狂った信頼のカタチ
夢を見る。遠い過去の夢を見る。
夢を見る。遥か未来の夢を見る。
そうして、わたしは──
◆◇◆◇◆
「──ンさま、アインさま」
思考に耽っていた意識は、名前を呼ばれることで浮上した。一区のリーダーであるアインは、少し驚いて、それでも努めて冷静に返事をする。
「すみません、リターニア。少し、ぼうっとしていたみたいです。えっと……わたくしに、用があったのですよね」
「うん。でも、些細なことだから。それより、アインさま……大丈夫?」
「大丈夫、とは?」
目の前の少女が何を心配しているのかわからず、アインは質問に質問を返した。少女──リターニアは言葉を選ぶように間を置いてから話し出す。
「……アインさま、最近、よく考え事をしているから」
「……ああ。そう、ですね。心配してくれてありがとうございます、リターニア。でも、わたくしは大丈夫です。それこそ些細なことですから」
「ほんとうに?」
「ええ。ゼウスに誓って、嘘は言っていないと断言しましょう」
彼とも彼女ともつかぬアインの口から、絶対神と崇められているモノの名前が出てくる。それを聞いて、しぶしぶながらリターニアも「わかった」と追求をやめた。
「でも、無理しちゃダメ」
「ふふ、わかっています。……そうだリターニア、頼んでいたことは、どうでしょうか」
ふと思い付いた、とでもいうようにアインは話題をすり替えた。強引な話題転換にも思えるが、そうではなく本当に思い付きなのだとリターニアは知っていた。
「うん。順調。私はアインさまをこうしてお守りするから、実際はあの人に任せてるけど、でも、順調だよ。昨日、追加されたって言ってたし」
「そうですか。……間に合うといいのですが。ゼウスは時間がないと、そうおっしゃっていますので」
「今の騒ぎが終わったら、私も手伝うよ。だから安心して」
今の騒ぎ、というのは『復讐軍』のことである。二区の住人たちによる一区への攻撃。とはいえ、彼らが一区の住人全員を襲っているわけではない。復讐軍も二区の『一部の』住人が参加しているだけで、区間同士の争いとはいえないものだ。
一部の人間たちによる、つまらない争い。喧嘩ともとれる行為。アインは少し前にそう称した。そう称して、そして続けた。「それで終われば素敵だった」と。
リターニアの精神は肉体年齢より幼い。それでも、決して考えられないわけではない。だから彼女は、アインが何かを隠し、何かを秘密裏に進めていることに気づいている。『お願い』だって、その一環なのだろうとわかっている。
それでもアインに尋ねることはしない。リターニアはアインを信じていた。忠義を越えた狂信を抱くがゆえに、彼女はなにも聞かずただ命に従うのみ。
「……オウル」
……たとえその口から、知らない単語が出てきても。それでもリターニアは、静かにアインに付き添うだけだった。