バレンタインの贈り物
「調子はどうですか、アルバート」
それは、厳しい寒さが続くある日のことだった。怪我の治療をするためタケナカの家に居候しているアルバートは、家主に呼ばれて部屋の入り口を見た。そこにはいつもの軍服に身を包んだタケナカが立っていたのだが──その手にはなぜか、少し大きめの紙袋が抱えられていた。
「えっと、かなり、よくなってきました。──ありがとうございます。タケナカさん」
「いいえ、それなら良いのです。お礼を言われるほどのこともしていません。私は、この部屋を貸しているだけですから」
「でも、おれはお礼を言わないとって、思ったので。あの、ところで、その紙袋は……?」
挨拶とお礼を済ませて、気になっていたことを尋ねた。アルバートの指す紙袋に視線を向けたタケナカは「ああ、これですか」と言う。
「こちらは、あなたにと預かってきたものですよ、アルバート」
「……え? おれ、ですか?」
「ええ。なんでも、頑張る姿に共感したとか、妙な愛着が沸いたとか……まあいろいろです。毒物っぽいものは除去しているので、安心して受けとるといいでしょう」
「え? え?」
「そうそう、ゼロからも『よかったね!さすが僕の仲間!』と伝えるよう頼まれましたので」
「はい?」
「あのぼったくりを抜いたので、私としても嬉しいです。ああ、遠慮はしないように。同じだけの量を、私ももらいました」
「あの、タケナカさん?」
「中身はチョコレート類が多いようですが、それ以外も混ざっています。日持ちしなさそうなものから食べるといいでしょう」
「り、理解が追い付かないんですが!?」
「では、私はこれで」
「ちょ、タケナカさん!? もっと説明をください! ってああああ! 本当に出ていった!?」
ばたん、と扉は閉められる。残されたのは2/14という日付を示すカレンダーと、まったく意味を理解していないアルバートだけだった。
◆◇◆◇◆
ところ変わって、アリアの研究室では。
「ふっ、当然の結果だな」
一枚の紙と、やはり大きめの紙袋を前にどや顔をするアリアがいた。紙には個人の発行する新聞である旨と、なにやら順位らしきものが記されてある。
「前回はヤマトに遅れをとったが……なに、この私とて二度も連続して汚名を被ることはなかったというわけだ!」
今にも高笑いしそうな表情とノリで、彼女は自身を褒め称える。紙袋には、チョコレートとともに数冊の科学雑誌が入っていた。見事にアリアの好みを突いた選択である。
「前回はなんとしてもこの新聞の発行者を見つけ色々と問い詰めようと思ったが──今は別の理由で探し出したい。褒美をやらねばならんだろう」
高笑いしそう、というか実際に「ふふふ」と笑いをこぼして、アリアは鼻歌まで歌い出す。
──結局彼女は、扉の外で「お前も大変だな」「シャーロさん……ホンマ、ありがとうございます」という疲れきった二人の会話には気づかないままだった。