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祠と祈りの間(2)

「祈ってみてよ」


 言われて俺は、砂に膝をつき、目を閉じて祈ってみる。祈ることは今回も同じだ。


 ……イスメールとパルヴィーンが無事でいますように。


「!?」


 何だ?と思った直後、砂についていた膝から頭のほうに向かって、何かが通り抜けたような感覚がぶわりと体の中を通り抜けた。

 熱いような気もしたし、冷たかったような気もする。

 不快じゃない。心地良いかと聞かれてうなずけるものじゃないけど、嫌なものでもなかった。


 一瞬だけ自分が大きく膨れ上がったような感覚、と表現したらいいのか?

 それは本当に短い時間のことで、すぐに違和感は消えてしまった。


 ……いや、なんだか体が軽くなった?


「この部屋ね、王様と王位継承権の数字が小さい人、あとその奥さん旦那さんしか入れない特別な部屋なんだよ」


 今あったことに首を傾げている俺の横で、ちゃぷりと音がした。うららちゃんが水の中に入っていく。


  ちょろちょろ水の湧く音と、うららちゃんが水中を移動するせいでするちゃぷちゃぷという波音。

 高い天井、石の壁のせいか、とても音が響く。


「お付きの人はね、あの入り口近くで絶対はじかれるの」


 王位継承権……なんてものが俺にもあるということだろうか。いや、俺にもアテル王家の血が流れていたんだった。


「王位継承権てね、遺伝じゃないんだよ」


 へえ、そうだったのか。

 領主はだいたい、親子で引き継がれてる。だから国王ってやつもそうなのかと思ってた。


 うららちゃんはちゃぷちゃぷと水中をけっこう深そうなところまで進む。カピバラってやつは水があったらつい、入っていってしまう生き物なんだろうか?


  クロウェルドの水路周りにはけっこうな数の野生のカピバラがいた。じっくり観察したことはないけど、俺の中ではカピバラには水路の近くでひなたぼっこしているイメージのほうが強い。


「王様は、アテルの精霊であるアタシが選ぶものなの」


 けっこうな深さまでたどり着いた羽を生やしたカピバラはたぷん、と水中に潜った。

 

  カピバラの形が溶けて、少女の姿になる。

 前にも見たことがある、ひらひらとした変わった形の衣装を着た、小柄な少女だ。ふわふわした髪の毛をしていて、顔立ちは比較的、整っているほうだと言えなくもない。


 きゅるん、とした目が印象的だ。


「アテル王国が滅んだのはなんとなくわかったけど、アタシは納得いかない。

 レオリール、あなた、王位継承権一位の資格があるんだから、アタシがアテル王国を取り返すの、協力してよね」

「は!?」


 無理だろ。


 おれの反応は無視して、人間の姿になったうららちゃんはさっさと水から上がり、砂に座り込んだ。指で何かを書き始めている。

 覗いてみると、それは俺を含む七つばかりの名前だった。知っている者の名前もあった。イスメール、データス、ハリエット。


「これは……?」

「王位継承権の表。ホントは王格って言うんだけど、王様にしてもいいよランキング」



  ……イスメールはともかく、データスとハリエットに玉座なんてさせられるか。


 手を止めて、何かを悩んでる感じの女の子がうららちゃんだとすんなり受け入れられるのは、目の前で変身されたからだろう。


  そういえばこの砂、足跡がつかないな。そういった魔法をかけてあるんだろうか。


「イスメールは俺の血族じゃないぞ」

「だから、遺伝じゃないんだって」


 うららちゃんは優雅な仕草で立ち上がった。さっきまでしっかり濡れていたはずの神秘的な衣装はさらりと乾いている。これも、魔法なのか?


「たぶん今のお祈りでレベルもあがっただろうし、経験値稼ぎやすそうな武器をさがしてみよっか」


 人の形を取ったうららちゃんはなんだか、カピバラの時とは違って偉そうな雰囲気で、声をかけにくい。

 話す声も表情も、姿形もまるっきり人間なのに、どこかが俺とは違って見える。


 ……精霊。

 あ、この人は精霊なんだ。長い時を生き、不思議な力を操る高位の存在。


 翻る衣装の裾。動きに合わせて揺れる髪。

  姿勢のよい背中を追って、ここまで来た道を戻り、今度は城内の迷路じみた通路を歩く。このへんはまだ掃除してないあたりだけど、綺麗に人の手が入っているようだった。

 俺じゃないなら、この精霊がしたんだろう。


 武器庫はかなり広く作られていた。ぎっしりとではないがそこそこにあれこれやと武器や防具が保管されている。


「んー、とりあえずは基本で剣……忍耐強くて素直なこ……経験値増加の効果あり……えっと防具は今は考えなくていいんだから……」


 そしてこの部屋も、床が水浸しだ。湿気は大丈夫なのか?

 幸い、俺が閉じ込められていた部屋ほど寒くはないし、この部屋もほこりが積もったりはしていない。


「キュスス。このこなんてどうかな?素直でいいこだよ」


 ぶつぶつと何か言いながら、しばらくあっちこっちの棚をうろうろしていた精霊のうららちゃんが俺に差し出してきたのは、ベオリールよりも少し大きく、重い剣だ。

 どうやら、剣の銘はキュススと言うらしい。

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