前哨戦エピローグ
静かな夜だった。嵐の前の静けさ、とでも称すべきだろうか。冷たい風が吹く、静寂に包まれた暗闇。瓦礫の山に腰を下ろしたアルバートは少し前のことを振り返っていた。
父親が殺された。その復讐のために【将軍】を頼り、四冠を頼り、そして人を集めた。備蓄の調達も順調だった。何もかもが、うまくいっていた。──ただひとつ、彼の訪れを除いて。
「どうして……」
思い出すのは赤い髪を束ねた青年、レギアンシャールの言葉だった。アルバートにどんな人員がいるかを教えてくれた四冠。彼は、そして【将軍】のマサムネは、確かにアルバートを応援していた。応援とまではいかずとも、すくなくとも止めるようなそぶりはなかったはずだった。
『ぎゃはは、久しぶりだな!! 相も変わらず随分と暗い顔しやがってよ。普段なら辛気くせえその顔面ごと、この俺がぶったぎってやったぜ』
唐突にアルバートの前に現れた彼は、いつものような高いテンションでそう言ってきた。一体何の用だろうか。それをアルバートが尋ねる前に、レギアンシャールは自ら答えを教えてくれた。
『って、あー、あー、ちげえよ。違うんだって。俺はこんなツマンネエこと言いにきたんじゃねえよ。将軍からの伝言を伝えにきたんだ。ぎゃはは、あの将軍自らのお言葉だぜ? いいか、一言一句しっかり覚えろよ! 「好きにするといいが神子だけには手を出すな。死ぬぞ」』
『……え?』
『ぎゃははは、わかんねえよな! このレギア様だって詳しいことはさっぱりだよ!! でもまあ将軍が言うんだ。気を付けろよ?』
それだけ言って、一方的に伝えて。他は一切教えずにレギアンシャールは立ち去った。好きにしていい、と言われたのはまだ予想の範囲内だった。だが。
「なぜ、神子を庇うんだ……!」
そう。それがアルバートにはわからなかった。そもそも神子を庇っての発言なのか、それさえ定かではない。だが彼には、【神子】たるアインに恨みを抱えるアルバートには、そう聞こえてしまった。
「おれは、それでも、父さんのために……」
拳を作った右手に、さらに力が込められる。
「……死んでもいい。おれは、神子を殺す」