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3、英雄の卵たち

「おい、裏門の守備はどうなってるんだ!?」


「駄目だ! クラスの大半が殺られた!」


「裏門の守備もできないのかよ! E組は!!」


「うるせーD組! お前らでも無理だっつーの!!」


「サ、サイだ! 皆、ガイコツのサイに気をつけろ! アプリの魔法じゃ倒せないぞ……っ!!」


「はぁ、サイだぁ? どこにいるんだよ、そんなガイコツ。E組の奴ら、ついに頭おかしくなったんじゃねーの? おい剣崎、あんな連中に任せるんじゃなかったな……作戦もこのままじゃマズいっしょ?」


「ふっ、実力の無い彼らは遅かれ早かれこうなる運命だった。なら、犠牲になる彼らはその評価に値する役割を与えてやれば見事それ相応の働きをしてくれた、ただそれだけの話しで何も問題はないよ」


「これも想定内かよ。いや、むしろ戦況を悪化させた方がこっちとして都合がいいのか……えげつないねー」


「そんなことはないさ。渦中にはあの旧家・・がいるからね。その実力に信用たるからこそ、この作戦も実行できるってものさ」


「ふーん……木船つったか?あの女……妖怪退治屋とも言ってたな。かなり使えるのか?」


「ここでは敵に回したくないが味方にもしたくない女と言っておこうか」


「なんだそりゃ?」


「僕は負けず嫌いなんだ、ライバルと思っている者には負けたくないと思うのが当然だろ?」


「ほほーん」


「それより少し急ごう。作戦が旧家に感づかれてるみたいだ。妨害されるかもしれない」


「マジで?ならとっとと始めちまおうぜー!! ミンチィ伯爵の屋敷脱出大作戦をなぁっ!!」


 人は彼らのことを<英雄の卵>と呼ぶ。

 英雄が通っていた学園の生徒だからという理由で、たったそれだけで聖都魔法学園に通う生徒は誰もがブランド品になり、いろんな人達から注目を集めることになる。どの大学もどの企業も、又はどこかの国さえも他校より彼らのようなブランド品を欲しがるのだ。


 世間が彼らに求める期待値は計りしえない。


 A組からF組まである6クラスは云わばランク分けされているようなものであり、A組=Aランクの卵としての価値があり、F組であればFランクの卵としての価値しかない。Aランクで卒業すれば大手企業の内定も貰えるだろうし、さらに質の高い<英雄の卵>なら各国の重役にもスカウトされることもあるそうだ。


 逆にFランクであれば良くて中小企業が限界だろうか。最悪は落ちぶれた<腐りかけの英雄卵>はどこぞの組織に拾われどうなるものか知ったものではない。まあ、Fランクの生徒に限った話しではないがな。


 1年生は入学試験の学科・実技の総合成績でクラス分けをされるからまだ将来性があるものの、この1年間の己の成績次第でA~Fまでの総合成績は変わり世間の期待値も変わっていくだろう。かわいそうなのは、追い詰められた3年F組だ。もうランクが上がることがない。


 もちろん、それが全てじゃない。例外もある。Fランクの卵としてじゃなく晩熟型将来性有りと内面性まで考慮してくれる物好きな社長だっているのだ。まぁ、そこが大手ブラック企業・ハロー社だという噂はさて置いて。

 彼らはまだ知らない。この<特別授業クエスト>を観ている者たちの期待値を……


「おい剣崎、B組はいつでもオッケーだ!」


「あぁ、A組も準備万端さ」


 1年A組、剣崎恭介けんざききょうすけ

 右手に持つ燃えるような日本刀で敵を灰に変え、左手に持つ銃から放たれた炎の弾丸が敵を蜂の巣にしていく。燃えるような赤髪が特徴なイケメンは一見、彼が主人公なのではと疑いたくなってしまうオーラさえ醸し出していた。


「はぁあああああああああああ!!」


「これで100体目だ! 流石は我らの剣崎!!」


「きゃー剣崎くん!! カッコいい!! こっち向いてー!!」


「男なのに惚れてしまいそうだわん!!」


「小山の犠牲を無駄にするな! 僕に続けーーー!!」


「「「「「おぉーーーっ!!」」」」」


 リストによれば学年主席で警察トップの息子だとか。実力も折り紙付きで非の打ち所もないようなエリートの中のエリート。しかも、〈騎士〉の称号持ちとは……絶対的な力がある故に彼の号令によってA組の士気が高い。


