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神子の神託
「……?」
「神子さま? どうかされましたか?」
第一区の神殿と称される教会の一室で、【神子】アインは食事を取っていた。側付きの従者が数名控えており、そのうちの一人がアインの手が止まったことに気付く。しばらく虚ろな瞳で虚空を見上げていたアインだが、やがて一つ息を吐いた。
「ゼウスより、一声。『関わることなかれ』と、そう仰られております」
「関わることなかれ、ですか?」
「ええ。今のわたくしにはこれの意味するところなどわかりませんが……。今後何か大きなことがあれども、わたくしは関わらないようにします」
「それは、我々もでしょうか」
さあ、とアインは首を傾げた。
「何せ正式な託宣ではありません。何やら急ぎで伝えたかったようです。恐らくですが、わたくし個人に向けてでしょう」
それだけ伝えて、アインは食事を再開する。
ただこれだけの託宣と、アインの解釈。しかし夕頃には第一区全域にこのことは伝えられていた。それが従者によるものか、あるいは熱心な狂信者によるものか。定かではないがしかし、確かにそれは『神子の言葉』として伝わったのである。