表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

フライング✖ボーイズ

作者: イノさん

初めての短編です。

根留菜は、うつむいたまま、歩いていた。歩くたびに、ウィンウィンと音が鳴る。根留菜は、義足だった。根留菜の脳内に、生々しく記憶がよみがえる。根留菜は、小さい頃から飛行機が好きで、パイロットになることが夢だった。しかし。それは、七年も前のこと。後ろで、ガシャーンと大きな音がした。振り返ると、高層ビルに、飛行機が突っ込んでいた。その高層ビルが、こちら側に倒れてくる。急いで、逃げようとした。しかし、右足一本、持って行かれたのだ。「飛行機なんて、大嫌いだ。」根留菜は、つぶやくように言った。その時、突然背中をたたかれたものだから、仰天してしまった。「よっ!」「ナオキか。」井上直記、二十六の同い年。こいつは、「なんとなく科学者が良い」といったら、本当に科学者になって、エンジニアの資格まで取ったのだ。腹立つことに。「どうした?暗い顔してんぞ?」「おまえが明るすぎるんだよ。」「やっぱ、痛いのか?」「いや、痛くは無い。」こいつは、いつもそうだ。ずかずか入って、そのまま消える。「謎」というやつだ。「飛行機乗ろうや、じゃあ。」「飛行機なんて、大嫌いだ。」ナオキはポリポリ頭をかくと、急にハッとしてかけだした。それから、すごい勢いで戻ってくると、広告を目の前にぶら下げた。「お前は、飛行機が好きなんじゃ無い。」「?そういっているだろ?」何言ってんだこのオッサン。「いや、好き「だった」んでも無い。おまえが好きなのは、空だろ。」思い出した。人がいては行けないはずの場所。いるはずの無い場所そこに行けば、新しい世界が見えるはず。いや、絶対見える。だから、自分に翼を持たせてくれる飛行機が好きだったんだ。「鳥になる。誰も夢見るらしいな。まあ合理的に現段階じゃクローンハーピーが限界だろうがな。」鳥人間コンテスト。ここを飛べば、俺の知りたかった世界が見えるはずだ。いや、千パーセント、見える!「こういう場合、百パーセントが限界な。」うるせえ。ピーッ!ホイッスルの音だ。「逃げるぞ。」え?「駅のやつ、引っぺがしてきたんだ。」運動不足のはずなのに、ナオキの逃げ足は尋常では無かった。

「すみません。」「ああ、カーネルか。」大坂根留菜。この奇妙で珍妙な名前のせいで、あだ名は多かった。この上司の場合、カーネルで、ナオキはネルネルネルネ、略してねっちゃんらしい。ならはじめからそう呼べよって思うのだが、まあ、らしいっちゃらしい。「これからしばらく、休暇をください。」「良いよ~。まあ、上限三ヶ月ってとこかな?」この上司は、大分テキトーだが、上司になれたのはテキトーが良い感じにあってるからだ。たまたまか狙ってるかは、知らん。まあ、とにかくそんなことで、ナオキの家に行った。「へいらっしゃい!いや~昨日は災難でしたねぇ。」ノリがラーメン屋だ。もう気づいてるかも知れんが、こいつは「ナオキ」という生物として覚えとくのが定石だ。試験に出るぞ。「お邪魔します。」「んだよノリ悪いな~。海苔好きのくせに。」コイツは、駄洒落も大好きなんだった。「それで、どこだ?」「約、三メートル先、右方向です。それから、井上家、お手洗い、を、左です。」カーナビのブツブツ切れるしゃべり方で、ナオキは道案内した(つもりになっていた)。「んじゃ、すぐ行くから設計図でも見といて。」俺は、言われたとおりの部屋に入った。つもりだった。そこは、古い時計が一台、置いてあるだけの部屋だった。「だから広い家は嫌いなんだ。」戻ろうとしたが、時計が気になって仕方が無かった。それで、蓋を開けた。「へ~、こうなってるんだ。」中に、折りたたまれた紙が入っているのが見えた。「なんだこれ?」広げると、墨で書かれた「飛翔」の文字と、きれいすぎる文字とは不釣り合いなヘタクソな鷹が書いてあった。その瞬間。時計が急に狂った。「やっべ。」頭をかいているうちに、時計が破裂して、俺は別の部屋に来ていた。「なんだこれ?」もう、ワケガワカンナクテワロタ。

