プロローグ
その日は、唐突にやってきた。
「あれ……おまえ、」
知った顔を見かけて、一人の男が話しかける。コンコルディアは無法地帯だが、それ故に多くの住人は「コイツなら信じられる」という存在を持っていた。
男にとっての信頼できる人物は、目の前の人物だった。最近拠点から姿を消していたので心配していたのだが、どうやら無事だったらしい。
「ったく……連絡くらい寄越せよ」
いつものように、男が肩を叩いた。
刹那。
ばたり、と。自身に何が起こったのか理解する暇もなく、男は倒れる。
「…………」
彼が信頼していたという人物は、それを無表情に見下ろした。右手には大型拳銃が握られている。その瞳には何の感情もない。
「……《異端者》の、ために」
呟かれた言葉が、風邪に溶ける。
◆◇◆◇◆
同様の事件が都市各地で起こっていた。信頼していたはずのものが、確かな絆を持っていたはずのものが、突然自分を殺しにかかる。
神子が、悲しそうに語った。
「ゼウスより、最後のお告げです。《異端者》を殲滅なさい。彼らに手を貸すものも、すべて。彼らは私たち──いいえ、コンコルディアという都市にその牙を向けました。彼らを殲滅しなければ、わたくしたちに未来はありません」
将軍が、悔しそうに語った。
「アイツらが動き出した。いいか、何も考えるな。『敵』を斬れ。それだけだ。俺は俺が信じたように戦う。テメエらと俺が敵対する可能性もあるが……そのときは、容赦なんざいらねえ。いいか、テメエらは、テメエらの敵を殺せ」
首領が、静かに語った。
「今から、私たちの一族が犯した過ち──その全ての情報を開示する。お前たちには知る権利がある。全てを知って、どう動くかは自由だ。……もし、私の罪を知ってなお、私に付いてくる大馬鹿者がいるならば、全力で各区のトップたちを援助しろと言わせてもらおう」
異端者が、叫ぶように語った。
「いいか、僕はこれから、君たちを利用する! 自分の過去のために、君たちを利用して、《異端者》のやつらを潰す! これは裏切りの行為だ! 今まで僕を信じてくれていた人たちへの裏切りだ! 僕を殺したければ、殺してくれてかまわない。僕を恨め。僕を憎め。けど、忘れないでくれ。敵が僕以外にもいることを」
そして。
体の一部に数字を刻んだ3人が、鐘の塔から都市を見下ろして嗤う。
「始まったわねぇ。私の撒いた種はきちんと芽吹いてくれたみたい」
「私が『選んだ』んだから当たり前でしょ!」
「…………あと、少しだ」
4番の数字を冠した彼が、嗤う。
「これは、俺たちの復讐なんだ。あの人を殺したアンタたちへの、復讐なんだ!」
◆◇◆◇◆
この先にどのような結末があれど、
この先にどのような悲劇があれど、
物語は、始まった。
──もう、誰も戻れない。