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5、四方封陣

 結界が発動するまで残る御札は残り4枚。

 次の舞台は敷地内から見て裏門側右端。裏門の守備は崩壊し辺りには骨軍団で蠢くこの危険地帯を水原つくし、もといメガネ君の担当する場所であり、彼は護衛と共に向かっていた。


「おい、水原! いつの間にクラスの女子達と仲良くなってるんだよ!!」


「お前、そいつらと電話番号交換したのか?? シてないなら代われ!!」


 悲しきかな今は大事なミッションの途中だ。それにも関わらず横を走る英雄の卵達の会話がコレであるから頭痛さえ起きそうであった。こういう時だからこそ無理にテンション上げたい気持ちもわからないではないが、集中砲火を浴びせられたのではたまったものじゃない。


 メガネ君は眉間をつまみ護衛の横脇に見えるガイコツ兵を地面から噴射させた<水流魔法>で場外へと吹っ飛ばしていく。


「おっ、サンキュー水原!! 流石、生徒会長の弟なことだけはあるな!!」


「こりゃ、女子共はほっとかないわけだ……いや、俺はあの外人やパツキンハーフの子達と仲良くなるまで諦めねぇ!!」


 これだとどちらが護衛か分からなかった。護衛たちの突発的な思い付きで壁際を走って突破する作戦を実行してみてはなかなか手応えあったものの、護衛のお守りをしていたんじゃ笑い話にもならない。


 何事もなくこのまま御札を貼って終了といきたいところだが……後ろからニヤニヤしてついてくるギャルに一番げんなりする。1年D組、北染真紀きたぞめまきが最後にやってくれた。メガネ君の護衛を一番に立候補した彼女が火に油を注ぐ。


「つーかさー水原。あとであーしとも番号交換してよねー。あーしも(メガネ君の魔法に)ちょー興味あるからさー」


「「ふぁーーーっ!? メガネのクセに羨ましいぞこの野郎っ!!」」


「あーもう、やれやれだよ……っ!!」


 僻むなよ童貞諸君。メガネ君のモテ期、到来っ!!





☆――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





 何はともあれ残る御札は3枚。

 リアの担当場所―――敷地内から見て裏門左端―――も問題なくミッションを遂行するだろう。明らかにFクラス以上のポテンシャルでガイコツ兵を灰へと変えていく。立ち向かってくるガイコツ兵を的確に処理していく。いったいどれぐらいの骨を土へ還しただろうか。


 もう既にA組の剣崎の討伐した骨を越えただろう。スマホを取り出しリアの討伐数を確認すれば<討伐数164体>と表示されていた。ふと、京のも確認すれば<討伐数108>とリアに抜かれていた。


 ガイコツ兵たちヤケになり、リアのみを包囲した。もう他の生徒などアウト・オブ・眼中みたいだ。しかし、束になっても敵わない。骨たちは吹き飛んだ。まるで雑魚を蹴散らすかのように。まるで無双ゲームのようにガイコツ兵が消滅していく……


 彼女は止まらない。もう誰も彼女の記録を止めることはできない。雷鳴魔法を放てば歓声すら上がる。閃光が迸ればキャーキャー黄色い悲鳴が鳴り止まない。戦場の一角がまた輝いた。誰もが魅了された。


 あぁ、なんて美しいのだろうか。あぁ、あれは戦場の女神が勝利をもたらす希望の光なのだ。


「リア!! 今の凄かったね!!」


「ねーねーどうやったらそんな魔法使えるようになるのー?」


「いやちょっとまだミッションの途中だから、後で! ね!!」


 リアに群がる女子たち……。


「素敵だったわよ、落垣さん///」


「惚れた。君になら抱かれてもいい///」


「リアお姉さま……ぽっ///」


「あ、やばい、またこのパターンか……っ!?」


 それは初めからわかっていた。





☆――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





 残り2枚……

 敷地内から見て正門右側。衣鶴は戦場で倒れていた。


「これでオマエ1人だけなんだなー」


「うぅ……みんな、ごめん……………」


 当然だ。例外を除いてこれが本来F組のあるべき姿である。

 リア達がどこか特殊で、だけど衣鶴は皆に置いてかれないないように必死について行きたかった。ゲームで培った経験を少しでも活かしてモグリーズのメンバーとして頑張りたかった。


