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1、新入生の皆さん

 聖暦2019年4月9日AM8:30―――――――


『新入生の諸君、入学おめでとう。ようこそ我が聖都魔法学園へ!』


「「「「………」」」」


 入学式の翌日。

 在校生が新入生へサプライズを用意して新入生歓迎会を開催するというのはよくある話し。先輩風を吹かせたい出しゃばりな彼はスマホの画面越しに語りかけてきた。


 そんな上級生の一個人によるサプライズ映像は明らかに新入生たちを戸惑わせること待ったなし。はた迷惑もいいところだろう。まず、我が学園って言っちゃってるが誰も彼にツッコミを入れることはない。たとえ「私たち2年生3年生は、皆さんのご入学を待ち望んでいました~」とか言われて困る一方である。


 何故なら、彼によって新入生総勢245名はある古い洋風な屋敷に拉致されたのだから。


『今、諸君らはどのような気持ちだろうか? 新しいことへの期待と不安で胸がいっぱいなのかもしれない。俺様も最初はそうだった。でも不安な気持ちは次第に消えていくんもんだ。それは何故か……』


 何故もへったくれもないのが彼らの心境だ。

 叩き割りたくなるスマホの画面をじっと我慢して、屋敷限定の開放されたエリア内にて―――広間(玄関ホール)、応接間、居間、食堂、厨房、寝室、遊戯室、図書室、廊下、便所、バルコニー、庭園等――――彼らは自由に、しかしそれより外には出られない状況下で誘拐犯の話しの続きに耳を傾けた。


 授業をサボりたい生徒なら暇つぶしに丁度いいかもしれないが、英雄がいた学園で学べる機会を一時でも奪われた彼らにとって最悪の事態である。


『それは親身になって指導するセンコー、優しくアドバイスをするデカパイ先輩、そして一緒に入学したダチの存在があったからだー。

 なので、諸君らも大丈夫だ。悩み事があっても、一人で悩まず、まず周りのクラスメートにでも相談してみようじゃないか。諸君らの力になってくれる奴だって探せばきっといるはずだ。委員長肌の子がいれば安心だ。

 そして、俺様は上級生として諸君らをしっかり支えていきたいと思っている。だから、こうやって諸君らを屋敷に招待してあげたりもサプライズを用意してやったワケなのさ』


 たぶん、新入生を歓迎するテンプレな言葉を並べても彼らの不安が拭えることはないだろう。

 画面越しの先輩はヘンテコな悪魔のお面を被っていて素顔を隠していた。どこか会社のオフィスと思しきデスクに両肘を付き、両手を口の前で組むその姿はまさしくふざけた悪魔と呼ぶに相応しいだろう。


 誘拐犯という役作りにこだわり、しかし、あくまで魔法学園の在校生で制服姿である。あまりにもバカバカしいがそれも彼の魅力だとフォローするべきだろうか。


 彼の名前は波浪小太郎はろうこたろう


 聖都魔法学園へ通う3年生にして、世界中の子供たちへ笑顔を届ける魔法細工のオモチャメーカー:ハロー社の若社長であり、そして、私が依頼して彼らを誘拐してもらった共犯者である。


 ちなみに、彼の横にはちょこんとちんまいロリっ子(3年生)が素顔をさらけ出してゲームしているシュールな絵になっているから尚更バカらしい。


『諸君らは俺様のこのサプライズをはた迷惑、理不尽、ふざけるな、もうホント死ねyoうんこカスと思ったかもしれない。今、憤りを感じ殺意すら芽生えたかもしれない。

 いいぜ、テロも暗殺もウエルカムだ。

 しかしだ、俺様から言わせれば世の中ってこんなもんだぜ? まして英雄の通っていた名誉ある魔法学園の生徒は、他の連中よりも箔があり価値があり、云わば英雄の卵っていうブランドだ。

 諸君らはそれをちゃんと自覚していたのだろうか。のほほんと寝ている間にどこかの誰かさんに拉致られ、どこぞの組織の被験者モルモットになっても知らないぜって話しだ……

 よかったな、今回拉致されたのが俺様で。教訓になったろ?』


 先輩からのありがたいアドバイスというべきか……それとも、やはり理不尽だと捉えるべきか。

 まず、入学式初日に誰が大胆に新入生を誘拐する犯罪者バカがいるだろうか。誰も彼もがそう思うのだが、英雄がいた学園だから安全だという認識が間違いだと気づいたことだろう。


