悪魔の証明
『天使と悪魔……珍しい組み合わせじゃのう』
林檎飴を食べてさっそく街の外を出ようとした時、出店の老人がポロっと出した独り言?を思い出す。
思えば悪魔と天使、必ず種族の間で何らかの因縁はあるだろうし。世界観的に悪魔と言う種族が選べるならプレイヤーが不利になるような設定はないとも思う。
……攻略サイトは使う気ないし、NPCかプレイヤーどちらかから情報を引き出したいところ。
「なにまぁたボーッとしてんの?」
「ちょっと、な」
「ふぅん?もうそろそろエネミーエリアに出るんだから、しゃんとしてよ?」
「分かってるって」
腰に下げた《《本》》を手に取ると淡い光を発しながら浮遊し始めた。ルナはおっかなびっくりと言った感じで目を向けてくる。
「どうだ?かっけぇだろ」
「うおー!なにそれ!そんな武器あったの!?」
「魔法具ってやつよ、杖と違って連射が速いらしい」
自分も見つけたのは偶然、杖はさすがに普通すぎないか?と魔法武器を見ていたら見つけただけの物、でもこれが意外と俺の企みに有用な物なんだ。
この街と外を分ける門の外を出た
「見渡す限りの草原だな」
「風が気持ちいい……走るともっと気持ちいいやつ!」
そう言って駆けていく幼馴染み、もう何回目だこれ?
「おーい、もう追いかけてやらんぞ……あっ」
目には目を、歯には歯をってやつか
「ふぎゃぁ!」とか叫んでどこからかスポーンした猪に撥ね飛ばされていた。
「別に死んではいないよな……?」
あいつがせかすもんだからパーティー設定もできていないんだ、とりあえず目視だと無様に地に顔つけてる美少女が居るし。
「しょうがねぇ、迎撃する!」
猪とリアルファイトなんて勿論やったことないけど、まあ魔法でなんとかできるだろ。
猪もこちらに気づいたみたいだ、闘牛の牛のように鼻息を荒くして足を地面に擦り付けている。
本を持っていない、掌にほんのりと暖かい火が灯る。
「とりあえず一発!」
「グルゥァ」
テニスボール程度の火球を食らってまったく怯んだ様子は無い。
ああこれ……あれのせいだな
「おっと!ルナァ!はよ復帰しろー!」
あの猪突猛進女め、肝心なときにはまったく役に経たねぇじゃん!
さっきから冷や汗だらだらだ、疲れる様子もなく突進してくる猪から距離を取って今度は複数の火球を出した。
俺のビルドにおいて一発魔法を打ち込むのは圧倒的に非効率。
ならやることは?決まっている。
「しゃらくせぇ!数で押す!」
イメージはマシンガン、流石にマシンガンのような速さも威力も密度も無いけど。
「入ったァ!」
猪の意に介さない火球の雨、ただ一つ――一際大きく光輝く火球が当たった。
ザマァ見ろってか、奴の眼前で様子の可笑しい火球が弾けた
「ハッハァー!最高だなぁおい!」
脳汁が出るとは正にこのこと、クリティカルこそ我が至福である。
キャラが違う?良いじゃないか、ゲームなのだから
目に見えて威力が違う火球に驚いたのか、よろけた猪に命はもう無い。
「てやぁぁぁぁ!」
気の抜けた掛け声とは裏腹に鋭い剣筋が猪の脳天を叩いた。そういえば剣道齧ってたもんな。
「うわぁ……」
天使とは……?やってること悪魔の俺より躊躇無いじゃないか。
「ぶいっ!初討伐お疲れ~!」
ピースをするルナとハイタッチ。
「お、おう?もっと先に来てくれても良かったんだぞ?」
「それがさ?なんか吹っ飛ばされて動けないと思ったら昏睡状態だったんだよね」
ああ、そこまで再現してんのかこのゲーム。まあ頭から地面に突っ込んでたし、初デスしなかっただけマシか。
「それより「にしても!」」
「……なんだ?被せてきやがって」
申し訳なさそうに頭を掻いて言う
「いや、魔法って案外威力低いなって」
「ああ、ファイアボール!とか言ってドデカイのかますと思ってた感じ?」
「そうそう、魔法って言ったらやっぱ威力高いイメージあるし」
どうやら色々と勘違いをしてしまっているらしい、どこから正すか。
まず手に火の矢を出して適当に放つ
「このゲーム、色々カスタマイズ自由なのよ」
「おー?普通のRPGとは違うね!」
「そそ、威力に関しては俺が悪いと言うか」
そこで少し詰まる、俺のビルド……と言うかほぼすべての元凶と言えるサブジョブについてどう説明すれば良いのか?