 だが、ここまでだった。


 自分には護衛の彼らをまとめるだけの技量もなければ、寧ろ皆を混乱させただけだった。即席チームが上手く機能しなかったのも自分が的確な指示を出せなかったからだろう。何故、事前に彼らの得意な魔法を把握しなかったのか。有限ある時間に気を取られ焦って彼らの不得意な分野を知ろうともしなかった。ゲームと違って長考もできず、とっさな判断を下せなかった。なにより運が悪かった。


 喋るサイのガイコツ<R>のザウルスが衣鶴のグループを強襲して壊滅していたから。彼らを助けようとした他の生徒たちも犠牲にして。先ほどメガネ君と乳繰り合ったC組の女子も奮闘したが、倒れる衣鶴の目の前で頭を踏み潰された。

 残るは衣鶴1人だけになってしまった……


「あぁ、ああ…………」


 仲間の死を目の辺りにして衣鶴は泣いた。


「オマエ、ここに何しにきたんだなー? 泣いてお漏らししに来ただけなのかー??」


「「「「「HAHAHAっ!!」」」」」


「あうぅぅううう……っ!!」


 ガイコツ達に嘲笑れ泣いた。恥と屈辱で泣いた。情けない自分に泣いた。弱い自分に泣いた。何もできなかった己に泣いた。何故、今日まで何もしてこなかったのだろうかと後悔して泣いた。


 素人は魔法に触れる機会もなく、魔導書など一般家庭に置いてあるはずもなく、簡単な<火球魔法ファイアボール>すら詠唱に失敗したとしても、他にやることはいくらでもあったはずだ。基礎トレーニングさえしてこなかった。魔法学園へ通ってから努力すればいいと考えていたから、だから衣鶴は何もしてこなかった。


 一般素人以上、しかし普通未満。

 ほんの少しだけ魔法師としての才能があっただけだ。それだけでダメ元で入学試験を受けた。記念受験というやつだ。それで奇跡の合格をしたのだから勘違いもした。自分は他の素人とは違う。何かが己の中に眠っている。魔法という才能があるという思い違いをした。

 その結果がこれだ。


「バイバイなんだなー、弱虫~~~」


「うぅ………」


 ザウルスがトドメを差そうと前足を上げ衣鶴の頭部に狙いを定めた。衣鶴はもう抵抗もしない。死を目前にして死を受け入れた。

 英雄には憧れていた。いつか自分も英雄になれたらいいなー程度に想いはあった。でも、悟った。今の自分に英雄になる資格などない……だから、衣鶴は死ぬ直前まで泣いているだけだった。


「うぐっ………っ!?」


「………」


 鈍い音が鳴った。それは衣鶴本人から発した音ではないのだと気付いたのは1分ぐらい経過してからだろうか。衣鶴はまだ泣いていた。一向に来ない死と息苦しくもまだ生かされている事実に彼女は混乱していた。


「ねぇ、なんで……?」


 衣鶴はさらに泣いた。可愛らしい顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにして泣いた。


「私のせいで皆が死んじゃった……私のせいで作戦がつぶれちゃった……私は……私はみんなの足手まといでしかないんだよ。私なんか、ここで見捨てればよかったじゃん……」


 衣鶴の結論はここまでに至った。F組が行き着く模範解答だ。自分の役割も全うできず誰かの手を煩わせた。その者には最後の仕上げのため屋敷に強襲をかけたはずだった。最も難易度の高いミッションを遂行しなければならなかった。

 だから、衣鶴は訊ねた。ザウルスをワンパンで吹っ飛ばし自分を助けてくれた仲間に訊ねた。


「なんで京がここに? なんで……なんで、私なんか助けたの?」


「衣鶴がピンチになってたんは屋敷の中から見えてん。やから、ほっておけんくてな……ウチら友達やん? 助けるんは当たり前やろ??」


 当たり前なこと何言わすねん、と言いたげな京。


「でも、私がいたら迷惑なだけ、だよ…………」


 犠牲を出しすぎた。友達に守られ何もできない己に価値はない。そんな自分に一体何ができる? 自分が死んでも誰も悲しまないんじゃないかと思っている衣鶴であったが京はそんなことないと慰めた。その言葉がより衣鶴を惨めにさせる。死んだ方が楽になれる。

