借りてきた猫みたいになってる。
この家からは渉さんをも上回るパワーを感じるよ・・・
「あー・・・ごめん猫ちゃん、お酒しかないなぁ。ウーロン茶でも平気?」
冷蔵庫を開けた高杉さんが一言。
もちろんウーロン茶で平気ですが・・・それって、どう考えても割るためのウーロン茶だよね?
「おっちゃんはビールでいい?」
「もちろん!」
飲む前にと前置きをした上で、高杉さんは僕に部屋を見せると言った。中央にある大きなリビングの左右にある部屋、片方は高杉さんが寝室として使っている部屋で、もう一つの部屋を僕に宛ててくれると言う。この部屋はゲスト用なのだとか。
「ゲストルームだから一応ベッドとかは用意してあるんだけど、気に入らなかったら自分で適当に揃えちゃってよ。」
そう言って開けてくれた部屋は広くて申し分はないんだけど・・・
「お嬢、これ、ゲスト泊まれねーだろ・・・」
「まぁ、そうね。」
この荷物は片付くのだろうか・・・ここほぼ物置じゃないの?
高杉さんは腕を組んでうーんと考えている。たぶんなんですが、たぶんですけど、だいぶ大きな本棚か何かを用意しないと片付きませんよ?僕の荷物も入るわけだし・・・まぁ、当分は必要最低限かな。
「次まとまった休みが入ったら片付けるわよ。」
「それ、いつ頃になりそうですかね・・・?」
「さぁ。」
当分は別居決定ですかね。
改めてソファーに腰を下ろし、昼間っからお酒を飲みながら三人で作戦会議をした。って僕は運転手だからウーロン茶だけど。両家のあいさつや知り合ったきっかけ、付き合った期間など・・・後々の事を考えて渉さんの存在も入れておいた方が良いんじゃないかと言う事になり、渉さんが共通の知人でそれを介してと言う事になった。そして改めてこの結婚を成立させるための細かなルールなども話し合われ、渉さんが勝手に頼んだピザとつまみと酒とで僕達は大盛り上がりしてしまい・・・夜になってしまった。
「連れ込みは絶対だめよ!禁止!何見せ付けようとしてんの!」
「手出ししなきゃ遊びに来たっていいんだろ?何たって共通の友人なんだから。俺は仲人だぞ?」
「ちゃんと家に帰りなさいよ!?絶対泊まらせないから。」
「連れ出るのはOK?」
「それは許す!」
あの、やっぱり僕は飼育物的な感じになるんですかね。まぁ、いいけど。
話しているうちに、初めは不安だった偽装結婚なんて大それた事はだんだん楽しみにさえ思えて来て、僕達三人は完全に性別の枠が取っ払われていて、図に起こせば複雑怪奇な三角関係だか四角関係なんだけど、なんか学生時代の催しの打ち合わせみたいで楽しい。
その中でも、渉さんが楽しそうなのが僕としては一番うれしかった。なんだかんだ言っても、僕が渉さんの立場だったらこの判断をよくは思わない。そりゃ、渉さんの腹の中までは窺い知る事は出来ないけれど、高杉さんと案外馬が合いそうでよかった。そして僕は高杉さんを恋愛対象としては決して見る事がなさそうで、こちらとしても良かった・・・女性版渉さんではあるんだけど、女性ってだけで何でこうも感じ方が違うんだろう。不思議だ、恐怖しか感じない・・・
ちなみに今この場から、僕は高杉さんの事を愛さんと呼ぶように強要された。
「しっかし、まさかお嬢がこんな場所に住んでいるとはなぁ・・・俺はもっとド派手な場所に住んでいると思ってたぜ?」
「人間を外見で判断すべきじゃないわ。」
はい、ごもっともです。
「しかも生活感はゼロ、お嬢料理とかできんの?」
「まさか、しないわよ。」
ですよね。
そう言うと愛さんは右手をばしっと僕達に突きだした。
「この手は商売道具よ?この手には何百人って命が乗ってるの。そんな手を傷付ける可能性がある事は絶対にしない・・・ってまぁ、今後どうするかは模索中よ。」