 何はともあれ、誘拐犯は彼らにアドバイスをするために誘拐した間抜けな話しでもない。


『さて、拉致された諸君らにはこれから<特別授業クエスト>をしてもらう。それが俺様である誘拐犯からの要求で命令だ。拒否権はなく、まーアレだ……新入生歓迎会のオリエンテーションだと思って楽しんでいってくれ』


 彼は懐からスマホとゲームソフトのパッケージを取り出した。

 彼が制作した<MOGU×HIME>という魔道列車内でも話題にしていた人気のゲームだ。


 コタツに潜る姫、民家の屋根裏に潜る姫、路上の溝に潜る姫、ダンジョンに潜る姫、ゴブリンの巣穴に潜る姫、魔界へ潜る姫、魔王の城の酒蔵に潜んでいる伝説の姫など、ワールドマップのいたる所に潜む個性豊かな姫様を探してボコって仲間にしてその中からパーティに一人選んでは連れて行き、他のプレイヤー達と協力してクエストに挑戦するアホみたいに売れたゲームだ。


 スマホ版もあり、インストールしている生徒も沢山いることだろう。


『ははっ、いや、お前らはこれから姫様を探すゲームをするわけじゃねーぜ?』


 といってもあながち間違っていないだろう。全て的を得ている。

 しかし、説明めんどくさくなってきたのだろうか。


 地が出てますけど? 先輩。


『お前らが探すのは姫様でなく……お前らの中に紛れ込んだ裏切り者だ』


 裏切り者―――共犯者、協力者、首謀者、真犯人、黒幕など思い浮かぶ中、裏切り者とは言い得て妙なり。同じ新入生の彼らを騙し身分を偽り悪魔に売り渡したのだから裏切り者といえるだろう。


 そう、彼らは何も知らず知らされず強制的にこのゲームに参加させられ私のために犠牲になるのだ。


『まずクエストの説明する前にココがどこかわかるか?』


 ここがどこか山奥にある屋敷だとしか彼らは知らない。


『不倫騒動が国家問題にまで発展した事件で国から追放されたミンチィ伯爵の屋敷と云えば理解できる者もいるだろう。お前らは今、ダレズゴア王国の端も端、辺境の地へいることを理解してくれ』


 ざわめき、どよめく新入生諸君。知る者は知っている。不倫騒動というかロリコン問題で国も手に負えなくなって追放された話はマニアッククイズで出題されるほど彼の名は知れているだろう。


 今の説明だとゲームの世界の中にいることになる。


 モグリーズのメンバーはもう皆理解したようだ。

 誰かが抗議の声を上げる。そんなバカな話があっていいわけがないと……しかし、常識破りの方法が彼にはある。彼の固有魔法は我々の常識の範疇にない。


 それが波浪小太郎という怪物のチート魔法<カラクリ>だ。


『お前らの精神体は<カラクリ>によってこの異世界へ強制的にダイブした。もうこうなったらクエストやるしかねえよな……もちろんクエストの難易度は初心者に優しくはない。

 せめてもとお前らのスマホを勝手にイジって単純な銀色の単発系魔法が打てる特別仕様カラクリのアプリをインストールしといてやったぜ。魔力を込めるだけであら不思議、初心者でも魔法が打てる<カラクリ>だ。一般市場に出回らない代物だ。俺様からのプレゼントだと思ってありがたく活用してくれ』


 親切にも魔法がロクに使えない初心者や私にとってはありがたい代物だ。

 アプリを起動させ魔力を込めてみた。するとあら不思議。詠唱いらず、杖とか魔導書、魔導兵器など魔法を放つための媒体デバイスいらず、勝手にスマホが演算して円ゲージを溜めて画面をタップするだけ。


 三段階の強弱があり、とありあえず試しに円ゲージを3周させて魔銀の弾丸をぶっ放して屋敷の壁を貫いてみせた。そんなスマホはこの世の中で彼の<カラクリ>でしかできない。これは決して魔導兵器と呼べるモノじゃない。そして、彼らの非難の声を浴びる私。


