ヤマトの道案内
……ん? あ、あーっ! ちょ、自分! ちょい待ちや! そこのオニーサンのことや! でっかい荷物背負っとる! そう、アンタや! ここに住んどるヒトちゃうやろ? なんや、どうしたんや。移住かいな? ……あ、やっぱりそうか。せやったらちょーっとボクに付き合わん?
ボクはヤマトいいます。ここで観光業やってん。観光業兼配達屋。第三区に住んどって、一応《眠る心臓》の幹部や。
……え? 《眠る心臓》も第三区もよう分からへんって? はぁーっ!? それでこの都市に住もうと思っとたんかいな! オニーサン阿呆ちゃいます!? はぁ、仕方あらへん。ボクが案内ついでに説明したりますわ。
まずは区の説明やね。この都市は四つの区に分かれとって、第一区から第四区まであるんや。真ん中の高い塔は《鐘の塔》いうてどの区のものでもあらへん。中立地帯やな。
そんで今ボクらがおるここは第三区や。商業地区って感じやな。商売好きが集まってん。他の区にも店はあるんやけど、店舗数はここが飛び抜けて多い。そんで品揃えも豊富やで。必要なもんは全部ここでそろうんちゃうかな。ただぼったくりも多いから注意やで。
この区はな、《眠る心臓》が管理してん。これはどの区にもいえることなんやけど、ひとつの区はデッカイ組織が管理しとるんや。一区なら《偶像の魂》いう宗教集団が管理しとる。ま、そこについてはまたあとで説明したるわ。
《眠る心臓》いうのは元々マフィアやねん。先々代辺りから『商業組合』的な性格が強くなってんけど、一応マフィアの血を継いどるヒトがトップをやっとる。現トップは『アリア』っていう名前の別嬪サンや。ボクの上司やな。
ああ、ボクはこれでも幹部やねん。さっきも言うたやろ? そそ、マフィアの幹部。まーいうても仕事はアリアさんのお手伝いくらいなんやけどな。
あ、大きい建物見えるやろ。あそこやあそこ。あれが《眠る心臓》の本部や。元は銀行やったらしいで。それを改築して本部にしたんや。もしアリアさんや《眠る心臓》に用があるならあそこに行ったらええで。
……あ、ストップ。オニーサン、こっから先は立ち入り禁止や。いや、本来は入れるんやで? せやけど今は止めとき。
こっから向こうが第四区なんや。第四区は『異能』を使うやつがイッパイ住んでるんや。異能は超能力みたいなもんやな。基本は無害やけど、手を出したら最後、返り討ちやで。過剰防衛が特徴なんや。第四区……いんや、《愚か者達》はな。
ああ、《愚か者達》いうのが第四区の組織やねん。組織いうか、異能持っとるやつをまとめてそう呼んどる。トップは『ナンバーゼロ』いうおっかないニーチャンでな。右頬に刺青があるからすぐわかるで。お、そうそう。ちょうどこの人みたいに……
……って、はい!? ゼロさんなんでここにおるん!? え、いや、都合が悪いとかちゃうで。や、ゼロさん? 何構えとりますん? ボク今仕事中やねん。この人移民やねん。せやから勝負はちょい待ってや。……え、このオニーサンは傷つけん? いやいや、ソレならボクを見逃してや。な? え、や、ちょおおおおいっ!
