本編プロローグ
──もしかしたらそれは、偶然などではなく、必然だったのかもしれない。
「コンコルディアを歩き回り、情報を集めていたパトラシア博士が再び引きこもりだした」
そんな噂がたって、およそ1ヶ月。賢者の石の噂は次第に少なくなり、過去の遺物へなろうとしていた。パトラシア博士が屋外で見掛けられることはほとんどなくなり、噂の情報源が消えた今、都市の興味関心も別へと向こうとしている。このままの状態が続けば、賢者の石そのものが忘れ去られる──はずだった。
例えばそれは、自ら異端を名乗る《愚か者》だった。
「んー、なんだ、これ。……へえ、ふうん。まさかねえ。あー嫌な予感。これはあの子に渡すべきかな」
例えばそれは、若くして組織を纏める研究者だった。
「……む、なんだこれは。赤い、硬い……いや、まさか。だが研究する価値はあるな」
そして、例えばそれは、この騒動の中心人物だった。
「……やっと、見つけた」
全ては、ようやく動き出した。1ヶ月前の騒動など、前哨戦に過ぎなかったことを人々は思い知る。
──コンコルディアのあらゆる場所で、『賢者の石』と呼ばれるものが見つかり出したのだから。