『ちなみに、そのアプリは銀色の魔法が打てる他に、GPS搭載のワールドマップと採点機能も取り付けてある。マップ機能の説明は省くが、採点ってのは要はお前らの成績な。

 例えばスライムを倒したら1点。たとえば、中ボスを倒せというミッションが発生したらクリアした時の点数が画面に表示される。是非とも挑戦して点数を稼いでみるのもいいだろう。尚、ゲームオーバーになっても点数は0にはならないから安心するように。稼げるだけ稼ぐんだな』


 聖都魔法学園へ導入した点取りゲーム、と云えばいいだろうか。


『その点数はお前らを値踏みする期待値だ。覚えておけ』


 いったい、それだけの説明で理解できる者は限られてくるだろうに。

 早い話し要は内申点というやつだ。英雄の卵の価値を目に見えやすい点数で決め、どこぞの魔法を研究する大学・機関やらホワイトなのかブラックなのか怪しい企業やら魔法連盟国の重鎮等へ推薦する。


 あくまでビジネスとして……

 そして、ありがた迷惑な話しだが、彼らのやる気を出せるための処置でもあり教師陣が卒倒しそうだ。無論、こんな横暴を一介の生徒ができるはずもなく、しかし、学園側を<お金>で買収できるほどの財力が彼にあることは確かである。これもあくまで噂さだが……

 まあ、買収云々の話しはさて置いて。


『さて、お前らにとってのクリア条件はなんだろうか?

 裏切り者を探し出すことだろうか? 違うだろ、それは過程で手段でしかない。裏切り者はある目的のために容赦なくお前らに襲いかかってくるぜ?

 その目的ってのは俺の口からは言えねー。それはクエストを進めていってイベント発生させて謎を解き明かしてくれたらいいが、向うはぶっ殺す気まんまんだ。謎解きイベント発生させるよりも先に死んだらシャレにもならないぜ……

 もちろん、ゲームだから本当の死に繋がらないように強制退場ゲームオーバーの設定にしておいてやったが<カラクリ>は万能であっても完璧じゃねーからな。万が一、裏切り者がよほど残虐極まりない極悪非道魔法で精神に異常をきたさなければいいがな……』


 ………。煽るだけ煽っていく悪魔。そんな悪魔に魂を売った私も悪魔の手先なのだろう。目的のために彼らを傷つけていく。きっと、心に残るトラウマの傷さえ与えてしまうかもしれない。真実を知ったとき、きっと彼らは後悔してしまう。


 しかし、私はもう直この計画を実行するのだ。私は私のために……彼らのためじゃなく私のために全力で殺そう。


『そんでもってお前らのクリア条件……それは裏切り者を降伏させるか、又は裏切り者の目的を阻止すること。又は……裏切り者を殺すかだ』


 ………。殺す。この中の誰か1人を殺す。その重たい言葉に誰もが沈黙した。


『さて、そろそろ<特別授業クエスト>を始めよう。学園のチャイムが鳴るだろう。それを合図にゲームスタートだ』


 クエスト開始する前にルールのおさらいしよう。

 彼らのクリア条件。それは裏切り者が誰であるかを見つけ出し武力をもって降参させる、又は目的を阻止するか息の根を止めるか。


 私のクリア条件は彼らを欺き目的を達成させること。


 そのためにはゲームを進行させてイベントを発生させ、彼らを徐々に追い詰め数を減らしていくこと。A~Fクラスまで総勢245名の英雄の卵を私のさじ加減で潰していくだけ……それで全てが上手くいくはず。


 AM8:45―――――――キーンコーンカーンコーン……キーンコーンカーンコーーーーン…………学園のチャイムが鳴った。


『なぁ、せっかく入学式で仲良くなった友達の中にたった一人……そいつと、たとえゲームの中でも殺し合うってのは良い気分じゃねーだろ? でも、もうわかっただろ? お前らは拒絶してもソレを望む者がいるんだよ。お前らはそういう世界に生きてるってことを忘れんじゃねーぞ』


 さあ、クエスト開始だ。

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