そうだった、愛さんの手は命をつなぐ手だった。明日も明後日もあの手には多くの命の行先がかかっている、まさに何億もの値の付く手だ。あの手が怪我でも追えば助かるチャンスを逃す命だって出て来るかもしれない・・・そう思えば包丁なんて握れないし火なんて扱えない。これはプロとして当然の判断だ。
「まぁ、仕事を終えて家に帰った時、いい想いで一日を終えられないときだってあるわ、私は神様じゃないんだから。そんな時に騒がしい場所にいたら治まるものも治まらないでしょ?派手に遊びたければ都心部に出るし実際食事なんかはそんな明るい街で済ませる事がほとんどだけど、家にはそんな物は求めてはないの。」
医療現場である以上助けられない事もあるのだろう、それこそ愛さんが言う様に神様じゃないんだから。そんな時はこういう静かな場所がいいと言うのも納得する。一見派手やかな外見で背筋もまっすぐで、全部が完璧なかっこいい女性ではあるけれど、そうもいかない事もあると言う事か。なんかちょっとそんな愛さんも見てみたいと思うのはサディスティックなのだろうか。
「まぁ、料理ぐらいなら僕がしますよ、たぶん愛さんよりできるから。」
「俺もそれが方々に迷惑がかからない名案だと思う。」
「方々ってどこまでよ・・・」
それを口にしたらきっと今日は帰してもらえない気がする、渉さんも同じ思いなのか、僕に目を合わせて黙った。自分で言うのもなんだけど、僕、ちょっと料理は上手いと思うから、愛さんが今から頑張るよりは比較的安全だと思える。たぶん、だけどね。
「お嬢、お前さん本当におとなしく令嬢になれんの?こいつんち本当の財閥だぞ?」
愛さんは任せてと言うが、少々心もとない・・・
渉さんの言葉は決して大袈裟じゃない、おかしな事を言う様だけど我が家は代々金持ちの典型的な富裕層だ。僕だって小さい時はそれを普通だと思っていたのだから井の中の蛙だったと言える。普通じゃないと知ったのは大学に入った時で、友人達とあまりにも生活感や金銭感覚が違う事に驚いて、民主主義の原則に乗っ取り少数派の僕は普通ではないと言う結論が付いた。その時それに気が付いた僕は本当に運が良かったんだと思うよ・・・そしてそんな世間知らずの僕と親しくしてくれた友人達にも本当に感謝だ。保護された生活と言うのがどれほど危険なのか身をもって知ったね。貧乏遊びも貧乏旅行も散々やって狭くて汚い友人の部屋で朝まで安い酒飲んで話し込んで、ひどい二日酔いもして、このちょっと特殊な恋愛観もそんな大学時代に形成された物で・・・本当に楽しかったなぁ。
しかし、それも今となってはもう許されない訳で、この会社を継ぐ事は生まれた時から決まっていて、大学を出て継いだ瞬間に僕はまた井の中に放り込まれてしまったわけだ。学歴と社会的地位が全ての今の世界、周囲の目を常に意識しそれ相応の立ち振る舞いを要求されて次期社長と呼ばれ・・・愛さんはSGRグループの次期社長夫人となるわけで、大丈夫かな。
僕の不審そうな視線を感じたのか、愛さんは手にしていたワイングラスを置いて不満そうな顔をした。
「私だって一応そこそこの役職持ちよ?頭の悪い肩書だけの上司やジジィ共との集まりや会なんかに出る事もあるわ、なんたって国立の大学病院ですからね、うち。尻触られたり胸ガン見されたりしてるのわかっていて笑ってスルーしてるのよ?嫌味だって散々言われ慣れてるわ。」
「でも、仕返しするんだろ?」
「私の患者になっちゃったら、先は長くないかもね。」
ご苦労お察ししますが、仕返しに関しては怖すぎてこれ以上聞けません・・・
「まぁ、どこまで被れるかは正直やってみないとわからないけど、たぶん問題ないと思うわ。この前のパーティーぐらいだったら何の波風立てることなく通り抜けできるわよ。」
そう、僕と結婚したとなればパーティーなる社交界に出なければならない、これは覚悟してもらわないといけない事だ。ただ・・・