「よっしゃー、A組の後に続けー!! 俺たちの戦いは始まったばかりだー!!」


「「「「「おおーーーっ!!」」」」」


 剣崎の横で吼えていたのは1年B組の荒川俊介あらかわしゅんすけ

 実力はAクラスに引けを取らず、ただちょっと学科のテストで良い点を取れなかっただけでB組になってしまった見た目がチャライだけのリア充。彼は喧嘩馴れしているのか戦闘だけならそこらのAクラスより上だろう。風と土属性の魔法を操り銃を撃つポーズから空弾と実弾を発射させ私の可愛い骨たちを吹っ飛ばしていく。


 やはりA組とB組は他のクラスに比べてデキる生徒が多いようだ。犠牲も最小限に抑えて、こうやすやすと計画を実行されるとちょっとムカつく。


「木船さん!! A組とB組が動き始めた……っ!!」


 1年F組、水原みずはらつくし―――あだ名:メガネ君。

 彼は、名前はあれだが正真正銘の健全な童貞野郎だ。彼の唯一の取り柄と云えば3年A組に生徒会長のお姉さんがいるということだろうか。否、それは取り柄と言わないがな。


 そんな彼は運よく京と一緒に行動しているようで、剣崎たちの動きを察知したようだ。


「そやなー。B組と何やら怪しげな行動取ってたからなー」


「知っていたんだ!?」


「まーな、ほらアレ見てみ~。剣崎のお坊ちゃんが動けば戦局は変わるで」


「なっ、壁を壊して脱出するつもりだ!?」


「あのボンボンが考えそうな手やわ」


 剣崎が屋敷を囲う外壁を一刀両断に焼き斬っては2クラスを率いて強行突破に出たようだ。京の言う怪しい動きとは屋敷の外のどの場所が一番手薄かを調べていたことだろう。剣崎は見事それを見破ったわけだ。


 尚、彼らの後を追おう出遅れた他のクラスは新たにできた骨の包囲網に掴まってしまった。


「笑っている場合じゃないよ、木船さん! A組とB組がここから離れたら……!!」


「まーアレやな。成績優秀なA組とB組だけのエリート集団でゲームクリアするつもりなんやろ。なんにしても成績の悪いウチらを囮にして、さっさと町へ向かうのが得策やろと思ったんちゃうか?」


「そ、そんな……っ!!」


 これも一つの手だ。しかし、それは悪手である。京はそこんとこ分かっているようで安心した。


「なー、それよりメガネ君。なんで自分F組なん?」


「なんでって……そりゃ僕の実力がその程度だったってことさ」


「ふーん、でもその割りに器用やんな」


「そ、そんなこと、今はどうだっていいだろ?ほっといてくれよ・・・」


 京は純粋に思った。メガネ君の魔法は丁寧に構築されていた。なかなかできる繊細さじゃないらしい。水流魔法で敵を押し流し、氷結魔法で骨軍団の氷像を作る。


 まさに氷と屍のアートだ。


 京は純粋に興味をもった。綺麗だな、と……


「なーメガネ君。コレ現実世界へ持って帰られへんやろか? 一儲けできんで」


「はあっ!?」


 今は戦乱の真っ只中で緊急事態だ。


「ほらほら、余所見してると危ないよ~!!」


 といって間を割って入って跳躍してきたC組の女子。強化魔法で身体を一時的に向上させ超人並みのジャンプ力を披露していた。バレーのスパイクの要領で空気の魔弾をアタックした。下にいる無数のガイコツ兵の中心地に着弾し爆発した。威力は他の生徒を巻き込まない間一髪スレスレであった。


「とう……っ!!」


「って、なんで僕に突っ込んでくるんだー!?」


 そして、見事にメガネ君に着地したのである。ラッキースケベは女子の谷間に顔が埋もれるのであった。


「あいたた……だから言ったじゃないか~。危ないよ~って」


「いや、着地のことも考えてジャンプしてよ!」


「はいはい、そこまでや自分ら。乳繰り合うのは勝手やけど、それは戦いが終わってからにしーや」


「誰もそんなことしてない!!」


「ん??父、栗に会う……??」


 京は2人の手を取り立ち上がらせた。女子はなんのことやらわかっていない様子だが暢気なものだ。ちなみに、メガネ君はあの事故のあのもっちりした感触を忘れないだろう。鼻血が出ていた。


