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転換点 - Turning point -

『世界』と『ボク』の転換点。

 世界は2066年に起きた『水戦争』。その略称W.W.より第三次世界大戦と意味を掛けてW.W.Ⅲと様々な評論家から揶揄された戦争は、瞬く間に世界を巻き込んだ。幸運な事にその数年前に実現した『世界核兵器撤廃条約』により、一切の核兵器使用はされなかった。


 その為、最終的に戦勝国と敗戦国が生まれたものの、平和条約は再び採決された。ここで世界は新たな転換点を迎える。敗戦国は植民地化され、厳重な監視の元、様々な資源の分配が行われるようになったのだ。完全な実力社会と移行していく。


「ここからの世界は最悪だよ。強者は虐げるもの、弱者は虐げられるものなどと騒ぐ連中までいたものだ。常に力があるものだけが勝つ社会になった。」


 そして、世界としての在り方は変わったが、それでも世界は安定していった。


「だが、そんな世界が長く続くはずは無い。どうなったか分かる?」


 呆れた笑いをしながらボクに問い掛ける。


「反乱……暴動……内紛。」


「その通り。敗戦国の中の数カ国が結託して、戦勝国に戦いを挑んだ。それが今からおおよそ350年前。西暦で言うと2179年。その戦いは『七十年戦争』と呼ばれている。」


 七十年戦争の目的は敗戦国の独立。次々と敗戦国が参戦し、そして世界は巻き込まれる。『水戦争』による人口減少と共に文化水準、技術水準も落ちていたが、どうにか元の姿を取り戻しかけた頃であり、先の戦いで脅威として禁止されていた核兵器が小規模ながら使用される。


「七十年戦争が終わる頃には数十の国が消失していた。核兵器が猛威を奮ったんだ。勿論、悪い意味でだ。核兵器に良い事などある筈もない。」


「……」


 壮絶な未来にただただ無言を貫く。言葉を出すこともできない。どこで道を違えてしまったのか、考えれば簡単な事だが、本当にそんなに簡単な事なのか、答えを疑ってしまいそうになるほどに惨憺たる未来のようだ。


「だけど、今の世界がこのようになったのは、そんな昔の事じゃない。今から百年前に始まった『第三の技術革命』時に提唱された『新未来構想リジェネレーション・プロジェクト』が原因だ。」


 生まれ変わる、という意味を持つ|regenerationリジェネレーション。新たな未来を生まれ変わると表現した国連の新体制組織『国際協定加盟国連盟』。通称『新国連』。七十年戦争で滅びなかった国々により再建された。


 これは人々の想像の斜め上を行く最悪を招く。それは世界の死と再生。一度世界を焼き、再び人の手で人の思うように作り直すというものだった。


「結果がこれさ。生き残った人類は今、地下都市で暮らしている。まだ地上で生きれるようになった、とは知らないはずだよ。つい最近まで地上には酸素が0.1%も無かったからね。」


 青年は瞼を閉じた。その瞼の奥では何が見えているのだろう。壮絶な過去か、希望なき未来観測か。少なくともその表情から読み取る事は出来なさそうだ。ボクもそれを見守る。


 やがて青年は目を開いた。


「君は……俺が誰だ、と聞いたよね。」


 ボクは頷く。やはり、あれは意図的犯行だったようだ。


「俺は生き残った人類の希望の星。自分でも言うのも何だけど、地下都市構想も俺が練ったし、実際に今地上に来ているのも、俺が彼ら人類の主導者だからだ。」


 ボクとあまり変わらない若さで人々を率いるのは真か否か。今までも嘘はついていなかったようだが、次も本当なのか、ボクの脳内で思考がグルグルと回っていた。


「信じられないも無理はない。でも彼らは俺が主導者だと思っているらしい。だから俺も主導者(ピエロ)になる。彼らの望むホンモノではないとしてもね。」


 そうボクに告げる青年は絶望に包まれた表情をしているのか。否。青年はまるでこの世界にはまだ希望が残っているかのような、希望に満ちた明るい笑みを浮かべていた。思わずボクはその光に手を差し伸べそうになる。


 だが、そんなボクの気持ちは色褪せた世界しか理解しないボクの脳が、思考が邪魔をする。新たな世界を作るであろう青年に縋って、その新たな世界を見たい。知りたい。それでもボクなんか不適切な存在が、青年の邪魔をしてしまったら……


 暗く沈むボクの表情を見て、何かを察したのか、青年へと伸びる手は突如青年の手に包まれた。ボクは顔を上げる。そこにはうっすらと笑みを浮かべる青年の姿が。


「君は……俺についてきてくれないか? 君を、世界を救おう。救った先に見える、本当の未来に君を誘おう────。」


 ボクは青年の手を握り返す。その瞬間、世界が彩られる。ボクの世界は色を取り戻した。


「……本当に?」


 ボクの目からはとめどなく涙が零れる。そんなボクの涙を青年は自分のハンカチで拭き取る。


「君の愛らしい笑顔が台無しだ。君は素敵な女性なんだ。泣かないで笑っていてほしい。」


 そして、ボクは彼について行くことに決めた。

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