イベントエピローグ
かつん、かつんと足音――冷たい金属同士のものだ――が響く。音の主は機嫌がいいのか、意外にも音程のとれた鼻歌を奏でていた。かつん、かつん。四区を歩いていた足音が不意に止まる。彼――ナンバーゼロは振り返ることなく言葉を発した。
「どうしたの、タケナカ」
「いえ、もうよろしいのかと思いまして」
「うん、もういいんだ。大体はわかったし、知れたから。何人か直接会えなかった人たちもいるけど……」
「他から写真を入手すれば問題ない、と」
「そうそう。大体ね、今回の『これ』だって保険なんだ。もしかしたら必要になるかもしれない、その時のためのね」
そうですか、とタケナカは言う。「私には、そこまでする理由がわからない」
「えー、どうして? 僕としては一番の方法だと思ったんだけど」
「確かに、あなたの『ストレス発散』という目的をみれば一番の方法でしょう。しかし、それでも私にはわからない。第四区は『私だけで事足りた』はずです」
明らかに言葉が足りないその台詞に、ゼロは理解を示して笑ってみせた。その笑いは戦い中に見せるものでも、怒りと共に露にするものでもなかった。自嘲、だろうか。タケナカは眉をひそめる。
「……なぜ笑うのです」
「んー、確かにそうなんだけど、前提が僕とタケナカで違う。僕は四区が大好きだ。……だけど、この都市も好きなんだ」
「……」
「それにね、僕には責任がある。僕には理由がある。だから、かな」
「……お人好し」
「あはは、そうだね。でもまあとりあえず今日でおしまい! 僕はしばらく十年前みたいに過ごすことにするよ。まずは家だね、家。更地とか想像してなかったからなあ……」
先程までの真剣な雰囲気は何処へか。ゼロはよく見せるおちゃらけた口調でそう言ってみせた。何かを諦めたかのようにタケナカは一つ息を吐き、そして小さく何かを呟く。月の下に吹いた風がその言葉を拐い、それは誰にも拾われぬまま霧散した。