さらなる高みを目指して……?
アリアはフラスコをゆっくり傾けた。その中には透明度の高い青色の液体が入っている。続いて目を移すのはバーナーの火にかけられた別のフラスコ。こちらには色のついていない、無色透明な液体が入っている。
ごくり、とアリアは息を飲んだ。手に持ったフラスコをさらに傾け、もう一方へと中身を注いでいく。無色透明から水色、緑色へと変化して──
「ビックニュースやでアリアさん!」
「死ねヤマトッ!」
青い液体は全て注がれ、混ざりあった液体は真っ赤に染まった。彼女が求めていたものは紫色。なんだか似たようなことが前にもあった気がするが、アリアはとりあえず怒りをクセのある訛りの男にぶつけることにした。
対するヤマトはドアを開けたとたん飛んできた薬品を、寸前のところでかわしてみせた。同時に背中を冷や汗が流れる──のがいつものことなのだが、今日ばかりは事情が違った。
「どいつもこいつも人の邪魔しやがって……! いいかヤマト、この薬品はな──」
「それに関してはちゃんと謝罪するで! せやけどアリアさん、とりあえずこれ見てみぃ!」
ずい、と差し出されたのは束になった書類だ。いままでになく興奮しているヤマトの様子に何かを感じ取ったのだろう。文句をいいつつもアリアはそれを受け取って、すぐに食い入るように資料を見出した。
「ヤマト……これは……」
「書いてあるとおりですわ。出店舗数は前回の2.5倍、予想売り上げは3.8倍。これは上手くいったで。マーケットは今までにない規模になること間違いなしや!」
「……ほう」
アリアの瞳がきらりと光った。それからちらりと失敗作を見て。
──あと1.5倍あれば、賄えるか
忘れてはならない。彼女は商業組合の組合長であると同時に《眠る心臓》というマフィアのトップであることを。
そしてなにより彼女が自分の欲に正直であるということを。
「なあ、ヤマト」
「どないしました?」
「売上、さらに1.5倍延ばすぞ」
「………………はい?」
そして今日も、ヤマトの残業は続くことになる。