キイィ。扉が開いた。女の子が入ってくる。「・・・誰?」「いや、アンタこそ誰?」女の子はかけていくと、「フシンシャー!変態がいる!チカーン!」と大声で叫ぶもんだから、思わず口を押さえてしまった。「俺の名前は大坂根留菜。けして、怪しい者では無い。だから黙れ!」「嘘よ!ねっちゃんはもっとナイスミドルだもん!」え?ねっちゃん?「もしかして、ナオキ?」「はあ、性別違うでしょ?見てわかんないの?」「いや、性転換したのかなーと。女装かも知れないけど。」すごい、にらまれている。「科学者がそんなことすると思う?」確かにそうだ。「じゃあ、君は?」女の子は、ぶすっとしたまま答えた。「井上直記の子供、井上七海ですけど。なんか文句ある?」そうか。ナオキの子供か。てか、柄悪いなあ。いや、それよりも、結婚してたんだ。「騒がしいぞー」そう言って上がってきたのは、ナオキそっくりのオッサン。「誰?」「俺。」いやだから、誰?「僕。ワシ。」このノリって、もしかして。「ナオキ?」「何で知ってんだ?」やっぱり。うれしいようなうれしくないような別に大してうれしくないなウン。「で、ここはどこだ?」「こっちの質問は無視かよ。まあいい。ここは西暦二千二百年後半、二十三世紀の、東京だ。」ん?んん?「二十一世紀は?」「吹っ飛んだ。」マジか。「実はな、ナオキ。」

「・・・なるほど、タイムスリップってやつだね。」何でうれしそうなんだよ。「てことは、おまえ、危ないぞ。」どういうことだ?「これは、あくまで仮説だが。」「はよ言え。」「おまえは消える。」え?「同じ時間に、違う時間の二人が存在したら、世界こじれるだろ。」まあ、なんとなく分かる。「となりゃ、世界はどっちかを消さないといけない。その場合、本家を残すに決まってるだろ。」ごもっともで。「だが、おまえの意志の強さと、おまえの「存在意義」さえ強ければ、はじかれて元の世界に戻るはずだ。仮説だがな。」仮説かい。「しゃーねーだろ、これが初めてなんだし。どうする?死におびえながら、性転換とかわずかな希望にすがって無様に生きるか、「俺はここにいる!」て主張して元の世界に帰れる希望を持ちながら無様に生きるか。」無様しかねーのかよ。「人間、生まれながらに無様さ。」コーヒーをズズーと飲みながら、決めぜりふを放つ。くそう、カッケーじゃねーか。「で、どうする?」分かってんだろ。「帰って無様に生きてやるよ。」「そう来なくっちゃ。」パチィン、と指を鳴らした。

「これがペダル。こっちが本体。そんでこれが帆の設計図。できっか?」「やる以外、ねえだろ。」俺はその設計図を見て、吐き気を催したが、なんとか隠した。「アンタ、ホントにおっちゃんなんだね。」失礼な。おっちゃんになる前のおっちゃんだ。「なら、ちょっと見せたい物があるんだけど。」俺は、「行ってくれば?」と軽く返すナオキが、少しニヤッとしたのを見た。

長い長いらせん階段を降りて、地下室へと近づいていく。「まだなの?」「もう少し。」何度か同じようなことを繰り返してきた。そして。地下室に、ついた。そこで見たのは、怪しげな液体の中にいる、なんだかよく分からない生物だった。「何これ。」「超進化生命体。」今、さらっととんでもないこと言った。「お父さんが作ったの。この子は、人を助け、人を殺す。小さな前任を助ける代わり、年老いた悪人を裁くの。」?「まあ、詳しい話は父さんから聞いて。」それだけ言うと、まるで視界に入れないようにするように、クルリと背を向けて、ズンズン階段を上っていった。

「どうだった?僕の子供は。」「どうもこうもねえ。見損なったぞ。」「何で?」ナオキは、背でしゃべっていた。「おまえ、人を殺してんだろ?」「間引いてるんだ。平和のために。罪人の命だけだし、増えすぎた国の者だけだ。」ナオキは、至極当然、という顔で言っていた。「おまえの目には、光が見えないのか?」「見えないね。」さらっと、言った。思わず、聞き逃してしまうくらい、さらっと。「僕が知っているのは、闇と孤独だけだ。それだけしか知らないが、すべてを知っている。所詮、光だの希望だの人間だのは、目くらましに過ぎないんだよ。」「・・・。」ナオキなら、こんなことは言わない。コイツはナオキであって、ナオキでは無い。「何があった?」「聞きたいなら、聞かしてやる。」十七歳の時。日本が戦争を始めた。自民党が、不戦の契りを、消したのだ。それから、一年半。地震が起きて、戦争は終わった。日本の惨敗だ。復興の兆しが見えた、二年後。がれきを除去しているショベルカーが、人を巻き込みそうになった。ナオキの花嫁は、顔を真っ青にして、そいつをかばった。突き飛ばしたのだ。その人、いや、ブタは、足下に転がってきた首を見た第一声が、「気持ち悪っ」、だ。「うーわ、キッショ。え、グロいんだけど、なあ、こっち見んといて?」吐いている野次馬と、逃げていくショベルカーと、ブタと、子供の目を塞ぐ親だけが、そこにいた。救急車だの、警察だの、かばうだの、そういう人は一人もいなかった。そいつが、図々しく葬式に出席して泣いていたときは、殺意しか湧かなかった。もちろん、顔や態度には出さないようにしたが。「そのとき知ったんだよ。人間は、浄化できないとね。神は、悪人の味方ばかりするとね。世界の光が僕を否定して、闇が僕を肯定した。光は、ハエのようにうざったいつきまとう目くらましなんだよ。」遙かに追い越していたと思っていたナオキが、遙か前方にいた。「なんか、おまえ、デカいんな。」「よく言われるよ。痩せろって。」いや、そういう意味じゃ無いんだが。「とりあえず、そんなわけで、僕は人を信用しない。おまえも、完璧に信じたわけでは無い。ただ、ほかのやつより少しマシ、その程度だ。」その後、俺は黙って作業を開始した。