 しかし、京は衣鶴を甘やかさなかった。


「衣鶴、ウチが一番キライなんはここで命を投げ出す奴や。死んで楽する奴が一番腹立つねん」


「………」


「確かに何もできへんかったら辛いやろな。悔しいやろ。でも、生きやなアカン。死んで逝ったもんの分も、強く生きていかなアカンねん」


「でも、私には何もないんだよ……私がいても役に立てっこないよ…………どうせ、ここで生き延びても生き残れる自信なんて…………」


「かもしれへんな」


「だったら……」


「やから、ウチらを頼りーや。さっきも言うたけど、それが友達ってもんやろ?」


 涙と鼻水をぐしゃぐしゃにした顔で驚く衣鶴。眩しすぎて直視できない笑顔が近くにあった。


「ウチらがおるのに頼らんとかホンマ怒るで?」


「でも、でもっ……」


「デモもストライキもちゃうで、衣鶴。このゲーム、裏切りもんの狙いがまだわからんけど、一緒にゲームクリアしよーや。衣鶴のゲームの知識も必要やで。それに、たぶん経験値いっぱい貰えるやろうし、そん頃には衣鶴もめっちゃレベルアップしてんとちゃうか? そんで一緒にクリアしてA組やB組のナメた連中にギャフンと言わせたろうやんか」


「京ぉ……」


「衣鶴、レベル上げなら付き合ったるで」


「うん…………っ!!」


 衣鶴は立ち上がった。もう彼女は泣いたらいいのか驚いたらいいのか分からない顔のまま戦いの炎を再び灯した。尚、衣鶴が嬉ションしても笑っていられる京も流石であるがな。


「助けてくれて、ありがとう。京」


「ええって、友達やんか。それよか、あんのサイみたいなガイコツ固いなー。一撃で仕留めきれんかったわー」


「え。まだ、生きてるの……??」


「アレくらいで倒されるオイラではないんだなー。オイラの骨は戦車の装甲より分厚いんだなー」


 京に吹っ飛ばされたザウルスが起き上がる。亀裂の入った骨は砕け、その下から新たな骨が生え換わっていた。以前よりも分厚く丈夫に頑丈に、そしてバチバチを身体を閃光させていく。あぁ、ザウルスの得意分野はリアと同じく雷撃魔法だ。

 

「いや、自分ヤル気まんまんな所悪いけど、勝負はもうついとるで」


 掌をザウルスに向け待てのポーズをする京。


「何を言っているんだな?」


「京、どういう意味なの……??」


「衣鶴、ちょっと御札貸してんか?」


「う、うん、はい……」


「オイラを無視するなー!! オマエ達もボサっとするなー!! やれーーーー!!」


 意味ありげな言葉を放った京は衣鶴から御札を借りた。ザウルスやガイコツ兵が一斉に襲いかかってくるがスルーして……


「ここらへんで十分、これでウチらの勝ちや」


 京はその場にしゃがんで地面に御札を貼った。


「え、でも屋敷がまだ……っ!!」


「大丈夫や、衣鶴。ウチらにはとっておきの隠し玉がいるやろ?」


「まさか……っ!!?」


「そう、そのまさかや」


 ニヤリと京が笑い数秒後、屋敷全域に悪しき者を浄化する閃光が迸った。





☆――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





 御札は残る1枚。舞台は屋敷の食堂―――。


「はぁ……はぁ………」


「はぁ……はぁ………」


 2人の息遣いだけが聞こえる。

 まるで屋敷の外の喧騒もなかったかのように2人だけの荒い息遣いだけでこの空間を支配していた。


 2人は長テーブルの上にあった食器やテーブルクロスを床にぶち撒け、テーブルの上に乗っかっていた。1人は横倒れになり制服のスカートが捲れて艶めまかしい素脚が覗いていた。それをもう1人が、否、1体のガイコツが見下ろす形で立っている。少女の方は荒い息遣いが妙に色っぽくて喘いでいるようにも見えなくもないが、実際はガイコツに吹っ飛ばされてダウンしたのであった。