「えっと、どう言うこと?」
「まあ……そうだな、さっきLUC魔って言っただろ?」
「あ、わぁ……」
LUCと言うか言葉で全てを察したのか、蔑んだ目でこちらを見てきた。……なんというか、なんとも言えない。
「まあ?辛いのは多分序盤だけだから、その目で見るのをやめてくれませんかね?」
「いや、変態プレイをしようとしてる幼馴染みにはこれで良いと思う」
変態とは憤慨だ、このビルドにもそれ相応のリターンがあるのだと判断して選んだのだから。
ため息をついて、手元を見てびっくりしたように目を開いた。
「ん?どした?」
「もう一時……」
「え?AM?」
「うん」
「マジかー」
もうそんな時間だったか、長い間街の探索してたからそんなもんかね。
「じゃあ私寝るかな、あーくんはまだやるでしょ?」
「おう、お前とはまた明日だな」
「うん、休みだし、昼食べたらやろうよ」
「おっけ、おやすみ」
「おやすみ~!」
街まで送って、ログアウトするのを見守ってからエネミーエリアの門へと踵を返す。
おそらく今の俺はとんでもなく凶悪な顔をしているんじゃないか?と思った。
まあまあ質問攻めしてきそうな幼馴染みも居なくなったのだし好きなだけ検証ができるのだから。
ゲーマーたるもの、そして悪魔たるもの。
少しの秘め事は、あってもいいよな?
……あれから猪を5-6匹倒して基本的なビルドの仕様は分かった。レベルも3に上がってステータスは勿論LUCとMATKに振った。
既にゲーム内では夜になり草原を綺麗な満月が照らしていた。青白く輝く花が照らされていて、現実世界ならデートスポットにでもなっていそうだ
できれば今日中にもう一つ重要な事を検証したいんだが……
「グルゥァァァァァァ!」
「おーでっけぇ」
いわゆるレアエネミーってやつか?猪を一匹倒した時、どこからともなく車一台ぐらい大きい猪が走ってきた。
「おこですか?……おこってやつですねぇ!」
頭上に表示されてるのは赤字……【ライフガードボア】ねぇ。
赤字ってことはレベル差がエグいってこと
平原は平原だし避けるのも至難の技だな。
鼻息すご……扇風機にしていい?
「やっべ!」
思考が読まれていたのか、一層鼻息を荒くしてその大きな牙を振ってきた。
間一髪で避けた?いんや違うね
「余裕綽々だよ猪肉、名付けて『影渡り』ってな」
魔力消費はまあまあ激しいけど性能はお得、影を渡れば攻撃なんて当たらないだろう。
「らァァァ!」
掌から極限まで威力を削った火球を大量に射出する。暴れても判断さえミスらなければ魔力が尽きるまで実際無敵。
「ボァァァァ!?」
影の中を縦横無尽に渡り、できる限り錯乱する!
「そろそろだなぁ!」
企みはすぐそこに、闇の霧を出して無理やり影を作ってライフガードボアの頭上まで渡った。
「キタキタキタァ!!!」
間違っていなければ数にして300と少し、初戦闘時から放った魔法の数はこれで間違いないはずだ。
キャラクリでの説明通りなら総魔法数に比例してクリティカル率が上昇するはず!
そこにサブジョブのパッシブで更にクリティカル威力が上昇して素のクリティカル威力に上乗せ。
俺の考えた狂気の構成!このVRMMO生を全ベットしててめぇを倒す!
威力はまったくもって分からんし倒せるかもわかんねぇ!
「だけどやる価値はあるよなァ!!!オールインだ!!!!!!」
スキル使用『運気解放』
「ソシャゲなら天井ってやつさ……!焼き肉なれやァァァァァ!」
手から涌き出る火力は最大火力、まばゆい光で前が見えなくなるほど。
こりゃあ自滅かもしんねぇけど……当たれぇ!
耳をつんざく轟音と地面を転げ回る感触、咳をしながらなんとか目を開けば小さいサイズのクレーターができていた。
「よっし――」
【キャラクターが死亡しました】
目一杯に広がるブラックスクリーンと、その文字
……え?
あいつ生きてたん?
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