行き当たりばったり街巡り
「あーくん!二時間ぶりだね!」
……色々変わっているが、顔はリアルと瓜二つだ。そもそも素材がこのゲームで作れる美と同レベルなのおかしくない……?
「あ、ああ……二時間ぶり」
一つ間を置いて彼女を見る。一寸違わぬ天使って奴。
天使だと聞けば回復職とか魔法職が思い浮かぶけど、腰に差した剣を見るに彼女らしいゴリゴリの近接ビルドだと思う。
「またお前、ずいぶん張り切ってキャラメイクしたな?」
うるさい鼓動はあえて聞こえないように、脳をゲームに移さなければ。
「あーくんこそ、顔こそあまり変わってないけど色々弄ってるじゃん、顔だけは頑なに変えないのは君らしいけどさ」
さすが幼馴染み、そこら辺は分かりきっているようで。
「てかさ、気になってたんだけどあーくん種族は?」
「聞く必要ある?」
「角あるし……悪魔?」
「当たり」
天使と悪魔、正に真逆のコンビ。まるで小説みたいな展開にバカらしくなったのかその場で笑いあう。
「じゃあもちろん魔法使いだよね?私剣だから」
「そりゃあもちのろんよ、【根なし草】の魔法使いね」
種族は悪魔で生い立ちは根なし草、イメージ的には地獄から旅に出て気ままに旅する悪魔……って感じかな。
「遊……ルナレイン――ルナでいっか、ルナの方はどうなんだ?」
雨晴、晴の月と雨でルナレインか。昔しっから自分の名前で遊ぶの大好きなんだよな、こいつ。
印象に残っているのだとルナチャイルドとか、どっかの妖精さんの名前もあったりしたな。
「ルナいいね!生い立ちは【高貴な血】で職業は勿論剣士!」
「見た目どおり、あらかた実家が窮屈で飛び出してきたって感じかい?天使の嬢ちゃん」
「君こそ、私と同じもんでしょ?根なし草の悪魔さん」
即興のロールプレイにも応じてくれるノリの良さは流石、わりと本気でこのコンビは良いかもな。
……少しはドキドキも収まったし。
例の巨木を見つめる横顔にまた少し見とれながら言う。
「あの林檎、取りに行く?」
「行く!」
水を得た魚、と表現すれば良いだろうか。全速力で人混みの中を駆けていく彼女を追いかける。
「そもそもあれ取れると思う?」
「さぁ、やってみれば良いでしょ!」
「まあそうだよな!作戦は?生身じゃ届かねぇぞ?」
「この羽が使えれば良かったんだけどっ!あーくん踏み台になってよ!」
「結局そうなるのね!?」
人々からの自然が痛い、まぁスポーンしてあの巨木が綺麗だと思ってもわざわざ林檎を取りに行こうなんてプレイヤーそうそう居ないわな。
でも……これでいい!ここはゲームなんだから、全力でやりたいことやれば良いんだ。
「ルナっ!」
「いっくよー!」
屈めた背を衝撃が襲った、あいつおもいっきり蹴っただろ。現実だと背骨折れてそう。
「すっげぇジャンプ力」
謎の力でスカートの中身が見えないのが少し……まあ残念ではあるけど良いだろう。
今は踏み台でも、いつかは追い付いてやるさ
「とっ!取れた!」
なんとか末端の林檎を取れたらしい、さすが人気VRMMO。取れない可能性も考えたけどそこら辺も作られてるんだな
「ちょっ!受け止めてぇ!」
「あん?……あっ」
空から天使が墜ちてきた、飛びきりでかい落下音も一緒に。
「痛くないけど痛い」
「どっちなんだよそれ」
さすがゲームクオリティ、空から墜ちてきた残念天使をしゃがんで見る。
「で、林檎取れた?」
「うんっ!ほら、あーくんの分も」
「おっ、ありがと」
こういう細かな気遣いもこいつのモテる所以なのかね……遠慮なく、リアルの林檎よりも二倍は大きい林檎を手に取る。
【失楽の林檎】
あまねく知識と罪の始まり。失楽した今、その実に宿された知識はなんの恩恵も与えない。
……それらしいフレーバーテキスト、この街失楽園なんて名前だし完全にアダムとイブが元ネタだな。
「記念品的な感じで保管しとくか」
「じゃあ私のは後で食べよ!」
「食べるのかよ……まあいいけどさ」
林檎をインベントリに仕舞って改めてこの街を見渡す。
「美男美女多くね?」
「キャラメイクで好きなだけ改編できるもん、あーくん見たいにほぼベースのままキャラクリする人の方が少ないと思うよ?」
確かに、言われてみればそうか。そもそもゲームでリアルバレなんてしたくないもんな。
改めて横の相方を見る。言うてこいつも顔の方は全くもって変わっていないはずなんだけど……それでも全然他とビジュで劣ってないんだよな。
さすが絶世の美少女、存在自体がファンタジーってやつだ。
「まっ、せっかくだしモンスターとか倒す前にこの街を見て回らないか?」
「ちょうど言おうと思ったとこ、めちゃくちゃ大きいし探索しがいがあるよこれ!」
そう言って駆けていく幼馴染みを追いかける。街の見た目はかなり自然よりだと思う。
廃墟のように崩れたレンガ造りの建物とあの巨木のような自然が絶妙なバランスで入り交じっていた。
パソコンでプレイするようなゲームは街の外観があまり気にならない事が多い、だけどいざVRで体験してみると現実とのギャップで気になる物なんだな。
「っと、どうした急に止まって」
「ここ、露店エリアだって!初期のお金もあるしなんか買ってかない?」
「別に良いけど、武器なら初期装備で足りないか?」
「違うって、あれ《《食べよ》》!」
食べよう?