 慌てて拭うが京に見られた。ニヤリと笑う京にたじろぐメガネ君。


「な、なんだよ、もう……」


「自分、なかなかのスケベやな」


「………っ!!」


 顔が赤くなるのがわかった。


「ちょっとそこのメガネぇー、ちょー邪魔なんですけどー!」


 そして、また悪い予感にメガネ君は声のする方へ振り返るのであったがもう遅い。


「つーか、ボケっと突っ立ってないで助けろし!! って、きゃあ!?」


「おわっ!??」


 ガイコツ兵に追われていたJKギャルがメガネ君に突っ込んできた。メガネ君はとっさのことで対処できず、またしくもラッキースケベを勝ち取るのであった。


「凄いやん、メガネ君!! 今度は股に挟まれてこりゃ童貞卒業も近いで!! 戦場の出会いは突然にってな……っ!!」


「全然上手くないし不幸だよチクショウ!!」


「このメガネ、あーしの股に顔突っ込んでおいてちょー失礼なんですけどー……」


 この後、もれなくメガネ君はJKギャルに張り手されたり、名誉挽回のために氷と屍アートをプレゼントしようとしてちょーウケられたり……こうやって戦闘中も周囲を観察すると、この短期間で彼らは奇妙な関係を作りつつあるようだ。


 その中でも要注意しなければならないのが、必死にガイコツ兵を迎撃するメガネ君を他所に1人戦闘を楽しんでいるふうな京。やはり他の生徒より一つ飛びぬけて強い。彼女はまだ一度として魔法も使わず、グーパンチで敵を倒している。Aクラスの生徒にも真似できない荒業だ。妖怪退治屋であれば陰陽術も使うだろうに、それすら使わない。いや、グーパンチが陰陽術の何かなら納得するのだが。


 何故彼女がF組にいるのか、誰もが疑問に思うこと間違いないだろう。

 このクエストを計画する段階で小太郎様に新入生リストを見させてもらっていたが、あのデータの半分はアテにならないことがわかった。

 例外中も例外……

 1年F組、木船京きふねみやこは間違いなくAクラスの実力をもっていて一番の要注意人物だ。

 だが、要注意人物はまだいる。


「リア、言いそびれましたが、先ほどは助けてくれてありがとうなのですよ」


「私も。助けてくれてありがとう、将軍様……っ!!」


「どういたしましてって言ってる場合じゃないわね!! 今度はアタシの番か!? えぇーい、戦闘中にしがみついてくんじゃないわよ2人とも!!」


 1年F組、落垣おちがきリア。

 ファンタジー少女漫画に出てきそうな私イチ押しの<英雄の卵>。悪を斬り捨て弱者を守り、手を差し伸べて微笑むその姿はまさに戦場の女神・ヴァルキリー。

 英雄も雷系統の魔法が得意だったように、彼女自身オンラインゲームで使っていた林檎将軍の必殺<雷撃の剣>で私の可愛い骨を葬っていくのだけど、正直そんなことはどうでもいい。


 あぁ、リアの良いニオイがする。戦いで火照った身体は、脇の下の汗すらも愛らしくも感謝の意を込めてハグと見せかけて、存分にも清らかな乙女を堪能しようとしたら拳骨が脳天に直撃した。


「次、ふざけたらコレするわよ?」


「「すみませんでした、もうしません真面目にやります……」」


「それでよろしい」


 危うく女神に殺されかけてゲームオーバーになるところだった。ビリビリは流石にヤバイ。


「アンタら2人放っておけないわ。アタシ達は3人1組で行動するわよ?それでオッケー??」


「「オ、オッケ~イ♪」」


「………」


 どうやら返事に真面目さが足りなかったようだ。どこぞの女性タレントのように口元にオッケーサインのポーズを取るもんじゃなかった。リアのジト目に視線を逸らす私と衣鶴。別にふざけたわけではないのだが。


