キャラメイク、もしくは沼と呼ぶ
『ハローあーくん!』
『はいはいハローハロー』
通話アプリを繋げばこの通り、やかましい幼馴染みの声がしてくる。
本人曰く俺と遊ぶためだけに存在しているアカウント、おそらく俺とこいつとの間で一番回りに知られてはいけない物……だと思う。
知った途端血涙を流しながら処しに来る男達の姿が見て取れる。
『……またボーッとしてるでしょ?』
『正解』
微かに聞こえるため息。スクリーン越しでも分かる飽きれ具合だ。
『で、あーくん準備できてるの?』
『もち』
『なら許す』
『あざす』
しばしの静寂、聞こえてくるクリック音と少しの生活音。謎の背徳感があるんだよ、こういうの。
『ちなみに遊、事前情報は?』
『まったくもってナッシングであります!』
『よろしい』
事前情報も攻略サイトもなにも無しのゲーム攻略、俺ら二人の間に決められた一つのルールを律儀に守ってくれているようでなにより。
『てかさ!もうリソースダウンロードできたからお先に!』
心地良い静寂を破ってプツンと通話を抜けやがった。……そういう性格なのは良く分かっているししょうがないか、後を追うとしよう。
目新しいパッケージを開いて取り出したゲームカセットをデバイスに差し込む。デバイス特有の起動音が耳をくすぐって、早く早くと心臓の鼓動が早まる。
「結局あいつも俺も、ゲームの事になると同じもんか」
まったく、最近のゲームは進んだものだと良く思う。
身を放り投げるようにベッドに寝転がり、目を瞑れば――
《RE:D1VEシステムへようこそ》
……ゲームの世界だ。体が無い、おそらくオープニング。
目一杯に広がる白が晴れやがて広大な自然が目に見えた。
風が肌を掠めて、見下ろす景色の木々を靡かせている。草原を走る馬、飛び立っていく鳥、まるで生きているみたいだ。
圧巻だ……色々フルダイブVRゲームはやってきたけど、ここまで来たか。
見せつけるように進んでいく景色の全てに現実と差がつかないディティールがあった。
「さすが、最大のオープンワールドと自負するだけはあるな」
草原、ジャングル、砂漠……宇宙?
数多の景色を越えた先は見渡す限りの広大な山脈。
写真で見るのとは非では無い。行ったことないのに、まるで本当に山の近くにやってきたみたいだ。
「……ちょっ!でっか!こわっ!」
先を行った遊はどんなリアクションをしていたのか、横を巨大なドラゴンが一瞬で過ぎ去って視界は巨大な山の神殿へと進んでいった。
「色々言いたいことがあるけど……またすげぇ綺麗だな」
正に女神、遊ともタメを張る程の美貌が神殿を背にして目の前にいた。
さすがバーチャル、反則級の美人を簡単に作れるのはすごいな。気持ちは異世界転生、なろう系ならこの女神様となんやかんやムフフな事があったり……
「おっ?」
仮称女神、は優しそうな表情を浮かべ胸のうちから灯った謎の光を俺に渡す。
なんだこれ……いつの間にか体が勝手に神殿の中へ……!
体が勝手に、扉を開く。
《パンゲイアオンライン》
刹那、大迫力のタイトルロゴと一緒に舞台となるであろう巨大な大陸の地図が写された。
「……いいねぇ、オープニングからすでに面白そうだ」
ゲーム開始と念じればさっきの神殿の内部のような空間に居た。目の前に鏡、良く見慣れた死んだ目の男が写っている。
少し萎えた、かわいい猫の動画を見ていたら終わると同時にスマホの画面に自分のニヤニヤ顔が写っていた時ぐらいには萎えたかもしれないけど。
まあいい。注目すべきは斬新なキャラメイク、リアルタイムで反映される自分の姿を見ながらカスタマイズできるのか。
そもそもフルダイブVR事態決まったアバターしか使えない事が多いし、おまけに種族も選べるとか革命だな。
「人族、獣人族、魔人族、妖精族……なんだこれ、多すぎでしょ」
分かった、これ沼だ。キャラメイクとか言う名前の別のゲームだ。
よし、どうせ遊のやつもここで沼ってるだろうし……ちょっと本気でキャラメイクしますかね
【キャラクター名:Amam1でよろしいですか?】
よろしいよろしい……今何時だ?
まさか容姿決めの後に生い立ちとジョブも設定するとは思わないじゃん?
しかも使う武器種すら選べるんだぜ?おかしい、このゲーム初めっからもうおかしいって。ざっと二時間ぐらい経ってやがる……遊のやつ絶対怒ってるよなぁ……
【メッセージが届きました】
なんだっけこれ、確かデバイスその物に搭載されているフレンドとのメッセージ機能?
フレンドなんて遊くらい……開くのが怖いな。
でも無視するとあいつは更に怒るし……
「――えぇいママよ!」
【件名:ごめん】
マジごめん!今の今までキャラメイクに沼ってた!てかホントヤバいって!種族でもう頭パンクしたのにジョブもざっと数えて50以上はあったんだけど??
「おんなじだな……っと」
鼻で笑うしかなかった。きっと俺達二人はほぼ全てのプレイヤーが通る道を通っている。
早く、この世界を遊びたい。
迷いはなく、準備完了のボタンを押した。
白に染まった視界が瞬時に晴れた、すると一際大きい風が吹いて視界が霞んだ。
こう言うところも再現しないで良いと思うんだけど……初めは横から吹いていた風、何故か背中を押すように吹き始める。
歓迎、みたいなものなのだろうか。徐々に徐々に、体を包むように風が廻り始めた。
「はぁ……?なんだ、これ」
【始まりの街《失楽園ウーヌス》へようこそ】
歴史を感じる廃れた看板にそう書かれていた。人の数がすごい、ゴールデンタイムなのもあるだろうけど。
いや、それを気にしている暇はない。
――圧巻だ
まるで神話の中から飛び出してきたよう。大きい、兎に角大きい。晴天穿つ巨大な林檎の木が、目の前にそびえ立っていた。
オープニングで見たときより、ディティールがはっきりしている。……こんなのもう、リアルじゃないか。
「おーすっご!あーくんも見てるのかな?これ」
……聞き慣れた声、運命。もしくはこのゲームのシステムは相当優秀らしい。
少し笑みが浮かぶ、いまここで話しかけたらどんな顔をするだろう?……少し脅かしてやろう
「よっ――!」
その奇跡のような存在を象徴するように、きらびやかなヘイローが浮かんでいた。
透き通るような黒髪……だったはずの髪の色は文字通り透き通るような白髪になっている。
顔はほぼ現実と同じ、そもそもベースがファンタジー級の美少女なんだから下手に弄る必要はないのも自覚したうえだろう。
いつもはポニーテールにして纏めている髪の毛はふんわりとしたボブになっていて、簡素な作りでしかない初期装備ですら似合ってみえた。
……やってくれるな、このゲームは。
どうやって再現したのかは分からない。
現実でも同じような、甘く甘過ぎない透き通った匂いが鼻をくすぐる。
今なら他の男共がこいつに惚れる理由も分かる気がした。
「ん?――あっ!あーくん!」
白髪を靡かせて、振り向いた。ちくしょう、なんでこんなに心臓がうるさいんだ。
ただ――天使が、そこには居た。
……反則だわ、この可愛さ