ルナが指差す方を見るとNPCやプレイヤーらしき露店に紛れて【失楽リンゴ飴】と書かれた看板の出店が。
「げ……あのリンゴマジで食べるのかよ」
元ネタからして例の禁断の林檎だろうに……まあフレーバーでなんの恩恵も与えないって言ってたし良いのか?
「オジサン!失楽リンゴ飴二つください!」
「おお、二人ともお目が高いのぉ」
ちょっと待っておくれと優しそうな老人のNPC、籠から林檎を二つ取って串に差していく。
「マジででかいのな」
「つまりいっぱい食べれるってことじゃん」
「さすがに胸焼けしそうだが?」
串を差し終えると横にあった巨体な壺を持ち上げて林檎に直接なにかの液体をかけていた。
腕力つよ、このオッサン戦えるタイプのNPCだな?
「うわぁすっご!あーくん見てみて!」
「うん?」
林檎に掛かった液体がパキパキと固まっていく、甘い香りが充満してゲームなのにお腹がすいてきた。
勝手に液体が林檎全体をコーティングして水晶見たいにキラキラと輝いていた。
なんと言うファンタジークオリティ……
「ほれ、召し上がれ」
「ありがとうございます!見てこれ、めっちゃ映えそう!」
「あんま分からんけど、確かに?」
キラキラと光るリンゴ飴どキラキラ幼馴染み……合うな。
自分はさっそく食べるとして。
カリッと耳に良い音が響く、甘過ぎず甘くなさすぎない。食感は意外と柔らかくてちょうど良くサクサクだ。
「なかなかいけるかも」
VRで食事なんて……どっかのクッキングシミュレーターでしかやったことなかったけど意外と凄いな。
そもそもVRMMOで食事なんてあんまリソース掛けないで良い部分だろうに。
「うまうま!」
「あぁ、旨いな」
満腹感がやってくる、まるで本当になにかを食べたみたいだ。
ふと、このゲームのキャッチコピーが頭をよぎった。
プレイヤー一人一人が歴史を刻むVRMMOか。ただの誇張表現かと思っていたけど。
戦闘、料理、冒険、生産、そして色々。
幼馴染みにドキドキしてる場合じゃない、ゲームを楽しみたい。
……まずはビルドだな
実はキャラメイク時から思い付いていた事がある。
メインジョブの【魔法使い】の次に選ばされたサブジョブ……
「クックックッ」
「え?そんな悪役見たいな笑い声でる?」
「……まあ悪魔だし?」
「じゃあ天使パワー的なやつで綺麗にできるか」
「ナチュラルに浄化しようとしないで?」
「はぁ……んで、次はどんな悪巧み?」
もう慣れたように呆れた視線を向けてくる幼馴染み。まあ昔から俺の悪巧みに巻き込まれてきたからな、こいつ。
ルナが冒険で俺を振り回すなら俺は戦闘でこいつを振り回す。
「ちょっとな……LUC魔、面白そうだと思って」
「LUCってあの運のLUC?……なんかもう、好きにしてどうぞ」
よし、幼馴染み様の許可も下ったわけですし?いい加減暴れたいんだ。今に見てろパンゲイアオンライン、確立された説かは分からないが。
面白いことになる、そう確信している。
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