地下都市 - Underground World -
『未来の技術』と『蒼波奏音』。
ボク達が行き着いた先は何も無い通路の先、虚空の空間だった。
「ここからどこに?」
「そこに立っていて。動かないでね。」
そう言うと蒼波は壁に向かい、触れた。すると、その部分が凹み、機械の動作する音が聞こえる。
「エレベーターだよ。壁は無いから気を付けてね。」
蒼波がボクが立っている場所へ戻ってくると、ちょうどエレベーターが下がり始めた。これが未来なのか、さっき蒼波がボタンを押した時以外に機械音は聞こえない。
「すごい……。」
「楓鈴の時代にはここまでの技術は無かった?」
「静かに上下するエレベーターなんて初めて乗った。」
「それは良かった。初めて未来がすごいって事を示せたかもしれないね。」
そう言うと蒼波は笑い出した。釣られてボクも笑う。
「蒼波って日本人なの?」
笑いが収まった時、ふと疑問に思った事を尋ねてみた。
「日本人……まあ、そうかもしれないね。『新未来構想』が始まった後、国という境は取り払われたんだ。半ば強制的にね。国を取り払う事で権利とか保障とかを有耶無耶にしたかったんだろうね。」
しばし蒼波は黙った。そして、再び話し始める。
「でも……俺の先祖は少なくともアジア人ではあるはず。黒髪に黒い眼だしね。」
「日本語喋ってるよ?」
黒髪で黒い眼に日本語。これで日本人じゃない事があるのだろうか。
「日本語……ああ、そういう事か。それも『新未来構想』の最中で開発された新ゲノム技術────つまり、新しい遺伝子操作で擬似的なテレパシーを送れるようになったんだ。」
蒼波が言うには、その遺伝子操作は全人類が受けたそうだ。それにより完全なテレパシーとまではいかないが、言葉に乗る感情や意思を脳に直接伝えられるようになり、言語を理解せずとも会話ができるようになった。
「だから俺が日本語を話しているように聞こえるのは、ただテレパシーで伝えられた感情や意思でそう汲み取っているだけなんだ。」
複雑な未来だ。その言葉がボクの頭を過ぎる。テレパシーを使えるようになった、なんて誰が知るだろうか。
「俺もそれで気付いたんだが、いつの間にか楓鈴の遺伝子にも操作が入っているみたいだね。楓鈴の言葉を理解できないはずなのに理解できている。という事は楓鈴もテレパシーを行っているという事だ。」
「え……ボク、そんな事された?」
思い当たる節は全くない。可能性があるならば、御神木に触り、意識が無くなった直後から目を覚ますまでの長さ不明な時間の間だろう。
「……傷とか残る?」
「いや、このゲノム技術は意外と優れていて、注射だけで済むんだ。後は体の中に入った特殊物質がDNAを変化させて、自然消滅する。」
圧巻の技術だ。だが、逆に遺伝子操作に気付かないという事である。それを悪用すれば、どうとでも出来るのだ。自分の身は自分で守らなくてはならない、という事なのだろう。
「……そろそろかな。この話はこれぐらいにしよう。外の景色が見えてくるよ。」
蒼波が言った通り、少しするとエレベーターは外に出た。壁がない為、恐怖でエレベーターの端っこの方までは行かないが、充分に真ん中からで見える。
「綺麗な都市。」
整理された区画は無駄が無かった。景観も大事にしながら、街として活気づいているように思える。ビルの屋上には屋上菜園。道路では車がスピードを上げて走る。公園で子供達が遊んでいる。意外とボクの時代と変わらないようだ。
「いつの時代も人は変わらない。」
「うん、そうだね。」
蒼波は頷いた。街を微笑ましく見ている。蒼波の話では地下都市構想は蒼波が主導となって行われたものと言った。という事はこの都市は蒼波の努力の結晶なのだ。
「少し街の説明をしよう。この地下都市には人口が千万人。俺らが把握しているのは、それだけだ。残りの人類が生きているのか死んでいるのかは全く分からない。地下都市は年々拡大しているが、現在はおよそ縦100キロ、横100キロ。」
ボクは地下都市の端を見ようと、目を凝らすが全く見えない。見えるはずもないけど。
「この地下都市は一応、一つの国という形で固まっている。権利の集中を防ぐ為に国の組織は防衛省、産業省、文化省、交通省、人事省、立法省、司法省、区画省の八省で構成されている。それをまとめる機関として下位議院と上位議院があり、最高責任者が俺だ。蒼波首相という訳だ。似合わないけどな。」
しっかりとした仕組みで動いているらしい。ここまで作り上げるのも弛まない努力の賜物なのだろう。ボクは蒼波を改めて尊敬した。




