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暗い部屋で

 ぴちょん。


 シーン……。


 ぽたん。


 シーン……。


 ここはずいぶんと静かな部屋だ。


 どこかで水滴が落ちる音がしている。

 地下水か、雨水でも漏れ出ているのだろう。そしてその水はすぐそこの床を、さながら泉のようにしているのだ。

 空気はずいぶん冷えていて、ひどく湿度を含んでいる。しっとりと肌にまとわりつくようだ。


 だからきっと、ここに置かれている物の保存状態は悪い。

 幸い、おかしな匂いは鼻に届いて来ない。この場所が衛生的だとはとても思えないが、ほこりっぽさはないし、空気だけは清浄なようだ。


 暗く、静かな部屋の中でレオリールはため息をついた。


 従兄弟たちは今ごろ、喝采をあげているのかもしれない。

 そして、森に連れていかれたイスメールとパルヴィーンは無事なのだろうか。母はああいう人だから、きっと今回も無事だろう。何かの幸運が舞い降りて、レオリールが側近の元にたどり着けたとして、きっと自分と同じように苦境に置かれた彼らの手助けになれるようなことは一切ないのだけれど。


 レオリールは疲れきっていた。そろそろ、空腹や喉の渇き感じ始めている。

 固く封鎖された扉にもたれ、うつむいて唇を噛む。


 その時、視界の隅を茶色い何かが通っていった。


 ……あれは、なんだ?


 扉から数歩進むと短い階段がある。勇気を出して、レオリールは水がたまっているそこに、片足を下した。


 そこまで深くはないようだ。


 なるべく音を立てずに歩きたいけれど、どうもうまくいかない。しゃぷん、ちゃぷん、という音はやけに大きい。


 さっきのあれは何だったのだろう?


 まさかここにモンスターがいるようなことはないだろう。ここに来る途中の廊下を見る限り、この建物はモンスター避けがしっかりできていると感心していたのだから、この部屋もそうであると願いたい。


 だが、空中を移動していた、小さめで丸っこい生き物が何なのか、それだけは確認しておかなければならない。


 天井まで届く高い、背板もついた頑丈な棚がずらりと並んでいて、箱がいくつか置いてある。きっと大したものではないだろうが、浪漫はある。

 あの茶色い生き物を確認したあと見てみよう、とレオリールは一人で頷いた。


 この棚の向こう、壁の突き当たりをおそらく左。


「……っわ!?」


 そっと覗いたつもりだったが、しっかり、レオリールはその生き物と目が合ってしまった。

 小さく、あまりに得体のわからない生き物を目の前に、こいつは危険なのだろうか、と一瞬だけ疑問に思う。

 それからゆっくり空中に浮いたまま、羽を畳んだ丸っこい生き物に自分は観察されているらしいぞ、と認識する。


 自分の行動が軽率だったと今更悔やむのと、どうせここで死ぬのが確定しているのなら、餓死よりも一瞬で済みそうな方法のほうがいいじゃないかとか、足元の水はそういえばそんなに汚くないのだなとか、この生き物は一体何なのだろうかとか、いろいろ考えた。

 剣の柄に、手をかける。


「……ねえ、あなた、名前は?」


 女の子の声を出したそれは、手のひらサイズの、茶色い羽を持ったカピバラに見えた。




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