「パーティーなんかは極力出なくていいように手配します、愛さんは仕事を優先すべきだから。」
そう、愛さんには救うべき命がある。そんな命を置き去ってパーティーなんてしょうもない物に出る必要はない、そこは夫である僕がフォローすべき事だ。
「顔合わせさえしてしまえばその後はうちの家族には関わらなくてもいい様にします、式だって上げる必要はない。ただ、一日ぐらいは見世物にならなきゃいけない日があると思うけど・・・」
「かっこいいわね猫ちゃん、見直しちゃう。」
それは、どうも・・・ちょっと照れます。
「そうよねぇ、バージンロードなんてバージンじゃなきゃ意味ないものねぇ・・・」
「ってか、バージンで通る花嫁なんているか?」
そっちに食いついたか・・・
「神に永遠なんて誓えないわよ、偽装なんだから。」
「ちげぇねぇ!」
酒が入っている二人はゲラゲラと笑っている・・・とっても楽しそうで、見ているだけで僕も笑えてくるから不思議だ。でっかい秘密を持つ運命共同体、そんな繋がりは神に誓わなくったってどうせ永遠だろう。
永遠ねぇ・・・僕はいつ、だれと永遠を誓うんだろうか?
渉さんと、なのかな・・・?
「さっ、あんた達はもう愛の巣にお帰りなさい。猫ちゃん飼い主をちゃんと連れ帰ってよね。」
久しぶりにあんまりに楽しいもんだから、時間なんて忘れちゃって本当に夜まで話し込んじゃったわよ・・・まだまだ若いわね私も。明日は製薬会社やらとの打ち合わせがほとんどだから私は深酒しても平気だけど、初日からあんまり飛ばさない方が良いわね。飼い主からの信頼は勝ち得とかないと、後々支障が出てたら大変だから。この飼い主、味方の事は徹底的に庇護するけど、敵には厳しいタイプと見たわ・・・敵にだけはならないようにしないといけない。
「話が分かるねぇお嬢!」
そう言って猫ちゃんの肩をぐっと寄せる飼い主、本当にバカねぇ・・・
「オヤジ!この家でそれ以上くっついたら出禁にするわよ!」
焦っている猫ちゃんの方がよっぽどかわいいじゃない。
「今後猫ちゃんと二人きりで会う事が多くなると思うけど悪く思わないでね、何を話したかは逐一猫ちゃんから聞けばいいし猫ちゃんも報告していいわ。もちろんあんた達の会う日にはかぶせない様に配慮するわよ。」
「そりゃありがてぇな!」
私、こっちのでっかいバカ男と結婚するんじゃないわよね・・・?
話し相手として合うのは間違いなく飼い主の方だ、ただ一緒にいて楽なのは猫ちゃんでしょうね。このバカ飼い主は友達以上にはさすがになれない、こいつがここに住んだらこの家を選んで住んでる意味がなくなるわ。
二人を追い出してベランダから外に出てみる、地下駐車場からきれいな青いスポーツカーが出て行ったのが見えた。帰って行ったか。この家にこれからは男が出入りするのね・・・日高さんも出入りした事の無いこの家に。
でもちょっと意外だったな・・・猫ちゃんがあんなにおとなしいなんて。主導権はバイである猫ちゃんだと思っていたんだけど、案外ピュアだったのね猫ちゃんって。
それに引き換え、あの飼い主はこの家に入り浸るんでしょうねぇ、先に鍵を渡しておくかな。出来るだけ長い事この偽装結婚を維持していなきゃ意味がない、早々に別れてしまっては全く意味がない、それにはだいぶ多くの許容が必要だわ。私の失敗はジジィ共の格好の餌、そんな餌を与えてたまるものですか。
私は成功しなければならないの・・・
愛さんとほぼ毎日話をした。
会えたらいいんだろうけどお互いなかなか時間も会わず・・・って言っても愛さんが忙しすぎなんだよね。だから電話で打ち合わせみたいなことがほとんどで、どうしても合わせておかないといけない馴れ初めやらなんやらに関してはもはや電話会議に等しくて、自由を手にするのは非常に大変であると思い知った。
