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"Veiled !"

掲載日:2026/03/19

「どういう……」



「…事だよ……っ!」


硝煙の煙が晴れない中

瓦礫へ仰向けに倒れた肩を、標本の虫のようにナイフで釘付けに刺されながら、烏有(ウーヨゥ)が呻き声を上げる

突き刺して居る相手は付き合いの長い、戦友の女だったが、表情は耐毒用のマスクで伺い知れなかった


戦闘は終了

後は帰還するだけだったが、アクシデントが起きた


生存者が二人しか居なかった事と、このナイフの向かった先だ



女は「説明の必要があるの?」と抑揚の無い、しかし通りの良い声で答える


ナイフの切っ先が傷口の中でねじられ、ぶちぶちと人の肉の筋繊維が切られていく音がする

そしてそこから、涙のような大量の血が音も無く溢れ広がり始めた



「──────ッッ!!!!」


肩は突き刺されて固定されて居るため、必然的に烏有の『それ以外総て』が痛みの中で暴れ狂った

彼は瞳孔の開ききった眼で大粒の涙を流すと、言葉にならない悲鳴を繰り返す


女はナイフから手を離し、烏有の傍らに屈むと、彼の顔に利き手を振り降ろした


烏有も簡単な戦闘訓練は受けて居る

咄嗟に顔を庇いこそしたが防ぐ事叶わず、殴られる度に液躰音と共に、瓦礫の上に血液の飛沫が飛び散った


打たれるたびに両足が、人形のように跳ねる

赦しを乞う様に烏有の手が力無く前へと突き出される頃、女は、すっくと立ち上がった



「私を視なさい」


視降ろしながら女が言う


烏有は、空気漏れのような呼吸を繰り返しながら

それでも立ち上がろうとして、結局へたり込んだ



「貴女の事は………」



「………………」



「…………信じていたのに」


俯いて烏有が涙ぐむ

女が軍靴の爪先で烏有の顎を持ち上げ、視線を上げさせた



「私を視なさい」



「覚えなさい」



「『生きる』という事の前では」


「貴方の気持ちなんて、何も意味が無いの」



どさり、と烏有が瓦礫帯の土に倒れ伏す


烏有が「殺してやる……」と呟きながら気絶したのを確認すると、女は一番近い廃屋まで烏有を引き摺った



「その憎しみがある限り」



「貴方が死ぬ事は無い」


女がマスクを脱ぐと、投げ捨てる



「私は、そう望む」


仮面の下の顔は涙で濡れて居たが、女は立ち止まらず踵を返した



静かだった


廃屋の外ではいつの間にか煙は晴れ、青空が視えた

土の上に怪我をした小鳥が藻掻いて居る

小鳥は何か遠くを視ながら、『ここへと近付いてくるもの』を恐れて金切り声で騒ぎ立てて居た


女は小さな生命を一瞥すると、直ぐに前方へ視線を戻して「君たちは」「恐れる事は無いよ」と言った



「お姉さんが、総てやっつけるからね」


女が銃を構える

女に向けて、銃声と足音が殺到する


最後に彼女が発した声の、声色は暖かく優しかったが、その言葉が『嘘』で有る事を女は知っていた

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