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いたずら好きな神様  作者: 楠木俊介
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悪夢と心地いい朝

 戦争が始まる夢を見た。突然のブザー音に叩き起こされ、赤暗い光が今起きている恐怖を私に推理させた。火事、地震、北朝鮮の原爆、身近に感じる大きな恐怖を片っ端から思い浮かべ、心の準備をし、飛び出そうな心臓を抑えながら窓から外を覗き込んだ。赤く燃え上がる空。赤い空を飛び回る緑の戦闘機。町のあちこちから上る黒い煙。戦争が始まった。死にたくない。私はこれまでに感じたことのないような恐怖に心臓が止まった。一瞬の沈黙の後、ガン、ドン、ドタバタ、とひどく激しい音が部屋の下から聞こえ、叫び声とともにお父さんとお母さんがドタバタと階段を駆け上がってきた。娘の身を心配したその形相はまさにぐちゃぐちゃに泣く鬼のようであった。止まっていた心臓がまた動き出し、絶望の中の安堵を噛み締めた。と同時に後悔が頭をよぎる。親孝行をしておけばよかった。もし何事もなくこの絶望が過ぎ去れば、もっと家族を大切にしよう。まだ誰も死んでいないにもかかわらず、思考と感情の暴走の歯止めが利かなくなってしまったのだろう。死ぬかもしれないという状況におかれたせいだろうか、生まれ変わりや死後の世界などを信じようと頭が身勝手に考えては、私の心を落ち着かせようとしてきた。現実を受け止めきれない私にとって、この戦争は夢である、ということが今まで通りの平和な心を取り戻す最後の頼みの綱となった。夢に違いない。夢であってくれ。夢を覚ますイメージを真白な頭に描き、震える心にグッと力を込めた。こうして私は今日、無事に朝を迎えることができたのである。

 よかった。夢だった。死なない。誰も死ななくてすむ。戦争は嘘だった。悪夢の後のこの上ない安堵にしばらく浸っていると、今度は無性に親の顔が見たくなった。時刻は午前7時。ちょうど私がいつも起きる時間帯だ。悪夢の後の嬉しさで変に高ぶっている心を抑え込みながら、階段を下りていった。

母「おはよう、(みどり)。」

碧「おはよう。」

いつも通りの様子で台所で朝ごはんを作っている母さんといつも通りのおはようを交わす。

碧「お父さんは?」

母「お風呂じゃない?」

おはようを言いに行くか、行かないか。少し考えてから、顔を洗いに行くついでを装ってとか、自然な感じを装ってとかを考えながら風呂場とつながる洗面所に向かった。

碧「お父さん、おはよう。洗面台使うよ。」

完璧だ。

父「あぁ!おはようさん。いいけどもう上がるよ。」

碧「あい。」

急いで顔を洗って、コンタクトを付け、寝癖を確認して洗面所を出た。リビングには玉ねぎを炒めた香ばしいにおいが広がり始めた。私の勘では朝ごはんまであと5分くらい時間がある。二階の部屋に戻り、電話で(しゅんに電話をかけた。

隼「(トゥルルトゥルルトゥルルトゥルン・・・・・トゥルルトゥルルトゥルルトゥルン・・・・・トゥルルトゥルルトゥルルトゥルン・・・・カッ)・・もしもし・・・。」

碧「もしもし、おはよ。」

隼「あー、おはよ。・・・何?」

碧「別に。おはよってだけ。ありがと。じゃ。」

隼「ん?あー。あい。んじゃ。・・・・(ドゥルルルン)」

電話の後、LINEで隼がスタンプを連打してきた。GOODMORNINGって書いている赤ちゃんのスタンプだ。LINEを閉じるとすぐに未読が100を超えた。ちょっとうれしい。ちょっとうざい。

母「朝ごはんできたよ!!!」

お母さんの叫び声を合図に、お父さんと私はリビングに集まる。こんな事いちいち考えているわけじゃないけど、今日の朝は、今この瞬間世界で一番幸せだと感じる朝であった。







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