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出会い - Rendezvous -

「ここは……?」


 目を開くと、そこはボクの記憶にない場所だった。辺りは荒野。生命が枯れ果てたように生える草にも力強さはない。


「ひどい世界だ。」


 ひどい世界。ボクの感想はそれだけだった。見渡す限り、荒野。建物は愚か、木すらない。『今にも終焉を迎える終わりの大地』。それがこの地を表す適切な表現のように思えた。


 長い時間、ボクは荒野を眺めていた。その眼差しに何の感情があっただろうか。本人であるボクもよく分からない。時々、自分が何を考えているのか分からない時がある。それが今だった。


「荒野しかない世界────じゃあ、あれは何だろう。」


 ボクは風で揺れた枯れ草の中に光るものを見つけた。それが何か遠目では分からなかったが、近付いてみると気付いた。鉄だ。いや、正確に言えば異なるだろう。入口だった。頑丈に何重にも錠が掛けられた地下への入口がそこに隠れていたのだ。


「こんな未開の地に何かあるの?」


 その鉄の入口を開けようとするが、錠が掛けられているため、微動だにしない。


「まあ、そうだよね。」


 少しでも期待するから駄目だったのかもしれない。ボクはその入口から目を背けた。文字通り、背後を振り返ると、ボクは目の前で覗き込む人に気付き、数歩交代した。


「だ、誰……?」


「誰だと思う?」


 質問に質問で返され、素直に答えるつもりはないと知る。誰かに会ったことよりも地球の何処にあるかも分からないこの地で日本語が話せることが不思議だ。ここは日本なのだろうか。


「まあ、答えられないか。分かっていたけどね。君は誰?この世界の人じゃないでしょ?」


 顔かたちの良い顔をしたボクと同じぐらいの年齢の青年は、笑いながら尋ねてきた。


「そう、なのかな……?」


 尋ねられてもこの世界が何なのか、地球なのかどうなのかボクには皆目検討もつかない。だが、そんなボクの様子も青年は微笑ましく眺めている。


「そんなにボクの顔面白い?」


「ううん、全く? でもどうやら君はこの世界の人じゃないみたいだ。じゃあ、幾つか質問をしてみたら分かるかもしれない。」


「そうかもね。」


 ボクはコートを脱ぎ、腕に掛けた。手袋とマフラーもとる。今はあまり寒くない。それからボクは青年の顔を見ていた。改めて見ると、やはり顔が整っている。不思議な青年だが、ボクは少しそんな青年に惹かれていた。青年はボクの視線に気付いたのか苦笑する。


「それじゃあ、質問するね。『地球』って知ってる?」


 ボクは頷く。生まれた場所で色褪せた世界。だが、あの世界には本という唯一無二の『新たな世界』があった。今は無いが。それよりもこの青年も地球を知っているようだ。


「ここは地球?」


「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないね。」


 青年は口を濁らせる。何か言い淀む事があるのか、ボクはそれ以上口を挟まない。


「まあ詳しくは後で話そう。じゃあ、二つ目。君は地球の人間だね?」


 再び頷く。地球生まれ地球育ち。地球を代表しているかのような物言いだが、ボクなど人間の中でも特異な存在だろう。正直、代表したいとは思わない。まあ、地球もボクなんかダメ人間に代表してほしくないだろうけど。


「そうかそうか。」


 だが青年にはこれだけで充分なようだ。青年はゆっくりと瞼を閉じた。そして静かに口を開く。


「君は西暦何年からこの時代に来た(・・・・・・・)?」




 ###




 青年の口から溜め息が零れる。ボクは息を飲み込む。青年の言う言葉を理解したからである。それはあまりに衝撃だが、覚悟を決めて答える。


「2023年。」


「……やっぱりか。……君の時代とは大きく掛け離れていると思うがガッカリしないでくれ。この世界は西暦2523年。君の時代からはちょうど500年も離れているようだ。」


 その数字はにわかには信じられない。


「本当に……?」


「君もこの世界を見て分かっただろう。ここは地球だが、かつての地球じゃない。様々な困難に襲われた世界の成れの果てだ。この惑星で500年という月日は長すぎる。全ては変わってしまった。」


 青年の顔は苦渋に満ちている。嘘ではないらしい。半信半疑だが信じるしかないのだろう。それがボクに残された唯一の現実、そして未来なのだ。


「どうして地球はこんな姿に?」


「話せば長いから詳しくは言わないが、簡単に言えばこうだ────」


 青年は歴史を掻い摘んで話していった。


 今から500年前。つまり私の生きていた時代は『革新の時代』もしくは『自動化の時代』と呼ばれているらしい。AIなどの技術が進歩し、自動化が進められていった。確かにそうである。


 だが、およそ460年前。西暦2066年。次の地球に待っていた時代は過酷の始まりだった。『水不足時代』。実際はお世辞にも水不足という優しい時代ではなかった。世界各地で次々と日照り、干害により水不足。戦争が勃発したようだ。


 それを機に世界は大きな転換点を迎える事になる。

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