 ネロという名の<SRスーパーレア>の魔剣士が屋敷内で逃げ回る少女を追いかけ追い詰め、ついにチェックメイトを果たすのであった。


「何故だ?」


 が、その前に問いたださなければならないことができた。


「何故なんだ?? 何故、お嬢ちゃんはパンツを履いていないんだ……??」


 一歩踏み出し少女にトドメを差そうとして、できなかった。ネロは見てしまったのだ。奴が下着を身につけていなかったことを。乙女のつるつるのソレを、見ちゃいけないものを見てしまった。セクハラで訴えられるかもしれない。


 そして、訊ねてしまったからには後には引けない。この勝負、真剣勝負をしていたと思うなら尚更目を瞑ってはいけなかった。


「何故って、とっつぁん……これは別に謎でもなんでもねーっすよ。クエスト始まる前にお花摘んでたからスタートに出遅れただけだーい。慌てて履き忘れたことは皆には内緒にしてくだせー」


「ちっ、冗談じゃねー。オレっちはこんなノーパン小娘に手こずっていたっていうのか!?」


 少女は隠し持っていた小太刀で<SR>ガイコツ剣士・ネロと応戦していた。魔法も使わずネロの二刀流を捌くのだから只者じゃないだろう。ネロとて素人ではない。年も経験も浅いノーパン小娘に遅れを取るわけがなかったが……プライドは傷つけられただろう。


 そして、ネロは後悔した。チェックメイトを取られていたのはこっち側だったいうことを思い知らされる。


「じゃーさ、こういうのはお互い墓場まで持っていくってことで、一つ。りーべーすいへーぼくのふねーななまがりしっぷのくらーくかっですぜー」


「いや、ちょっと何言っているかわかんねーごばばばばbbbbbb!??」


 何かがネロの身体に何かが侵入していく。何かがネロの骨だけの胴体に亀裂を生み出していく。脚から徐々に上へ目指して駆け上がり、その原因が少女の手によってテーブルに貼られた御札ということに気付くのが遅すぎた。まさか、あんなデタラメな詠唱で何か・・を発動させるとは思いもよらなかった。


「な、にを……まさか、陰陽術……っ!?」


「さっき若からメールあってですねー。若の代わりに最後の仕上げをしなくちゃならなくなって超絶たいへんでしたよー。ぷんぷん」


「まさか……まざが……オレッぢどヤりながら……!?」


「だから言ってるじゃないっすかー。とっつぁんの相手しながら他の4人の位置も把握して、最終的な座標を計算して大体この辺かと割り出したらビンゴってことでさー……」


 だから、屋敷内を逃げて回っていたのだ。戦うのではなく逃走を選んだ少女。誰も知らない逃走劇の全てはここに収束されていた。灰になっていくネロは武者震いをした。久しい強敵に巡り会えたのだから。


「おもしれー、勝ち逃げなんか絶対させねーぞ。お嬢ちゃん……」


「ありゃりゃ、まだ次があるんですかーい?」


「敵に情報の漏洩はサイテーだがこりゃゲームだからオメエさん達の勝利報酬に言ってやるよ……コレはあくまで威力偵察みたいなもんだな…………次は…………………オレっちもオメエさんと本気で殺し合いできることを楽しみにしてるぜー」


「うへー」


 顔だけのネロはフッと笑った。


「お嬢ちゃん、最後にオメエさんの名前を聞かせてくれないか……?」


「とっつぁん、それは次の勝負の時までおあずけってことで。こちとらまだ若に名乗るなと釘さされてるんですぜー……」


「ふっ、だったらそれまで死ぬんじゃねーぞ……」


「一応これでも妖怪退治屋の端くれでぇーす☆そう易々とくたばりませんしー」


 あ、ケータイかけながらは戦闘できませんけど、と名を語らない少女はウインクして、2人は笑いあった。わっはっはっはーとノーパン少女と顔だけガイコツが笑い合い、


「つーか早く逝け!」


「あだーっ!?」


 少女が最後にトドメを差してミッションコンプリートだ。屋敷内にいるガイコツ兵も屋敷の敷地にいる全ての骨が昇華され灰となった。

 スマホを確認すれば生存者の表示が更新されていた。

 生存者:152/245名。





☆――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 ああ、違った。生存者はまた更新される。

 A組とB組が全滅して、残る生徒は75/245名。<特別授業クエスト>はまだ始まったばかりだ。

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