『うちの両親の方は問題ないわ、私が猫ちゃん連れて行って結婚するなんて言った日にゃきっと土下座して懇願するはずよ?』
「問題は相う良家ちだよね・・・」
すんなり納得してくれるのだろうか。
こんな事を言ったら人間性が疑われるんだろうけど、家柄や家系を重視する傾向のあるうちの流れからすると愛さんのようなごく普通の一般家庭から結婚相手を取るのはかなり異例。皇后美智子さまやダイアナ妃に近いポジションだよ・・・
母さんだって家柄のいいお嬢様だった、だからこその縁談。まぁ、そこを納得させるのは僕の最大の任務ではあるんだけど、あんまり自信ないんだよね・・・
『ところで、飼い主は?』
「元気ですよ、愛さんに会いたがってます。」
渉さんは本当に楽しそうに今回の事態を傍観している、それこそ渉さんと愛さんが結婚しそうなくらいだ。
『なんか、一人息子の親権を別れた元旦那と奪い合いってるみたいな感覚だわ・・・』
「その場合、元夫側に別れた認識はないかもしれないですね・・・」
『子供が苦労するパターンね、』
・・・そうかも。
日程は決めた。そしてその日程に向けて僕達は動くことにした。まずは外堀から埋めていくので僕の方が愛さんの家に先に挨拶に行き了承を得て、その後に僕が両親にその事を伝え、日を伝え愛さんを紹介する。そして両家顔合わせの日程を取る・・・すんなり行くかなぁ、愛さんの両親って、どんな人なんだろう・・・
『兄がいるけど兄夫婦は海外だから、報告は特に必要ないわ。』
「海外って、仕事で?」
『えぇ、兄も医者なのよ。って言っても臨床じゃなくって研究の方、アメリカにいるわ。』
これはポイントが加算されそうな情報だね。
あぁぁ・・・自分で考えていても嫌になる、こんな事で人間性を評価しなきゃならないなんて。家柄なんて関係ないし、ご両親やご兄弟の事ももちろん関係ない、その人の価値はその人が築き得た物で決まるのに。落ち込みそう・・・
その夜、渉さんと電話した。
「なんか、両親を説得させる自信がない・・・」
渉さんも何かを察しているみたいで小さなため息が聞こえた。渉さんは当然僕の父親については知っている、僕の取材の時に会っているから。
『お前の親父さん、ちょっと目線の位置が高いんだよな・・・』
そうなんだよね・・・
苦労を知らない生まれた時からの金持ちだもん、仕方ないよ。しかも大企業の社長だし。ってその子供が言っちゃいけないか・・・
「来週の金曜日、愛さんの家に行く事になったんです・・・」
複雑だよ、望んでいる物があっさり手に入ると人間こうも不安になるものかな。
『俺も行こうか!』
なんで、楽しそうなんだか・・・
いっその事本当に付いて来てほしいよ・・・でも・・・
「渉さんには、見てほしくない・・・」
今の僕の率直な想いだった。
僕が誰かと婚約をし、結婚する所なんて渉さんには見せたくないし、見てほしくもない・・・
渉さんとのこの関係が永遠かと問われれば、断言はできない。僕はバイだし、渉さんはノーマルだ。今までみたいに僕の気持ちがあっさり他の性別の人に飛ぶ可能性だってあるし、渉さんの前に素敵な女性が現れるかもしれない。先の事なんてどうなるかなんてわからないけど、少なくとも今の僕にとっては渉さんが一番だから・・・そんな最愛の人に、嘘偽りだとわかっていても、自分の心も含めて相手を裏切る事は辛い。
『今から抱きに行きてーよ。』
渉さんのそんな優しい声が聞こえた。
『大丈夫だ、樹。お前の親権は俺にある。お前はちょっとレンタルされるだけだ、契約解除の権利は当然俺だ、心配すんな。』
発言の内容はともかくとして、嬉しいです。
日本に同性婚が認められる法律が出来て、その時のパートナーが渉さんでってなった時、本当に離婚しても平気なのかな・・・?