…………。
◇◆◇◆◇
……はぁ、なんでボクこんなにボロボロやねん。手加減はしてくれたみたいやけど、これはアカンやろ……。堪忍な、オニーサン。
ま、案内は続けるで。このくらい大丈夫や。次は第二区行こうか。あ、ところでオニーサン、武器とか攻撃手段とか持っとります? なんでって……ホンマ何も知らへんのやね。第二区で丸腰なんは自殺志願者みたいなもんやで。よほど腕や逃げ足に自信があるなら別やけどな。それで武器は? あ、一応ナイフは持っとるんやな。あんま役立つとは思えへんけど……ないよりはマシやろ。
ああ、ボクはこれが武器やねん。銃ちゃうで。水鉄砲や水鉄砲。圧力かけて勢いつけるんや。これが案外痛うてな。さすがに殺すまでは行かへんけど自営用には十分なんやで。水鉄砲やから弾代もかからへんし、すぐに補充できる。愛用しとんや。
そんじゃあ気ぃ引き締めて行こか。ここら辺から第二区やからな。ええか、明らかに目ぇ逝っとる奴らと視線合わせちゃあかんで。オニーサンやて死にたくないやろ。ボクも仕事やし守るけど、ゼロさんにやられた傷があるかんなぁ。守りきれる自信は正直ないんやわ。
第二区は戦闘狂の集まりやねん。戦うことが好きな人らが多いんやわ。もちろん例外もおるで。マサムネさんに惹かれたとか、何となくとか。ああ、マサムネさんいうのがここのトップやな。ボクと同じニホンジンなんや。ニホンジン、ジャパニーズ、って言えばわかるやろ。そうそう東洋人やねん。
第二区を管理してるのは《災いの死神》いう集団や。組織やのうて集団。他の区にみられる組織的な階級やったり制度やったりはないんや。区を管理するのに仕方なく作ったいう感じやな。トップと四冠いわれる奴らがおるだけで、あとは特に何も決まっとらへん。フリーダムいえばきこえがええけど、正直纏めきれてへんっていう感じやねん。マサムネさんが弱いんちゃうで? あの人は正直バケモノや。めっちゃ強い。ただ、管理職に向いとらへんいうだけや。面倒事が嫌いやねん。
せやから第二区は本当に好き勝手されてん。それでも成り立っとるのは一重にマサムネさんの圧倒的強さのおかげやな。
さあて、そろそろ第二区も抜けるで。あ、ちなみにさっき通りすぎたビルがマサムネさんの家や。
◇◆◇◆◇
……ここからが第一区なんやけど、オニーサンに一つ注意。死にとうなかったら一言も喋らんことや。この先は都市の中で一番安全やけど、同時に一番面倒な地区やねん。一区は宗教家の治める地域でな、ゼウスいうカミサマ信じとるんやけど、まあこれが盲目的なんや。ゼウス否定イコール死、やな。おっかないやろ。ボクらみたいに何年もここで過ごしとるんやったらどこまでがセーフで何処からかがアウトなんか分かるから平気やけど、オニーサンは新米さんやからなぁ。
第一区は《偶像の魂》いう宗教団体の統治下にあるんや。ゼウスいうカミサマの一神教やねん。トップは神子のアインさんや。……これは本当かどうか分からへんけど、アインさんはカミサマの声が聞けるらしいねん。嘘やいう人もおるけど、実際にそれで未来予知みたいなこともしとるから、一概に否定はできん。正直よう分からんねん。普段はちょいと抜けとる天然サンなんやけどな。
この地区はゼウスを信仰しとるヒトがようさん住んどる。もちろんゼウス信じとらん人もおるけど、ゼウスを否定する人はみんな他の区に移住してしもうた。あとはさっき言うた神子サンを狂信する人らやな。神子サンはえらい美人やねん。性別はようわからんけどな。
で、あそこの綺麗なステンドグラスがシンボルの教会がアインさんの、というか《偶像の魂》の拠点やな。通称『神殿』。出入りは自由やけど、奥の方……アインさんのプライベートな部分なんかは一部の人らしか入れへん。三階建てになっとるけど、ボクらみたいな『一般人』が入れるのは一階の一部分だけやねん。
説明すべきはあと一ヶ所やな。こっちや、鐘の塔入るで。今から説明する場所は鐘の塔からしか行けへんのや。
あ、せや。鐘の塔はどの区にも入り口があるんやで。……ほら、出入り口が四つあって、それぞれ看板があるやろ。オレンジが一区、赤が二区、青が三区、黒が四区へ通じとる出入り口や。塔のテッペンへはこの螺旋階段使うしかあらへんから、体力に自信がないなら止めときや。
そいで今から説明するのがこっちや。この階段の下。地下東区、ってボクらは呼んどる。別に西区があるいうわけちゃうんやけど、都市の東側に広がっとるから西区いうねん。別名『ゴミ溜め』。いらんなったものはなんでもこの場所に棄てられる。たまーに掘り出し物もあるんや。あ、さすがに生ゴミとかは棄てられへんで。そーいうのは別で回収してたり捨てたりしとる。
東区はたぶん、元は地下街やったんやないかな。予想にしか過ぎへんけど、みんなそう言うとる。蛍光灯とか、シャッターとか、広くなっとる場所の位置関係とかがどうもそれっぽいいうだけなんやけど、たぶん元は地下街。ご覧の通り薄暗いんで、しっかり探索したいんやったらなんか灯り持って来た方が賢明やな。
んー、説明するのはこれで終わりか。どうやった、オニーサン。大体雰囲気は分かったやろか。……それは何より。それじゃあほい、七万。
え、何のことかって? お代やお代。ボクは仕事で自分を案内してん。そのお代。聞いてないって? 当たり前やろ。言うてないんやから。
なあオニーサン、ボク最初に言うたよね?
『ぼったくりも多いから注意やで』って。