「今日から合宿しようと思う。というわけで、ここが会場だ。」そこは、出っ張った橋がついた、海だった。「ここから飛べってか?」「ほかに道ある?」確かに。七海が、先頭に立ってホテルに入った。

「ほら、ワイン。」・・・未成年なんだけど。「二百五十歳超えてるから問題ないでしょ。」やはり、ナオキの子供である。「明日は早いから、はしゃぎ過ぎんなよ。」そうだ。聞きたいことだあるんだった。「なぁ、ナオキ。」部屋に帰って、まだ調整しているナオキの背中に、声をかけた。「何だ?」「おまえ、どうして合宿しようとか言い出した?」コイツは、そういうの嫌いだったはずだ。「何か企んでいるんだろう?」「・・・何でもねぇよ。少なくともおまえには関係ねえ。」俺は、ナオキの肩をつかんだ。「少しは信頼しろ!どんだけ一緒にいたと思っているんだ!」「おまえとは、一ヶ月だよ。」マジで、キレた。おまえに俺の気持ちが分んのか?あ?」ナオキが、振り返って胸ぐらをつかんだ。「テメーこそ!こっちの気持ちが分んのかよ!」ナオキの目が、怒りの色になっていた。「光なんてつかの間の目くらましに過ぎない!だから永遠に生きる闇は、人間の光を嫌うんだ!光しか見てねーテメーに!僕の気持ちが分かるかっつってんだ!」ナオキの手が、細かく震えていた。「唯一愛したやつとの間に生まれた七海でさえ!腹の底が黒く思えてどうしようもねえんだ!テメー如きに分んのかよ!?信じたいとすら、思えねーんだぞ?!」ナオキの息が、荒くなっている。「おまえ、そんなじゃいつか殺人狂になるぞ。」「血は、苦手だ。」ナオキは、少し冷静になって、そう言った。「でも、知っている。血は、温かい。」ナオキが、笑っている。ぞっとした。「・・・で、何企んでたんだよ。」「おまえには全く関係ない、といっただろ。」ナオキは、捨てるように言った。「命の重さを知ってて、血が温かいって言ってんのか?」「命は、平等だ。」ナオキがそう言ったので少し驚いた。「でも、重くは無い。平等に、軽いんだよ。そうそう、七海に礼をいっとけよ。」え?「あいつは、おまえ以上にこれに熱心だ。」そう言ったきり、作業を再開してしまった。

「さあ、行け。」ナオキが、後ろを押した。色々複雑な気持ちを乗せたまま、鳥は飛んだ。「どうだ?」「やってやる。」俺は、力一杯ペダルをこいだ。「でやああああ!」そして、空の彼方に消えた。「行ったか。」「うん。私、手紙書く。それで、あの時計で送る。」「ああ、そうしろ。」ナオキは、七海がいなくなったのを見ると、短剣を取り出した。「さあ、僕も用済みだ。ずっと待ってた約束事も果たした。」刺そうとしたとき、腕を握られた。「やっぱり。」七海が、泣いていた。「父さん、天国に行かなきゃ、全員ひとりぼっちなんだよ?分かってんの?」ナオキは、ハッとした。ナオキの眼の中で、七海の奥底の黒い面に、ひびが入った。「分かった。死ぬのは全部償ってからにするよ。」光は、光源は血の中にあった。それが、ナオキの出した結論だ。超進化生命体とは。死の国と生の国の言葉を聞ける人工生物のことである。

「クソ長いクソだったなあ。」鳥は消えて、元の部屋に来ていた。三十分たっている。「ナオキ。」「ん?」俺は、ゆっくりと息を吸った。「頼み事がある。」机の上で、飛翔の紙が、カサリと鳴った。

イノさん参上の3乗!エッグがえぐれてエッグ!わーっはっはっはっはっ88六十四!この作品、二人ともモデルは僕です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