本編プロローグ
時は満ちた。
旗を掲げよ。
声をあげよ。
武器をとれ。
血濡れた道を駆け抜けて、その牙をむけ。
◇◆◇◆◇
「今日から、とうとうはじまる。準備はできた。思い思いに攻めて、おれたちの力を見せてやれ。一区のやつらに──おれたちを馬鹿にするやつらに、復讐すんだ」
そう集まった人間に声をかけたのは、アルバートだった。あたりが暗闇と静寂に覆われる中で、二区の廃墟にあつまるのは彼の勧誘に応えた人々だ。各々がそれぞれの格好をして、自らが得意とする武器を手に持っている。
「夜明けと共に、おれは一区へ向かう。あなたたちは、自由に動いてもらって構わない。誰に復讐しようと、誰にその武器を振るおうと自由だ。だけどひとつだけ、絶対に守らなくてはならないことがある」
ここで、一呼吸分の間を置いた。昂る気持ちを抑えるように深呼吸をしてから、再び口を開く。
「絶対に無抵抗の人を殺すな。絶対におれたちの敵以外を傷つけるな。それをしたとき、おれたちは一区の奴ら以下のクズに成り果てる。おれたちの攻撃対象──復讐対象は、あくまでおれたちや二区を馬鹿にする奴らだけだ」
それは自身に言い聞かせているようでもあった。語りかけているようで、独白のような言葉。今回の復讐において最も重要だと考えるルールをアルバートは音にした。
「おれたちは復讐者だ。侵略者でも略奪者でもない。征服を望むわけでも、蹂躙を目的とするわけでもない。『殺られたから殺る』だけだ。──さあ、はじめよう!」
暗闇はその言葉を受け取り、復讐の幕開けを見届けた。