「私も自分の力で戦えるぐらい魔法が使えたらなー……」


「衣鶴……」


 1年F組、白矢衣鶴しらやいづる

 彼女は15年間の今日まで魔法を使えたことがなく奇跡的入学合格を果たした素人オブ素人だ。入学試験は駄目元だったらしい、しかし、彼女に僅かな才能があったからこそ入学できたのだ。


 今日は無理でも明日から今日の教訓と悔しさを糧に頑張ればいいが、もしリアルの殺し合いなら後悔すらできなかっただろう。そんな後悔を衣鶴を成長させたら、と敵ながら感傷的になる資格は私にはあるのだろうか。

 私が彼女に何か声をかけることは許されないはずだ。


「ところで、もう一つ確認したいことがあるのですよ、リア。屋敷にいた弓兵をやっつけたのは貴女ですか?」


「いいえ、知らないわよ。そんなのもいたんだ?」


「はい。私はそれに気付いて衣鶴を守ろうとして……」


「姫も私を守ろうとしてくれたんだよね。ありがとね」


「いえいえ、こんなのは礼には及びませんよ。それに礼を言うべき相手は他にいるようですから」


 2人の好感度を上げつつもう一度、屋敷を見上げる。

 この戦乱の最中に<N>ドクロ・アーチャーの存在に気がついた者がいる。そこが問題だ。アーチャーが出現して矢を構え、デッドゾーンに入ってきた生徒を狙うまで30秒ほどしかまだ時間は経っていなかったはずだ。この戦渦に誰が屋敷にいるアーチャーに攻撃できるというのだろうか。


 私の中には京の存在が大きい。他にも主力がいる中でもあの妖怪退治屋がネックではあるが……もし、別の生徒の仕業だとしたら一体誰が。


 常に最悪の事態を想定しなければならない。

 もし、仮にだがクエストが開始するよりも前に、初めから屋敷の屋上で待機している生徒がいたとしたら?屋上を見上げる不自然な私の動作を見られていたら……そいつが誰なのか見極めて必ず始末しなくちゃならない。


「リア、衣鶴。モグリーズのリーダーとして一つ提案があるのです」


「それは何よ?」


「何かな、姫様?」


「やはり、屋敷を奪還した方がよさげかと。A組とB組が抜けた今、ケムルズの町へ向かうにも皆さんが一丸となって作戦を立てなければなりません」


「それは一理あるわね。なんだ、アンタやっとそれらしくなってきたじゃない」


「ふふん、知将モグリ姫の時代がやっときたのです!」


「知将じゃなく痴女の間違いじゃ……」


 よーし、衣鶴の身包みを今ここで引き剥がそうか、という冗談はさて置いて。


「でも、私たちだけで攻略できるミッションじゃないよ?姫」


「なら、ウチが手を貸すやん」


「「「京っ!!」」」


 これは願ってもない助っ人だ。ついでにメガネ君もついてきた。ふふっ、もしかしたら2人はいいコンビになれるかもしれない。


「ウチらF組が大活躍したら他のクラスの連中きっと悔しがるやろなー。くっくっく……」


「はあ、京がこういう性格なのはもうわかっていたのですよ」


「まぁ、アタシらを見捨てたA組B組においしいところ全部持っていかれるのは癪だわ。ここで一発大きめの点数いただかないとね」


「なんだかんだ私達って良いチームになれそうだよね?こういう青春も悪くないよ」


 お互い右手を前に出して重ね合わせた。


「あ、メガネ君も輪の中に入るのですよ」


 心を重ねた。衣鶴の言うとおり、これが青春なのだろう。


「君たちは本当に呑気だな!? 僕はいいよ!!」


「何遠慮してんのよ? 時間ないから早く来なさい!」


「メガネ君は童貞が爆発せーへんか心配なだけやで」


 たとえそれが偽りだとしても今はそれでいい。


「童貞は爆発しないと思うけど……」


「だ、誰が……っ!!」


 そういうことにしておこう。クエストが終われば夢から覚める。


「あーもうわかったよ!! 皆、気張っていこ~!! えいえいおー!!」


「って、それ! 私のセリフですから!! 勝手においしいところ取らないでくださいまし!!」


「ぶへーっ!?」


「あ、メガネ飛んだ……」


 もう二度と彼らとこの青春は味わえないだろうから。

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