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フランツ商会の『クラリッサ』(2)

前話の続きなので短いです。

 彼らは旅をしながら接客の作法やモンスターとの関わり方、祈りの重要性を学ぶ。そしてある程度教育が済んだと見なされる頃にソカレリルにある本店に連れていかれ、更に本格的な教育を受ける。フランツ商会の店員や護衛として一通り教育を受けた後はまた旅をするもの、後継の教育に専念するもの、その他とそれぞれだ。


「何人か、かぁ……十人は欲しかったけど」

「レトナーク村の者には窯焼きの技術がありますからね。もう山側に工房が何軒かできていますよ」

「そっか……じゃ、このあとまた本店まで一回戻んないとダメかな……」


 クラリッサは頭の中でこれからの予定を考えつつ、昼食として出された皿から、綺麗な彩りのマリネを選んで一口食べる。


「いちお、募集の張り紙出しといて。えっと明日が特売日で明後日から森に取り掛かかるから……」


 クラリッサがスープに浮かんだ肉入りの団子を口に入れた時、こほん、とジャコモがひとつ、わざとらしい咳払いをした。ジャコモから漂うお説教の空気に気がついて、クラリッサは気まずそうに姿勢を正す。


「クラリッサ様。私が共に旅をしなくなって約半年ですが、ずいぶんと言葉が乱れてらっしゃるようですね?」

「っう……ごめんなさい。つい。楽で。ジャコモだし」

「ほとんど男ばかりをお供での旅で、つい、と言葉が釣られるのはわかります。けれどあなたは我々を統括する立場のうちのおひとりです。共に働き旅をした仲間として打ち解けていただけるのは非常にうれしく思いますが、常日頃相手を敬う所作を身につけておかねば、また、意識せずとも自然に優雅な振る舞いができるよう、日常で慣れておかねばとっさのときに地が出てしまいますよ。接客する窓口の者達だって、上司がその程度であれば戸惑うでしょう?ただでさえあなたは若いのですから。それによくお考えください。あなたは若い女性です。男ばかりのなかでは緩めるのではなく気を張るべきでしょう?いくら我々が」


 クラリッサがジャコモだって若いじゃん、かなり老けこんで見えるけど若いじゃん!という言葉を飲み込んでいると、少し慌てたような、けれどかなり控えめな声が扉の前からかけられた。声をかけてきたのはこの支店に駐在してそろそろ一年になろうかという護衛のひとりだ。


「お楽しみのところ、申し訳ありません」

「楽しんでないからね、パオロ」

「今は上司で後輩の指導をしていただけですから、問題ありません」


 はぁ、とパオロが呆れた顔をしたのは一瞬だけで、すぐに緊張した声を取り戻して三階に来てほしい、と告げた。


 支店長室を施錠してから、三階の見晴らしの良いテラスへ出る。

 小さいけれど町並があり、奥から窯焼きらしい煙が上がっている。あれがレトナーク村の住人達の新しい工房なのだろう。反対側は広場、広場の向こうは柵と半年前から最近にかけて補強した二重の門。その向こうはすらりと背の高い木が茂る森になっていた。


 その、更に、向こう。


「……煙?」


 ぽつり、とクラリッサはつぶやいて、ジャコモを見る。横に立ったジャコモも少し驚いた様子で、わずかに口が開いてしまっている。


「西ウィックトンから煙が上がるなど、私が来てから一度も……」

「俺が来てからも初めてだ。引き継ぎ資料にも、前にこの支店にいたやつらの記憶にもそんなことはあった試しがないらしいです。……どうしますか?」


 西のウィックトンが廃棄されて、もう、三十年はたっていた。今はもう行き来の無くなったあちらがわの住人は、ほとんどが東のウィックトンに、そのほかの住人も他の村や町に移住していて、今は誰もいないはずだ。


「山火事……みたいなものなのかな?」

「いや、広がる様子が全くないんですよ」

「じゃあ、窯焼き?」


 しかし視線を横に動かした窯焼きの煙とは何かが違う、とクラリッサは首を傾げた。

 三人が見ている前で煙は消え、テラスから見下ろした町の住人に、気付いたものはいないらしかった。

 とりあえず、いまは人手もあることだし、と見張りを置くことにして三人は各自仕事を再開することした。つまり、クラリッサはこれから昼食の再開だ。



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